その夜は雨が降った。さらさらと降り注ぐ水玉たちはどんよりと黒い雲から落ちてくるものだとは思えないほど美しい。
海は荒れ狂い、陸を飲み込んでしまいそうだ。
次の日の朝、昨夜の天候が嘘のような青空。濃い青が眩しい。
「おはようユキくん」
ずびっと鼻をすするユキくんに挨拶をする。昨日冷えたから風邪でもひいたのかな。
「…おはよ」
小さいけれどはっきりと返事をしてくれる彼に進歩したなと思った。
「おーはよう!!!なまえ!!」
「うんおはようハルくん」
今日も元気に通常運転だ。いい意味で代わり映えしないハルくんがたまにうらやましく思う。いつものようにプラチナブロンドが眩しい。
「ユキくん調子悪いの」
「…ちょっと鼻が出る」
ダイジョブだよ、と鼻声で呟く彼の顔をのぞきこんだ。
「ユキ昨日頑張った!」
「うん?」
突拍子もなく始まるハルくんの話にはだいぶ慣れた。にこにこ嬉しそうに笑う彼は悪くない。だって宇宙人だもん。しょうがない。
「なにを頑張ったの」
「雨の中でえのしまどん!」
でもやっぱり、わからないことはわからない。宇宙人さんと地球人には超えられない壁もあるんだよ。
「…」
「えのーしまーどんっ!」
両腕を振り上げたり下ろしたりしながらもくもくと歩くハルくんは楽しそうだ。このポーズからして釣りだろうか。前にそんな話をしていたこともあった。
「釣りのこと?」
「そう!つり!たーのしーよ!」
「そっか。でも雨の中じゃ寒いよ。気をつけてね」
「うん気をつける!」
ちょっと体調のすぐれないユキくんと違い、ハルくんはまったく無傷だ。ハルくんも雨の中釣りをしたそうなのに。ばかはなんとやらだ。
「あ!なまえっ じゃじゃーん!」
そういってハルくんはあたしの前に白くてピンク色のものを掲げた。
「…携帯?」
「そう!ケイタイ!!」
ハルくんの携帯はなんていうか、そのえーっと、奇抜である。白をベースにピンク色が散らばっておりサイドには蛍光イエローの薄型携帯。どこの機種だか知らないがこんな派手な携帯は、はじめてみた。ストラップも何もつけていないのにこの存在感はすごい。
「これでなまえといつでも話せる!」
「そうだね。番号とアドレス教えて?」
「はいー!!」
ピコピコと自分の携帯を弄るハルくんになんだか親近感が沸く。電波な宇宙人だけれど、ちゃんと高校生なんだなーって。
「いっくよー!せきがいせーん!」
「はいどーぞー」
こちらに携帯の先を向けて交換をする。
「あ、ユキくんのも教えてくれる?」
「僕がおくるー!」
ありがと、と笑ってからユキくんの応答を待った。別にいいけど、と呟いた彼に少し安心する。これで嫌とか言われたらショックで立ち直れないかもしれない。まぁユキくんはそんな子じゃないと信じているけれど。といってもあたしはユキくんとハルくんのことをあまり知らない。、
一緒に登校するようになってから何日も過ぎているけれど、いつもハルくんがつりの話かあたしの知らない誰かの話をするだけで、聞き手のあたしとハルくんは軽く相槌を打つ程度。なんだかここ最近寂しい気持ちがわいてきた。元気なハルくんにはきっとたくさんの素敵なお友達がいると思うし、そんなハルくんの一番の理解者であるユキくんだって然り。あたしにだって人並みの友達はいると思うけれどそれとはなんだか違う感じ。ユキくんとハルくんは親友ってやつなんだろうな。
「なまえ!電話する!まってて」
「うん」
なんだか照れくさくなり、顔を背けてしまったあたしに不思議そうな顔をするハルくん。なんでこんなに正直に言えるのかなぁ。あ、宇宙人だからか。
20120512
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