赤い首輪の黒い犬。


 



「お前、俺の犬なの?」
「…あ?」







数日前のことだ。ルパンは、とある男に会っていた。
「よぉ大泥棒」
「ひさしぶりだなぁ、コソ泥。まーだしぶとく生きてやがったのか。」
さらりと言い切って、赤い背中の男は椅子に腰をおろした。
「いってくれるじゃねぇか。相棒だった相手によぉ。」
「忘れたな、そんな昔のこと。」
「つめてーつめてー。俺は仕事する度、お前がいたらもっと楽生なのにって思ってたのになぁ。」
「ばーか言ってんじゃねぇ。お前が一人でやるっていいだしたんだろーが。」
「お前についていけなくなったんだよ。お前は俺なんかと組んでちゃいけねーと思ってさ。…ま、お前のほうはすぐ別のを見つけたらしかったけどなぁ。」
「…あぁ、まぁな」
「お前がずいぶん大事にしてるってーから、どんなにいい女なのかと思ったけど、あの黒い殺し屋だとは。さすがに驚いたぜ。」
「うるへーよ」
「まぁ、相棒っていうか…ククッ…悪い…」
男は話の途中で思い出したように笑うと、肩をすくめて謝罪した。
「あ?なんだってんだ、言えよ」
「いや…みんな言ってるぜ?次元大介はルパン三世の黒い忠犬だーってな」
「忠犬んん?」
ルパンはぎょっと目を丸める。
「だってよ、てめぇの言うことならなんだって聞いちまうらしいじゃねぇか、相棒よりか犬よりだぜそりゃあ。」
「犬…ねえ」ルパンは物思いにふけるように天井を見上げ、帽子の男を思い出す。忠犬、というよりは反抗的な狂犬だった気もするが。







本日の朝。
「…っふぁあ…」
俺はかけらの躊躇いもなく大きなあくびをして、まなじりにうっすらと涙を浮かべながら体を伸ばした。
「でっけぇ口だな、そら、飯できてんぞ」
「ん…」
ため息をつきつつ現れた男は、エプロンの紐をほどきながら俺に声をかけた。俺は小さく頷くと木製のテーブルへとむかい、ソファにどすりと体重を預けた。卓上に並べられた少し遅めの朝食。きらきらと輝く白米、嗅覚から胃袋をくすぐる秋刀魚の塩焼き、豆腐とワカメの味噌汁、極めつけに大きめに切られた野菜がまぶしい肉じゃが。ぐぅうう、と胃が歓喜に揺れた。
「お前ほんと料理うまいのな」
「誰でもできるぜ、こんくらい」
「誰でもじゃねぇさ」
次元はエプロンを軽くまとめると、俺斜め前の席の背もたれにそれをかけて、俺の正面の椅子に腰をおろした。まぁ確かに、見た目通りの味なら普通に近いのかもしんねぇけど。ずずっと吸い込んだ味噌汁はぶわぁ、と柔らかな白味噌の香りが鼻をくすぐり、型崩れしていないきれーな豆腐は口の中でほろりとほどける。大豆さんのぱわーが全身かけめぐって目が冴える。単純に言えばうまいってこと。簡単に目尻が下がる。
「っはー…んまい」
「特売の味噌と特売の豆腐ともらいもんのワカメだけどな」
笑みに肩を震わせながら次元は俺が食べるのを見てる。並べられてんのは俺のぶんだけだ。
「…次元、これからも毎朝俺のために味噌汁作ってくれよ」
「………」
ぱちくり、と見張られた次元の目と視線がぶつかる。
「…………馬鹿、じゃねぇの…」
本当に恥ずかしかったのか後半につれてしおしおと音量が小さくなってく。顔反らしたせいでちらりと見えた左耳は真っ赤だった。
(かーわいいの)
ごっくん、と飲み干してしまうと、箸をテーブルに置く。
「次元ちゃん」
「…んだよ」
なぜかちょっと拗ねてる次元をじぃっと見つめた。
「あーんして」
「は!?」
「俺様お疲れだからあーんして貰わないと食えないんだって」
「今食ってたろうが!」
「汁物は別ー」
なんだよそれ、とかなんとかごにょごにょと言いつつも、俺が置いた箸を自分で掴んだ。
「何がいいんだよ」
「何でもいいよ?絶対全部うまいし」
「…じゃあ、肉じゃがで…」
うれしいやら恥ずかしいやら、いろーんな感情が入り乱れちゃってるらしく、次元のやつはうつむいてばっかし。
「ほら、口開けろよ」
あーん、と次元の言う通りにする。したがってやってんのに、なんか不満そう。ぱくついたそれは想像通りに美味で。
「んまいっ」
「っ」
まぁた顔赤くしちゃう。
(犬か?)
まぁ、俺の言うことならなんでも聞いちゃうけどね。次元は。
「…なに、笑ってんだよ」
「んふふふ、別に?」
「…ちっ」









本日の夜。
「…なに?次元」
扉の前で10分くらいうろうろしてるそいつに、部屋の中から声をかける。
「っ…いや、べつ、に」
「なんにもないわけないよね?」
仕事のためのプリントの束を机の上に投げて、くわえていたタバコを吸殻の山に押し込んだ。ぐーっと伸びをしながら椅子に体重を預け、返ってくるはずの返事を待った。
「………いい」
「は?」
「なんでもねぇ」
次元が駆けていく音がした。もーあいつは、なんつーか天の邪鬼っていうか、素直じゃないっていうか。椅子から跳ね起きた俺は扉まで3歩で走る。部屋が狭いんじゃなくて俺様の足が長いんだからね。そこんとこ重要。
「次元!」
ドアを勢いよく開くと、少し離れたところに丸まったグレーの背中があった。俺の声で足を止めたのにこっちに振り向きはしない。ご機嫌斜めかな?
「…次元」
甘い声で囁くように呼ぶと、あいつは素直に俺の方を向いた。
「来な」
「……ん」




キスを仕掛けたのは次元の方だった。
「んっ…ちょ、次元…っ」
「…っ…ルパン…っ」
強引にしがみついてくる次元は、俺の眼鏡がかしゃりと悲鳴をあげてもお構い無しに口づける。椅子に座ったままの俺は身動き取れない。あーそういやここんとこ手ぇだしてなかったかも。ぐいっぐいって腰を寄せてきたりなんかしちゃって、あらあら発情期丸出しよ次元ちゃん。

「っちょ、待てって次元っ…!」

ぴたりっと次元の動きが止まった。
(あらま)
「…っ」
頬を鮮やかな桃色に染め、うるりと瞳を滲ませて、俺の命令通りに動く。
(あぁまぁ。犬っちゃ犬か?)
「ルパン、…怒った、のか?」
「え?何で怒るの?」
「だ、って、俺が、…調子に乗って…」
しゅん、と見えない耳を垂らす。あーれま、いつからこんなにかわいくなっちゃったんだっけねぇ。
「怒んないよ、びっくりしただけ。」
「本当か?」
「うん」
にこり。俺が笑うと次元はほっと胸を撫で下ろして、すっごい至近距離で俺の顔をじぃっと見つめる。あ、次の俺の指示をまってんのか。
「なに?」
「っ…別に、」
顔を軽く傾けて見つめかえすと次元の頬が赤く染まって、目をそらされた。素直じゃねぇの、と思いつつ女みてぇにしなる腰に手をかけて、強引に引き寄せる。わっ、と気の抜けた声を漏らした次元はあとから俺を睨みつけた。
「じーげん」
「っ」
これ以上ないくらいに顔を寄せて、触れるか触れないかのぎりぎりで名を呼ぶとたまらなくなった次元は俺の唇を視界に捕らえて離せなくなる。ご褒美が目の前にあるのにお預けくらってる忠犬みてぇな目。
「どったの?」
「どうも、しねぇよ…っ」
嘘つき。心臓の音すげーっつーの。
「は、離せ」
(え、ちょっ)
ここでストップかけられんのは俺もつらいんですが。
「ごめんごめん、もう意地悪しないからさ」
また笑いかけてやると、次元はほっとしたっていうみたいに目じりを垂れさせて、俺が薄いその唇に自分のそれを寄せるときゅう、と目を瞑る。ぴく、ぴく、といちいち体を震わせながら中学生みたいな幼稚なキスをして、ねじ込むように唇の隙間に舌をやったら次元は少しだけ口を開いて、舌を出した。っん、と呼吸に詰まるように喉を鳴らして、俺の肩にやった指が小さく揺れる。慎重に慎重に、少しずつ少しずつ。俺の機嫌を損ねないように必死。
「っ次元、舌、出して」
そういうとなんでだよ、みたいな顔するくせに3秒もすれば俺の言った通りにした。ゆるいキスの繰り返しが次元にスイッチ入れちまったみたいで、舌をだしたままはーはーって肩を上下する。あらら、ほんとに犬みたい。
「ん」
次元の舌をゆるく絡め取って、くちゅ、って音をわざと大きく立ててから、いつもより強めに歯をたてるとびくって跳ねた。
「っん…んん、ん」
腰に回した手に力こめてぐいぐい引き寄せると、次元も自分から舌を絡める。

「っなぁ次元…?」

深い口づけのせいで荒くなった呼吸に伴う吐息。どっちが息してんのかわかんなくなっちまうくらいの距離。
「どうして…欲しい?」「ど、どうって…なん、だよ…」
目を伏せる。
「さぁ…なんでしょ?」
「何っ…ぁっ…」
存在感を示してる次元の胸の先をぷちゅ、とシャツ越しにつぶすと鼻にかかった甘い声が漏れる。俺の右ひざをまたぐような次元の足の間のものもぴく、ぴくと反応を示した。は、は、って細かい呼吸を繰り替えす次元の耳にねっとりと舌を絡めて、右手で敏感な胸を弄る。
「っ…ふ、ぅっ…」
俺の唾液で濡れそぼる右耳からぴちゃぴちゃと卑猥な水音が響いて、次元は一生懸命唇をかんで声を堪える。それ見てたら虐めたくもなるでしょうーよ。左手を次元のお尻にやっただけで「うぁ、」って素丸出しのふぬけた言葉を落として、肉なんかほとんど尽いてないちっちゃなそれをやわやわと揉みこむ。ちらりと盗み見た次元のそれは苦しい苦しいって叫ぶみたいに自身を主張してて、あーあ、かわいそ。
「るぱ、っん…んっ…も、いぃ加減、にっ…」
「いい加減?なに?」
とぼけたふりをして、次元の言葉をスルーしつつ、足広げてるせいで無防備な後ろにぴたりと指を合わす。しゅっ、てスラックスがすれる音を立てながら、何度も何度も行き来して、ぐりぐりして、中に入れない指先で刺激してやった。
「ふ、あ、っ…!っそ、れ、それ、嫌だ、っんん…!」
びくって腰をひいちゃうけど、そんなことじゃ逃げられるわけもなくて。

「次元…どうして欲しい?」


「それやめっ…苦しい…っ」
言葉通り次元の前はぎちぎちで。
「うん、…で?」
べろり、と耳を舐めあげる。
「で、って、なんだ、よっ…んく…っ」
「で。どうして欲しいの?やめてほしいの?ちゅーもおさわりもぜーんぶやめちゃって、次元をこの部屋から追い出したらいい?」
「や、嫌だ…っ」
ほんとのほんとに嫌みたいで、離れないっていうみたいに俺の肩を握りしめた。
「じゃあどうして欲しいか言ってみ?」
「言わなくても、わかる、だろっ…」
「わかりませーん」
「ッこの…調子に乗るなっ…」
っていいつつ、もうふらふらじゃないの。さっさといいなさいって。
「次元」
「っ…ルパ、ン…」
まるで俺に名を呼ばれたら呼び返すのが決まり事みたいに次元はためらいつつ俺を呼んで、じぃって見つめるとさらに赤くなった。


「脱がし…て、くれるか」

「任せなさい」
ったく、強情なんだから。

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