▼03. 1/2


あれから数日。私名前は忙しくも充実した日々を送っていた。

実はあの日、私の目的は8割方達成していたのである。
というのも、峯さんがお手洗いへ行っている隙に、酔ってご機嫌な大吾さんに連絡先を聞き、便乗して峯さんの連絡先も聞いていたのだ。

まだ峯さんへ連絡はしていないので、私が彼の連絡先を握っている事は知らないだろう。
知らない筈だ。大吾さんからその報告は受けていないのだから。
大吾さんには翌日お礼と称してメッセージを送り、それ以来頻繁に連絡を取る所謂メル友という関係になっていた。
はじめは、やけに協力的な姿勢を見せる大吾さんに、罠かと思っていたのだが、よくよく聞いてみると、
"峯は放っておくと女性との付き合い方を忘れそうで心配だ"
"最終的に嫁が欲しくなったら『そこら辺の女と契約書交わして結婚してきます』なんて言いそうだから、お前が定期的に峯と接してやってほしい。"
との事だった。

いや、大吾さんの峯さんへ対する認識が、どう見てもAIに対する言語学習機能強化目的のソレなんですけど。
"これが……愛?"とか言いそうって事ですか??ウケる。

そんなこんなで、大変強力な助っ人を手に入れた私は、わざわざ自分で調べなくても峯さんの近況が手に取るようにわかる仕様になっていた。
仕事が忙しく、峯さんのストーカー行為も儘ならぬ状況だったが、大吾さんからのありがたいリークが私の生活を潤している。
まじ6代目ぱねぇっす!一生ついて行きます!!

ただし、
"お前が付き合えるかどうかは知らん"
との事だ。
なぜそこはドライなのか。


そしてついに、やっと代休と普通の休日と有給で10日程休みを頂けることになり、私は意気揚々と休日を謳歌しに行くところである。
特に何もなく10日も連休取れるのかって?
どれだけ休みがなかったかって事よ。期限ギリギリの代休達よ。察しなさいよ。

とは言っても、しっかり休めるのは3日だけで、残りの7日は別件がある為休む事は出来ないのだけれど。
そう。父親からの"お願い"である。
休みの日にまで医療に従じるなんて、なんて勉強熱心な女なのかしら。正直大学病院辞めたい。


閑話休題。


そんな私は、1日目の休みを使って朝から港区へ来ていた。
白峯会事務所探しである。

生まれも育ちも神室町な私は、高級住宅街もビジネス街も港が一望できる景色も、どれをとっても不慣れな為、終始辺りをキョロキョロしている不審者状態だ。
神室町はもっとごみごみしててやばい大人の天下一武道会みたいなところなので、こんなおしゃれな街私知らない。港区怖い。

血統書付きっぽい犬を優雅に散歩させるスポーティなおばさまと何人もすれ違い"わんちゃんかわいーーーー!!"なぁんて現実逃避するくらいにはもう疲れていた。

このおしゃれな街に峯さんは馴染んでるでしょうね。港区って顔してますもん彼。
でもまさか構成員までそうとは限らないでしょ。浮いちゃうでしょ。私より場違いでしょ。大丈夫なの?と、自分のことを棚に上げて内心悪態をついていたが、そろそろ現実と向き合う時が来たようである。

実を言うとさっきからずっと迷子でした。
ここが何処なのかわかりません。港区って事はわかってます。
大吾さんから事務所の場所を教えてもらったまではよかったものの、肝心の私が生粋の方向音痴なので、情報が意味をなしていないのだ。
地図ってどうやって読むんですか?地図の上が北でも目の前の道が北とは限らないでしょ?

そろそろ足も心も疲弊してきたところで、前方に回復の泉もといおしゃれな喫茶店を見つけた。
た、助かった……!!!


扉を開け、店内を見回し空席を探していると、会いたくて会いたくて痙攣しそうなほど恋焦がれていた彼の姿が視界に入った。
ついに幻覚が見えるようになったのかしら私。

一度頬を軽く叩くがしっかり痛い。痛いし峯さんの姿もそのままだ。うん。現実っぽい。
平常心を装いながら入り口で注文し、札を貰うと峯さんの席へ近寄ってそのまま峯さんに抱き着いた。
泣きついたの間違いである。

「うぇっ……峯さぁあん……!!!」

「………!!!!………は??」

峯さんは手にしていた資料を持ったまま固まっている。
人は想定外の事が起こると硬直する生き物なのだ。私もさっきそうだったし。

この前のように引っ叩いて無理矢理引き剥がすことも出来ただろうが、周囲の目がある上あからさまに様子のおかしい私をぞんざいに扱うのもいかがなものかと思ったのだろう。
軽く頭をポンポンと叩いて
「……なんでここにいる」
と言った。

優しいなぁ。

軽く泣きつくつもりが、自分が思っていた以上に心細かったのだろう、涙が止まらなくなってしまい、言葉が出てこなかった。
うぐうぐ泣いている私の様子にただ事じゃないと思ったのか、峯さんは深くため息をついた後、私が入れるスペースを開けて隣に座らせてくれた。


しばらくして店員さんが商品を持ってきたのだが、泣いている私の頭を撫で続ける峯さんという奇妙な状況に困惑していたのは言うまでもない。
まさか20過ぎの女が迷子になって心細かったから号泣しているとはこの2人は露程にも思っていないだろう。小学生でもあるまいし。


10分くらいそうしていたか、やっと涙も止まり、落ち着いてきたところで峯さんから
「……そろそろ話できそうか?」
と聞かれた。

もう少し頭撫でてもらいたいし嘘ぶっここうかなぁなんて邪な考えが頭をよぎっていたのを察したのか、軽く頭をチョップされた。
何故バレたし。

「うぇっ……!!もう大丈夫です……ありがとうございました…」

鼻を啜りながら先程までの状況を説明すると、峯さんは心配した表情からイラついた表情を経て、最後は呆れ顔になっていた。
一回で色んな峯さんの顔が見れて幸せ者だなぁ。

「……で。何故事務所の場所を知っている」

「あぁ、それは大吾さんが……あ。」

やばっ。大吾さんとメル友なのこの人知らないじゃん。
大吾さんの名前を出した瞬間、峯さんが私の肩を勢いよく掴んだ。反射神経やっば。大吾さんの言う通りそういう風にプログラムされてるロボットなんじゃないかこの人。

「その話詳しく教えろ」

とても言い逃れできる状態ではなさそうです。

肩を掴まれ、目を離す事すら許されない状況の中、大吾さんとメル友である事、大吾さんから"峯と仲良くしてやってくれ"と頼まれた事、事務所の場所を教えてくれた事をかいつまんで説明した。

「ーーーーーそんな感じです。」

「嘘だろ……」

峯さんは肩から手を離し、自分の頭を抱えて机に突っ伏した。見るからに頭を抱えている。

「私が言うのもあれですが、峯さん苦労してますね」

「ほんとうにな」

「ところで峯さんはどうして此方に?」

仕事をカフェで行う人間は珍しくない。だが、極道関係となると話は別だ。社外秘が殆どだろうし、峯さんの立場的にも事務所の外でできる仕事の方が少ない。

「仕事の帰りだ」

こんな朝早くからヤクザの仕事で外出する機会は少ない、もしそちら関係だったとしてもこの時間に戻ってくる事は厳しいだろう。よって昼間の仕事だろうとあたりをつけて質問した。教えてくれるとは思ってないけど。

「なんの仕事なさってるんですか?」

「IT関係だ」

「範囲が広いなぁ」

教えてくれたが、あまりにも範囲が広過ぎてよくわからなかった。今の時代インターネット関わってない仕事の方が少ないよ…。

「それでこれからどうするつもりだ」

「峯さんの事務所探しに行こうかと」

「俺が連れて行かないのを理解した上で自分で探そうとしているな?」

「よくわかってらっしゃる」

連れて行ってくれるならそれに越した事はないんですけどね。まあ無理でしょう。なら自分で探すしかないじゃないですか。

私の気持ちを察したのか、はたまたもう諦めたのか、どでかいため息を吐いて"わかった。連れて行ってやる"と言った。
わぁい!






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