「ユキがつりやるってーー!!」

「…よかったね」
今日も元気に朝の登校中。後ろにはお馴染みのプラチナブロンドとオレンジヘアー。

「ユニノットも上手に出来るんだよユキっ!!」

「ユニノット?」

「うん!ナツキに教えてもらった!」
また新しい名前が出てきた。ナツキくんって誰だろう。

「そう。よかったね」
うんー、とまるで少年のような純粋な笑みを称えながらズンズンと両手を振ってあたしの隣を歩くハルくんをみた。身長があまり高くないあたしとハルくんは拳三つ分くらいの差だ。やっぱり男の子なんだなーとここで実感。
ちらっと後ろを伺うと自前のスマートフォンをいじりながらとぼとぼ歩くユキくんが目に入った。いいな、スマホ。あたしもスマホに変えようかな。ブレザーのポケットの携帯電話を取り出して考えた。

「あーケイタイデンワ!!なまえもそれ持ってるー!」

「うん?携帯電話がどうかしたの」
珍しいものだろうかこれは。中高生なら普通にもってると思うけど。今では小学生だって持っている子がいるし。

「ナツキも持ってるしユキも持っててなまえも持ってる!僕持ってない!」
自分だけもっていないのが嫌なのだろうか。両方のほほを膨らませながら語るハルくんは、なんていうか、その、実に
「子供みたいだね」

「こどもっ!!?」
つい思っていたことを口に出してしまった。怒るかな。

「僕こどもじゃないよ!大人!こーこーせー!」
案の定、へそを曲げてしまったハルくんは本当に子供みたいだ。

「あーうんごめんごめん」

「ユキー僕もケイタイほしい!!」
後ろを歩くユキを振り返りながら大声で言う。

「はぁ?」
あ、初めて聞いたかもユキくんの声。なんか呆れた顔をしている。

「ケイタイほしい!話、出来る!」

「…話」
うん、と言ってあたしに向き直ったユキくんは口角を上げ、目をキラキラさせていた。

「ケイタイどこにいても話出来るってケイト言ってた!」

「…うん、出来るけど、遠くにいる人で話したい人でもいるの?」

「なまえ!」
嬉しそうに右手の人差し指であたしを指しながら盛大に言った。

「え?あたしと話したいの?」

「うん!なまえ朝しか会えない、寂しい!」
ちょっと困ったような顔をしたハルくんはまるで待てをされている子犬のようだ。

「だからユキ!ケイタイ!」

「…はいはい」
ため息を吐きながらも頷くハルくんをみて疑問に思った。
「どうしてユキくんに言うの?」

「うん?」

「ユキくんに買ってもらうの?」

「違う、ケイト!僕、ユキとケイトと一緒に住んでる!」

「え、そうなの!」
いつの間にか隣に並んで歩いていたユキくんを目を丸くしてみた。
そうするとバツの悪そうな顔でうん…、とつぶやいた。なんとか、お話が出来たなぁと少しほっとする。もしかしたら無視をされるのではと思っていたからだ。

そうなんだー、と青い空を仰ぎ見ながら答える。今日の空もどこまでも続いているような青さがある。東のほうに雲が出てきた。夜にでも振り出しそうな雲だ。ちょっと心配。
「それじゃぁ二人は本当に仲良しさんだね」

「そうだよ!」
元気いっぱいに答えるハルくんをみるとこっちまで元気になってくる。自然と笑顔にもなってくる。不思議だなぁ。

「あ、じゃぁあたしはここだから」
あたしの通う女子校の前まで来た。なんだかいつもより早くついてしまったような気がする。

「ばいばーい!!ケイタイ、話するよ!」

若干意味が違うなぁ、と思いながら右手を振る。
ハルくんはいったいどんな携帯を選ぶのだろう。



20120503



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