「そういえば大吾。今日はさ」

昼時、普段は忙しい東城会6代目様様の貴重な休日にご相伴与らせて頂いている大変幸福な私名前は、神室町にある某カフェでパフェを食べながら、目の前で珈琲を優雅に啜る6代目様に声を掛けた。

そうですよ嫌味ですよ。

私の職業はしがないエンジニア(よろしくない方)である。
よろしくない方と言えば大変に聞こえは良くないけれど、よろしくないのだから仕方がない。
天下の取締行政様である警察とは所謂犬猿の仲というやつだ。
たまに道を外れた行政様がお客さんとしてやっては来るけれど、基本はヤの付く自由業を相手取ったお仕事をしている。
仕事内容を一言で言い表すならば、ちょっと知りたいなぁって個人情報をちゃちゃっと取って来てやり取りする。そんな感じである。
まあ、賽の河原のフロントみたいなものである。

そのお得意様でもある目の前にいる彼、堂島大吾君とは賽の河原総括である花屋の紹介で知り合った。
"お前ら歳も近いんだから仲良くなれるだろ"なんてお節介を働いたクソ狸のせいで繋がらなくてもいい繋がりが出来てしまったのだった。
あのジジイ、最近仕事多くて手が回らないからって体よく押し付けただろ。そういうとこだぞ狸め。

そんなわけのわからない繋がりから早1年が経過した今日この頃。最近では休日に"暇だから遊び行こうぜ"と誘われる程度の仲になってしまった。

"お前は暇かもしれないけどな、私は仕事があるんだよ。"とも言えないのである。悲しい事に『取引先様は大切に』という奴隷気質のお客様至上主義な日本人の性分がここで発揮されてしまったのだった。

仕方がないので今日も今日とて大人しく呼び出されてやったわけだけれど、指定されたカフェへ付くなり終始無言でコーヒーを飲むこの男。一体何なんだろうか。
もしかして普段護衛が沢山付いているから1人が寂しいタイプの人??それならあのロボットみたいに血の通ってなさそうな見た目した、堂島大吾同担拒否の会長さん呼んだらいいと思うんだよね。あんたに呼ばれたら無い尻尾はちきれんばかりに振りながら瞬歩使って来るだろうよ。

そんな沈黙に居た堪れなくなった私が声を発したのが先程である。

「なんだ?」

コーヒーカップを机の上に置き、私の言葉に耳を傾けるように顔を上げた彼は、不思議そうな顔でこちらを見つめて来た。
その一つ一つの動作がとても様になっていて、悔しいけれど見惚れてしまった。
くっっそ。顔だけは好みなんだよなこの男。

「今日はどういったご用件で呼び出されたんですか私は。」

集合してからずっと疑問だった台詞を吐いてみたわけだが、彼は再度不思議そうな顔をして首を傾げた。
所謂"大吾よくわからない。"という顔である。
わからねぇのは私だよ。

「いやね、そんなあんたの休日に毎回呼ばれて無言決められてたら私も困るんだよね。せめて要件を言ってくれないかな」

平然を装って会話を続けているが、私の拳はイラつきを隠せず無意識に握り締められていた。
体は正直である。

「好きな女に会いたいって思っちゃいけねぇのか?」

さも当たり前かのように紡がれたその言葉に、今度は私が呆ける事になった。
え?なにあんた私のこと好きなの?

「は…?え、…いつから」

「道で見かけた時から」

ごめんね。何を言っているのか理解出来ない。
こんな図体のでかいヤクザ街で見かけた記憶すらないんだよね。

「偶然お前がヤクザ相手にメンチ切ってるとこ見かけてな。助けに入ろうかと思ったらボコボコにしてたんだよ。それでーーーー」

なるほど。
つまり。仕事で不誠実な態度を取りやがった取引先様を私がボコボコにしてるところを偶然見てしまった大吾くんは一目惚れ。私の"仕事頼むなら最後まできっちり筋通せや!"って捨て台詞を聞いて、恐らく同業者もしくはそれに準ずるものだとあたりを付け賽の河原に身元を調べさせたら身内だったから紹介して貰って今に至る、と。

いつから賽の河原はマッチング事業も始めたの?狸じゃなくて狐かよあのジジイ。

「そういうわけだから」

「急にそんなこと言われても困る」

そんなこと言われても困る。
だって私にとって大吾はただの取引先だもの。
"それに今までそんな素振りなかったじゃない。"と続ければ、大吾は困った顔をして溜息を吐いた。
溜息吐きたいのは私だよ。

「結構色々やって来たと思ったんだがな……まさかここまで響いてないとは思わなかった」

彼曰くプレゼントを渡したり食事に誘ったり、休日に遊びに出かけたりと色々手を尽くして来たらしい。
それが全て恋愛感情からの行動だとは誰も思わないだろう。最近の中学生の方がもっとストレートな表現するよ。恋愛初心者なのかな???

"あくまでも友人関係であり、取引先でもある大吾からのプレゼントや会食となれば報酬の上乗せ程度の認識だし、遊びに出かけるのは友人としての交流だとしか思っていなかった。"
と、素直に答えれば、再度溜息を吐かれた。

「それじゃあこれからはそのつもりで俺の誘いを受けてくれよ」

そう言い残して彼は伝票の上に2人分のお金を置き、店から出て行ってしまった。

1人残された私は呆然としながら彼の背中を見送るしかなかった。


え?手始めに着信拒否にでもしたら良いですか???
その前に花屋を真っ赤な花に染めるところからかしら。


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