それから私達は三年生になった。
相変わらず先輩とりぃは付き合っていて
何処からどうみてもお似合いのカップルで
その片隅で私は先輩に対する歯がゆい思いをつのらせてしまっていた。

私はりぃに誘われた時だけ
サークルに顔を出した。
自分からは行かない。だって私には似合わないって思ったから。
そんなある日。やっぱいつものように
りぃに誘われて、私はサークルに顔を出した。

「よっ!来たななまえー!」

先輩はそう言っていつも笑ってくれた。

「エース。あんたなまえが来ると嬉しそうだよねー」

りぃが冗談まじりに呟く。
そんなりぃに正直戸惑った。

「ばーか。人数多い方が楽しいだろ?ほらなまえの分!」

そんな私に手渡されたグラスの中には綺麗な色のカクテル。
それを受けとる時、一瞬だけ先輩の指に触れた。
驚いて手を引っ込めれば
ガシャンとグラスが床で散る。

「ご、ごめんなさい!!」

「大丈夫!それより怪我してねぇか?」

この時改めて思うんだ。
私は、先輩が好きなんだって。


それからはカウンターで1人。
目の前に置かれた綺麗なカクテルを
ぼんやりと眺めていた。

「大丈夫か?」

「え、あ!先輩」

そんな私の隣に腰かけたのは、先輩だった。

「浮かねぇ顔してんなー?」

そう言って私の顔を覗きこむ先輩。
改めて見れば、通った鼻筋に
切れ長の瞳。
綺麗な肌に、薄い唇。
なんでだろう?男の人なのに
私より色気がある。

思わず見とれてしまった私は、ハッとして顔を逸らした。
胸のドキドキが半端ない。
このまま破裂して死んでしまうんじゃないかって・・・。

「あはは!なまえ。お前おもしれぇ」

そんな私を笑う先輩は、子供のように無邪気に輝いてた。
りぃはこの人に好きって言ってもらえるんだ。
りぃはこの人に抱き締めて貰えるんだ。
りぃはこの人に愛されてるんだ。
りぃはいいな。

私は初めてりぃをいいなって羨ましく思った。

「そ、そういえば。りぃはどこに?」

さっきから姿が見えないりぃの居場所を聞けば、先輩は辺りをキョロキョロして

「トイレじゃねーの?」

って素っ気なく返事した。

なんか違和感を覚えて、私はトイレに行くフリをしてりぃを探すことに


「りぃー?」

ガヤガヤとする店内の奥にトイレはある。
店内にりぃの姿はなかったから、きっとトイレなんだろうって。
その手前にある店のスタッフルーム。
そこの扉が半分開いてた。
見ちゃいけなかったんだ。
見ちゃいけないってわかってたのに、覗いてしまったそこには

りぃとキスするこの店のスタッフ。

ガヤガヤしてた周りが、遠くに聞こえて
次第に何も聞こえなくなった。
扉越しに、キスするりぃと目があった気がして
その時初めて体が動いたんだ。

それからはよく覚えてない。
飲めないお酒をたくさん飲んだ。
飲んで、飲んで。 心配されるほど飲んで。
ふらっふらになって
気づいたら朝で、知らない部屋に私はいた。

そこが先輩の部屋だって気づくのに時間はかからなかった。
だってソファーで眠る先輩の姿があったから。
自分の姿を確認すれば、ちゃんと服は着てた。


「・・・先輩?」

小さな声で呼んでみたら、眉を寄せて身じろぐ先輩。
そしてむくりと起きて、頭をワシワシ掻くと
にんまり笑っておはようって言った。

「大丈夫か?昨日そーとー酔ってたぞお前」

「ごめんなさい。迷惑かけてしまって・・・」

私は頭をペコリと下げると、部屋を去ろうとした。
私はここにいちゃいけない人間だから。

「見たんだろ?」

そんな私を止めた先輩の声。

恐る恐る振り返れば、先輩は泣きそうな顔して笑ってた。

「俺知ってんだ。あいつがあの店のスタッフとそーいう関係なの」

「・・・」

先輩はそう言って立ち上がると、キッチンに向かい冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと
一口飲んで私に視線を移す。

「正直。俺だって人の事ぁ言えねーんだけどよ。やっぱ胸くそわりぃよな。そーいうのされると」

「な、なんで・・・言わないんですか?」

「ん?言ったってしゃあねぇだろ?あいつは"1人じゃ満足できねぇ"奴なんだ」

なんだか痛い。胸がすごく、痛い。

私はこんなにも先輩が好きで
なのに
りぃは、先輩は・・・。

「好きです」

「なまえ?」

「先輩が、好きです。ずっと。出会った時から・・・」

気づいたら泣いていた。
泣きながら先輩が好きって言っていた。
先輩は驚いたような顔をしてて
私は溢れる涙を押さえるのに必死だった。

ずるいよ。
私はこんなにも先輩が好きなのに。
どうして?
りぃは先輩を離さないの?
先輩はりぃを離さないの?


「ごめん。」

泣きじゃくる私を抱き締めたのは先輩で
それに身を任せたのは私で

気づいたら先輩にキスされてた。
いきなりの事で私は目を見開くが
すぐに閉じてそれに酔った。
先輩の唇は柔らかくて、フワフワしてて
口内を犯す舌は温かく、優しい。
なのに涙は止まらなくて。
これが私のファーストキスだった。




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