それならいっそ、



こんなにも好きになってしまうくらいなら、初めから出会わなければ良かったと、そう思った。

もう2か月。あの人に会っていない。そんなこと今までザラにあったはずだってのに、なぜだか進んでいく秒針が恐ろしいのは、あの人とおかしな関係になっちまったからだ。一度、ふたりきりになったとき、目の前に俺だって一応凶悪な犯罪者だってぇのにルパンルパンってあの馬鹿の名前ばっか連呼しやがって、なんだかそれが気に食わなくて。だから一瞬、少しだけ、からかってやる、くらいのつもりで。
『あんた、男とキスしたことあるのか?』
は、と落し物をするみたいに声を口からこぼしたその人の顔はバカみたいに間抜けで、だけど初めてその人に真正面からみつめられて、俺だけをみてくれて、そんな、ばかみたいにくだらないことで、俺は心底、喜んじまったんだ。
『なぁ銭さん』
あいつが呼ぶみたいに、とっつぁん、なんて言い方はしない。
『俺としてみるかい』
今まで出したこともないような、糖分の強そうな声を出す。無理矢理に口づけるとそのひとは、あからさまに『しまった』という顔をして、俺を引きはがそうと躍起になっていた。舌を絡め取ると、まるでファーストキスみてぇにびびりまくって腰を引いて、慣れない感覚に眉を寄せていた。俺しか知らない表情だと、勝手に解釈し独りよがりに喜んで、俺は唇で弧を描いた。
『やめねぇか!』
そういわれたとき、あの人の瞳が震えているのに気づく。
(しまった)
今度は俺が思う番だった。

俺の右頬を思い切り殴りつけて、その人はその場を立ち去ろうとした。
『待ってくれ!』
立ち止まってくれるわけがない。
『悪かった、ほんとに、すまない、俺は』
何を
どうしたっていうんだ。どうしたらいいのかって、そんなこと。
『…儂はルパンを捕まえる。お前は儂の宿命の男の仲間。それだけだ。』

『っ』
息が止まるのがわかった。
一番言われたくないことを言われた。このひとはきっと俺がその言葉をどうしようもなく恐れていることを知っていた。
『どうした次元大介』
心臓が跳ねあがるのがわかった。
『キスで終いか?』


この、世界一の大泥棒より遥かに意地悪く笑う悪党に、俺は溺れる。















「次元。そこ邪魔」
「あぁ、悪い」
「……」
ルパンの野郎がこっちをみてる。さすがに感づかれたか。
「なーんかあったのけ?」
「いや?なんもねぇから困ってる」
「あらそう。…先手必勝後手大敗よ。」
「残念だが、始まる前から負けてるんでね。」
お前にも、あの人にも。

プルルルッ
ようやく鳴ったか。とため息を吐く。
「でねぇの?」
「でるさ」


答えをくれないあんたが憎い。
俺を好きになんてなりやしねぇくせに、中途半端に期待させて。あの人の引力は、俺には強すぎる。


「もしもし、銭さん…?」

俺を一番になんてしてはくれないこの人の、意地の悪さが俺を掴んで離さない。
呼びかけて返事を待つこの時間が呼び起こす孤独ってやつがどうしても怖い。





それならいっそ、
(このまま返事がないほうが)













 
 



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