『今日は私達のコンサートに来てくれてありがとうございます』
テレビからは今流行りのアイドル、澤村遥とT-SETのユニット、DREAM-LINEのLIVE映像が流れている。
今日は流石に働く気になれず休みを貰ったけれど、特にやる事もなく、たまたまテレビをつけたらやっていた。ただそれだけなのだが。
画面の中の彼女達はとても輝いていて、対照的な自分の姿に余計泣けてきた。
番組を変えるか電源を切ってしまえばこの言いようもない感情からは解放されるのだろうが、何故かそれはしちゃいけない様な気がした。
約1時間位ぼーっとテレビの中で輝く少女達の姿を眺めていると、携帯が点滅しながらテーブルの上で震えているのが目に入った。その画面には"たっちゃん"と表示されている。
驚きのあまり床へ1度携帯を落としてしまったが、急いで拾い上げ、震える指で通話ボタンを押し、恐る恐る耳に当てた。
「た、っちゃん… ?」
彼の名前を呼ぶと、先程まで泣いていた様な掠れた彼の声が聞こえてきた。
「…名前ちゃん。」
「たっちゃん!!!ねえ、今どこにいるの?!?聞きたいことも言いたいこともたくさんあるんだよ!!なんで突然居なくなったの?!?」
すでにキャパオーバーしていた私の感情はもう爆発寸前で、矢継ぎ早に彼を問い詰めてしまった。
「ごめんね。色々あってさ。でも、終わったから。その説明は今度するよ。……あの、さ。この前の約束覚えてる?」
途切れ途切れなのは電波のせいなのか、はたまた泣いているのか、彼の声は変わらず掠れ震えていた。
「覚えてるよ!!!ちゃんと覚えてるから!!だから怒ってるんだよ?!借金が無くなってもたっちゃんが居なかったら嬉しくないし!! 約束守りたくても肝心のたっちゃんは居なくなっちゃうし!!!私どうしていいかわかんなかったんだから……!!」
彼の声に釣られて気付けば私も涙声になっていた。
「ははっ… よかったぁ。」
私の言葉に安堵したのか、彼は"ありがとう。近いうちに迎えに行くね"と、言うと電話を切ってしまった。
まだまだ話したい事は沢山あったけれど、彼が今どんな状況なのかも分からないし、とてもじゃないけど我儘は言えなかった。
"迎えに行く"その言葉が聞けただけで今は満足だ。
数日後、高杉さんや名古屋組の人達に顔を見せた後、彼は私を迎えに来た。
色々と思うところはあったけれど、彼が決めた事に口出しするつもりはない。
何より、私は彼のそういうお人好し過ぎるくらいに優しいところも含めて好きなのだ。
迎えに来た彼の。2年前と変わらない人懐っこい笑みを浮かべた彼の手を取り、私達は名古屋の地を後にしたのだった。
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