4st staiton






「なまえちゃん、起きた?」


目を開けると美形のお兄さんがわたしを見下ろしていた



半分、覚醒した身体に鞭を打って口を動かす

「…さねとしさん?」


「はい。眞悧です」


よくでしました、とおちゃらけた様子で優しく頭を撫でられた



その手が気持ちよくて温かくてまた夢の世界に引きずりこまれる前に重々しく身体を持ち上げた





「あれ、としょかん?」


首を振り辺りをキョロキョロ見回す


そこはいくつか木製の机と椅子が並び、棚にはずらっと色とりどりの本が敷き詰められていた



どうやらわたしはそこにあるソファに寝かされていたみたい…



「うん。ここもそらの孔の一部だよ」



こんな部屋もあったんだあと小さく呟くと凄いでしょ、と少年のような笑顔がかえってきた







「ところでなまえちゃんの身体が平気なようなら説明したいことがあるんだけど…いいかな?」


予想していた言葉にはっきりと頷いた


「さっきはいきなり驚かせてごめんね。君が来るのは予想外だったんだ

運命という概念が存在するのならきみはその運命に選ばれた人なんだ。さっきの女の子の運命、きみの両親の運命、なまえちゃんはそれに干渉することができる。人は運命によって生きて死ぬ。

そしてきみは僕と同じ種類の人間
もちろん根本的には違うけど似た道を生きていくことができるんだ」



眞悧さんはそこまでいっきに語りわたしの反応を伺った



「…はぁ」


「曖昧な反応だね。あまり実感がない?きみはさっきの女の子の命を救ったようなものだよ」


「わたしが陽毬ちゃんを救ったんですか、」


「間接的にね
彼女は昔、ある少年から林檎をもらったんだ
ある少年はどこで林檎を手にいれたと思う?」


にこっと笑い腰をあげた



「温かい飲み物でも持ってくるよ、ちょっと待っててね」


と言い残し何処かに消えてしまった



(わたしは運命に干渉できる…?
あの林檎みたいので陽毬ちゃんを救うことができたのだろうか)


「お待たせしました」


両手に白いマグカップを持って眞悧さんが戻ってきた


「はいどうぞ」


ふんわり香るカカオのにおい


「おいしいココア」

「眞悧特製ブレンドです。おきに召して頂けて光栄だな」


と言いながらわたしの横のソファに腰をかけた


「ははっ、特製って粉入れて混ぜただけじゃないんですか」


混ぜる手にもコツがいるんだよ、なんて言って笑っている





「…なまえちゃん。可愛いーね」


「い、いきなりなんですか。可愛くないし」


突然訳のわからないことを言ってくる


「容姿は綺麗なのに行動とか可愛いよ」


小首を傾げながらわたしの顔を除き混んでくる瞳は宇宙のようだ


「いやいや意味わかんないです。おだてても何も出ませんよ」


本当にそう思ってるんだけどなーという言葉は軽くスルー


「あ、今何時ですか!」


「んーと8時ちょい過ぎ」

エプロンのポケットからキラキラ光懐中時計を取り出し答えた



「やばい、バイト遅刻した!もう帰りますね。ココアご馳走様でした」



これこそ疾風の如く駆け出していく背中に

「またおいでー」


と声を掛けたが聞こえているかは定かではない



* * *



眞悧は静かになったそらの孔にひとり


なまえのことを考えていた
眞悧とは同類と分類される存在
運命に干渉できる人



穢れのない無垢な笑顔が頭を掠めた
陽毬に向けたそれを自分にも見せてほしいと思うなんてどうかしてる



力を使って気を失っている時の無防備な姿にはなんともいえないものが込み上げてきた


自分は16年前に成し遂げられなかったことをやろうとしている
余計な感情なんていらない


なのに最後に掛けた言葉


(またおいでー、か)



自分は本当に来てほしいと思ったのだろうか
脳内で自問自答を繰り返す










この感情の名前をわたしはまだ知らない





おわり
―――――――――*―――


図書館から飛び出し風のようにバイト先の水族館に向かった



30分以上の遅刻に先輩は般若そのものだった


(今、思い出しても恐ろしい…)


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