仕事を終え帰宅した私は、自室を見て呆然としていた。

「は……??」

帰宅したら部屋が血だらけだった。


もう一度言う。
部屋が血だらけなう。


私が留守の間にこの部屋でデスゲームでもしました?レベルで床と壁に血の手形、足跡がくっきりと残っていた。
殺人鬼に"ターゲットが逃げ回るもんだからよぉ!ついバイブス上がっちまってな!!がはは!!"とか言われても納得する。そんな感じのちょっとしたスプラッター映画でよく見る一室みたいになっている。

いやいやいや。デスゲーム主催者にも殺人鬼にも私の部屋貸した覚えないんだけど?????なにこれ???



床の血を踏まないように電気のスイッチまで歩いて行き、リビングの明かりを付けたことで、余計はっきりと浮かび上がった不釣り合いな赤に眩暈がする。

同時にリビング奥、場所で言うとお風呂場の方からザアザアとシャワーを浴びる音もはっきり聞こえるようになり、私の部屋を事故現場にした犯人がいま何処にいるのかも判明した。


いやね、わかってたよ。
こんなことするやつは1人しかいないって知ってたよ。つか居てたまるか。
"敷金返ってこないよなぁ……その前にこの部屋で寝たくないなぁ……。"なんて現実逃避をし始めたところで、シャワーを浴びていた犯人は、家主の帰宅に気付いたらしく風呂場の扉を開けてリビングへ這入ってきた。

「お!!名前ちゃんおかえり!!!」

「まずは服を着ろ!!!!!」

全裸びしょ濡れで出てきた犯人、西谷誉を見て、間髪入れずに怒鳴りつけた。
部屋汚した挙句、汚ねぇもんぶら下げて出てくんじゃねぇよいい加減にしろ。

「いきなり怒鳴らなくてもええやん」
"こわぁ"と、間延びした声で言う相変わらずフルチンのヤクザに呆れて言い返す元気も無くなってしまった。
お前には部屋中にべっとり付着した血が見えないのか??


"ところでさ、色々言いたいことと聞きたいことあるんだけど。"と、前置きをしてから
「あんたどうやって入ってきたわけ?」

と、聞いた。

そう。
そもそも私はこいつに合鍵は渡してないし、入る許可すら与えていない。なんならこの前出禁にしたはずだ。
出かける前に鍵が閉まってるかも確認しているので掛け忘れでもないし、先ほど入ってくる時も普通に解錠出来たので破壊して入ってきたわけでもない。勿論窓も割れていない。
考えられる事は一つしかないのだけど、脳みそがどうしても本人の口から聞くまで信じたくないと言っていた。


「そんなん合鍵つこて入ったに決まっとるやん」

…頭痛くなってきた。
"(勝手に)合鍵(作ってそれ)つこて入ったに決まっとるやん"
である。
決まってねぇんだよいい加減にしてくれ。


というか。入居する際に鍵は一つしか受け取っていないのに、いつ作る暇があったと言うのだ。
いつだ……一体いつやられたんだ……ダメだ記憶にない。

「じゃあ部屋中に垂れてるこの血は何」

考えてもわかりそうになかったので一旦考えるのをやめて、この惨状について説明を求めた。

「蒼天堀歩いとったら抗争に巻き込まれてなぁ、遊んでたら血でべとべとになっただけやねん。あ。もしかして名前ちゃん、わしの心配してくれたん?」

え?抗争ってそんなお手軽な感じでやるもんだったっけ?とか、抗争で遊ぶって表現は正しかったっけ?とか、言いたい事しかないんだけど。それよりも。
そんなことよりも1番最初に言わなきゃいけない、聞き捨てならない台詞が混ざっていたので全部吹っ飛んでしまった。

「誰がお前の心配するか!!!」

私がするのは部屋の心配だけだわ!!!
主に敷金が返ってくるかについてだけだわ!!!

「誉ちゃんは強いから怪我の心配なんかする必要あらへんって事かいな。はぁー!!わしってば名前ちゃんに信頼されとる幸せもんやなぁーー!!」

「……」

こいつは脳みそに優秀な脚本家でも飼っているのだろうか。
呆れ過ぎて言葉を失ってしまった。

…ダメだ。面倒臭くなるとツッコミ放棄して黙っちゃうのそろそろやめた方がいい。そうじゃないと目の前のこいつはどんどんつけ上がってしまう。
でも私東京生まれ東京育ちなので大阪のノリよくわからないんですよね。これが普通なんですか??蒼天堀ジョークってやつですか??やだ怖い神室町に帰りたい。


「名前ちゃんどしたん?」

黙った私を不思議に思ったのか、血を踏まないよう気をつけながら近寄ってきた西谷は相変わらず全裸だし、話通じないし、部屋は血だらけだしで。
何もかも嫌になった私は、机の上に転がっていた西谷愛用のドスを手に取り

"今すぐ血拭いて合鍵置いて出てってくれ。頼むわ"

と言っていた。


後日、里村さんが札束と物件のチラシを複数枚持って、胃を押さえながら謝りに来たのは言うことでもないだろう。


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