ここは日本ですか。誰に問うでもなく自問した。
久々の外はわたしには刺激が強すぎた。隣人さんのお家の扉は10メートルもないはずなのにいっこうにたどり着かない。

「おい、貴様俺の家の前で何をしている」
「あ、ぎのざさん…こんにちは」
「…こんにちは」
ぎのざさん宅までの距離に悶絶していたら後ろから声が聞こえた。
「…ちょっとぎの…ざさんに……御用があり…まして」
「そうか。何のようだ」
右手でメガネをくいっと上げてこちらを睨んでいる。ご機嫌でもわるいのでしょうか。
「……あの、ごほっ。こ、これか…ら」
「ちょっとまて」
「…は、いなん…でしょう」
「何故そんなにいきがきれているんだ。物凄く急ぎの用なのか」
「…い、え」
「と、とりあえず中に入れ。変なめでみられる。俺が」
そういったぎのざさんはせわしなく自宅の扉を開けた。
どうも、と言って足を進める。真っ直ぐな廊下はデジャブを覚える。あ、この前来たからか。
「…それで、何故俺の部屋の前ではあはあ言っていたのだ」
「あ、どうもです。ってはあはあってわたし変態みたいじゃないですか」
目の前にコーヒーをおかれ、会釈しながら答える。
「…ちがうのか」
「違いますよ!わたしを誰だと思っているのですか」
「さあ、隣人としか認識していない」
「ですよね。わたしもです。あ、それでわたしご挨拶にうかがったのですよ。2年ほどまえに引っ越してきました。みょうじなまえです。つまらないものですがこれどうぞ」
わざわざすまない、といってわたしのかりんとうを受け取った。
そこで訪れる沈黙。さてどうしましょう。
「…ぎのざさんは何をなされている人なんですか。あまりお家には帰ってきてないご様子なので気になりまして」
「仕事」
「はい」
「公安局刑事課一係所属の監視官をしている」
「はぁ。公安ですか。監視官さんかぁ。それじゃ少しご相談してもいいですか」
「なんだ」
「わたし濁らないんです。まったく。サイコパスが」
わたしがそういうと持っていたかりんとうを投げ出してこちらに振り返った。なんだ今の俊敏さ。
「濁らない。ひとつもか」
「ひとつもですね」
そうか、そうひとこといってだまりこんでしまった。何やら随分と考えている様子だ。この話題はまずかったのだろうか。
わたしのサイコパスは濁らない。物心ついたころからそうだ。嘘をついてもシヴィラに反応しなかった。こんなこと誰にも言ったことがないのにどうして隣人さんに話しているのだろう。ひきこもりすぎて脳が腐ったか。
「ぎのざさーん」
「あぁすまない。そうか。よし一緒に公安にきてもらおう」
「え、嫌です」
「え」
きりっとしていた目がきょとんと真ん丸になった。
「だいじょーぶです。わたし別に犯罪なんてしませんから」
「いや、だがしかし」
「それじゃ失礼しますね。おじゃましました」
そう言い残し、デジャブを感じる廊下をぬけ、何か難しい事を叫んでいるぎのざさんだがきにせず外にでた。
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