※風俗嬢主です。致している描写はありません。
・5の辰雄の最後色々捏造してます。
・書いた本人が何をしたかったのかわかってないタイプの話です。鬱寄り





「名前ちゃん今日も可愛いねぇー!」

「えへへ。たっちゃんありがとう」

にこにこと効果音が付きそうな人懐っこい笑みを浮かべながら、私を褒めつつ色々な角度からカメラを向ける彼は、風俗ライターの品田辰雄である。
誰にでも優しく外交的な彼は、周囲から"たっちゃん"と呼ばれ、どこか憎めないその姿に皆絆されていくのだった。
かくいう私も、"風俗誌の特集に是非私を"という彼の頼みを承諾し、現在取材を受けている。
裏表のない彼の誉め言葉に乗せられて、いかにして可愛く撮ってもらえるかを考えながら、ベッドの上でポーズを取る私も大概単純である。



私は風俗店で働くしがない風俗嬢だ。
風俗と聞くと如何わしいお店と一蹴されがちだが、それ以外の目的で来店するお客さんも少なくない。本番できないお店が9割だしね。
なので、私達に求められるスキルは、お客さんの"心と体を癒す事"となるわけだ。

大層なことを言っているなと私も思う。
男に騙され普通の仕事では返せないほどの借金を背負っている私が。
高賃金であるはずの風俗業ですら生活が厳しく、毎日の出勤を余儀なくされているような私が。
お客さんの心と体を癒す??
自分の心もまともに癒やせていないのに??
自分の体もまともに休ませてあげられないのに??
馬鹿らしいとしか思えない。

それに。
私がこんな生活をする原因となった"男"を"癒す"仕事だなんて、皮肉にも程がある。



知らず知らずのうちに暗い顔をしていたのだろう。たっちゃんはいつの間にか写真を撮る手を止め、心配そうな顔でこちらを見つめていた。

「名前ちゃん、もしかして今日疲れてる??」

カメラを脇へ置き、ベッドのすぐ下まで近寄ってきたたっちゃんは、小首を傾げる様なポーズのまま、ベッド上の私を見た。

「んーん。そんなことないよ。今日はたっちゃんに会えるの楽しみにしてたしさ。色々考えてたらちょっと嫌なこと思い出しちゃっただけ」

彼に会う事を楽しみにしていたのは本心だ。
たっちゃんは私がこの店に来て1番初めに付いてくれた大切なお客さんである。
初めての業界で右も左もわからず、サービスもぎこちなかった私を"この業界のことなら任せて!"と、無邪気な笑顔で安心させ、優しくリードしてくれた。
今思えばドヤ顔して言う様な内容では到底無かったけれど、あの頃の私にとってそれがとても頼もしく救いだった。


「そっか。生きてると色々あるもんね」

こうやって深い所までは決して踏み込んで来ない、彼なりの優しさも私にとってはありがたかった。
本来なら私が聞き手に回らないといけなのだけど、たっちゃんを前にするとどうしても新人だった頃の名前が出てきてしまう。
"もう2年もここで働いてるのに不甲斐ないなぁ"と思いながらも、たっちゃんの優しさに触れるとつい甘えたくなる。
今日は本当にダメな日みたいだ。
でもたっちゃんは多分許してくれるだろう。


「おわっっ!!名前ちゃん?!?」

私を心配そうな顔で見つめていた彼目掛けてベッドの上から上半身を伸ばす形で抱きついた。

「ごめんたっちゃん。少しこうさせて」

少々勢いを付けてしまったせいで、彼は少し背後にのけぞったけれど、体軸が安定しているのかひっくり返ることなく受け止めてくれた。

"名前ちゃんは甘えん坊さんだなぁ"なぁんて言いながらよしよしと頭を撫でてくれる彼の逞しく温かい手が本当に好きだ。




しばらく抱き合ったまま撫でてもらっていたが、突然彼の手が止まった。
思わずたっちゃんの顔を見ると、彼は深刻そうな顔で私に言った。

「ごめん名前ちゃん。勃っちゃった」

そんなことを真剣な表情で言う彼に思わず吹き出してしまった。
これだから彼のことは憎めない。

「うふっっ……ごめ……わかったわかった。今日もいっぱいサービスするね!」

「まーーってました!!」

もうこれでもかと言う位、ない筈の尻尾が喜びを表す様に左右に振れている幻覚が見える位、たっちゃんは喜んでいた。素直過ぎるほどにわかりやすい彼の感情をダイレクトに受けて、こちらも釣られて嬉しくなる。






サービスを一通り終え、スッキリしたたっちゃんと、ベッドの上で2人横になっていると、ふと。たっちゃんが私の方を向いて言った。

「…もしさ、このまま一緒に誰も知らない街に行こうって言ったら、名前ちゃんは付いてきてくれる?」

たっちゃんは、今まで見たことのない真剣な面持ちで私の答えを待っていた。

「ちょっと急にどうしたの?……でもそうだなぁ。それ、良いかもね。この街には借金で縛り付けられてるけど、全部終わったら私の事だーれも知らない街でのんびり暮らしたいなぁ。」
"隣にたっちゃん居たら安心だしね"と、続けたら、彼は少し悲しそうな顔をして笑った。

「名前ちゃんも借金あるのかぁ。」

たっちゃんに借金があるのは、この街で彼と関わりのある人ならば皆知っていることなので、彼の"名前ちゃんも"という言い方は適切である。
流石にいくら借金があるかまでは知らないけれど。

「そりゃあそうよ、じゃなかったら毎日出勤しないで適度に体休めてるよ」

2年の間で私が休んだのは30日にも満たない。そうまでしないと返しきれない額の借金を背負わされているのだから仕方ないのだけど、そんな事を知るはずもないたっちゃんは、"予約したい時にいつもいるなぁ"くらいにしか思っていなかっただろう。

「それじゃあさ。いつか借金がチャラになったとして。その時一緒に知らない街へ行こうって約束、俺としてくれる?」

「いいよ、約束する」

そんな来るかもわからない未来があるなら、その時は優しいたっちゃんと新しい生活を送るのも悪くないな。と、思ってしまった。
元彼には散々酷い目に遭わされたけれど、目の前でふにゃふにゃと子供みたいに純粋な笑顔を向ける彼ならば、もう一度信じてみても良いかなと思えたのだ。
だから、こんな夢みたいな話だけど、そんな日が来たらいいなという希望も込めて二つ返事で頷いたのだった。


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