六月の中旬。長く降り注いでいた雨が上がった明け方。
水分の多い空気に容赦なく太陽が光を放つ。このじめっと顔に張り付くような湿気はあまり好きではない。いや、嫌いだ。大嫌いだ。猫っ毛のわたしには超天敵だ。なにせ、跳ねまくる。あっちこっちぴょんぴょんしてる。重力ってなに、状態だ。ここ地球なのに。だから出来るだけ外出はしたくない。
そんな私の気もしらないで朝っぱらから端末にいくつもの着信が、もちろんこんなに馬鹿みたいに5分おきに連絡をするのは私の上司、ダリル少尉だ。迷惑ったらありゃしない。

少尉の自宅と私の自宅は決して近いとは言えない。徒歩で行けなくはないが時間がかかる。だが、車なんて持っていないのでもちろん歩きで向かう。緊急の用事だ、3分以内に来ないと怒ると脅されたが急ぐ気なんてさらさらない。もう馴れた。行ってあげるだけでもありがたく思え。


遠くの方で幾つかの色が見えた。あれは虹だろうか、それとも爆発実験だろうか。

なんて誰もいない横断歩道を渡りながら仰ぎ見る。朝早いせいで車もろくに走っていない。閑散としている。薄く白が視界を遮る。地上に薄く延びた水がキラリと光った。
「緊急って言っただろ。もう15分もオーバーしてるよ!」

前方からよく知った声が聞こえた。金色の髪がさらさら零れる。
「…あれ、ダリル少尉ですか」
「僕に決まってるだろ!他に誰だっていうんだよ!」
朝からきゃんきゃんと元気である。横断歩道の黒と白をかき回すかのようにダリルの足は大股にこちらに向かって歩ってきた。
「あ、駄目ですよ。横断歩道は白の上を歩かなくちゃ」
「はあ?なんのことだよ」
「白ですよ。黒いところ歩くとワニに食べられちゃいますよ」
小さい頃に近所のお兄ちゃんが何かのゲームの話で似たことを言っていた。
「…はい。少尉、四回は死にましたね」
「お前たまに意味わかんないよね」
少尉の呆れた顔を久しぶりにみた、と言っても正直朝の光が強すぎてどんな表情だかなんてわからない。もったいないな。

「…あ、だからなまえってよく白いところ歩ってるんだ」
「え!私、よく白の上を歩ってますか」
「うん、白線の上とかあるってるじゃん」
アンビリーバボー。知らざる私の癖を少尉に発見されてしまった。不覚。そういえばいつも車道側をあるっている気がする。


いつの間にか少尉の機嫌も回復したようすだ。彼の隣に並びながらダリル宅に向かう。あれ、いつもとちょっと違う。景色、いや雰囲気かな。違和感を感じながらまじまじと少尉を観察していたら紫色と目があった。
「…なに」
「いえ、なんか雰囲気違うなって」
「雰囲気?」
ぴちゃっと水溜まりに足をつけたがきにせず歩く。
「あ!右側だからだ!」
雰囲気の違いに気が付いた。癖で少尉の左側を歩くから少尉の顔を右からみたのが新鮮だった。
「お前、これからはそっち側歩きなよ」
目線を前に戻しながら口はやに言った。
「なんでですか」
「なんでもだよ!」
何故照れているのだろう少尉は。ここで照れる要素はあったか?そっぽを向いてしまった少尉の横顔に朝日がうつって美しい。やっぱり綺麗な人はどこからみても綺麗だな。
「つか、お前くらいだよね」
今だ目を合わせない彼はボソッと言った。
「なにがですか」
さっきから質問してばっかりだな私。心の中で苦笑いをする。
「僕の隣歩くの…」
「そうでしたっけ」
「なんで普通に隣歩くの」「だって喋りにくいじゃないですか」
直列で歩ったら表情もわからないし、…うん、喋りにくいですよ、尤もな事を言う。思い返してみれば確かにダリル少尉と誰かが並んで歩いているところを見たことがない気がする。
「…あっそ」
そっけな。今日の少尉は様子がおかしい。途中まで迎いにきてくれたし。(まぁ、少尉がよんだんだけど)普通に話してくれるし。はて、機嫌がいいのやら悪いのやら。

「…車がさ」
「はい?」
「あんたちょこちょこしてるから轢かれるよ」
「…はぁ」
いきなりなんだろう。
「別にあんたが轢かれようがどうでもいいけどね。僕の隣で血だらけで死なれたら気分悪いから!」
あぁ、彼は私の心配をしてくれていたようだ。いつもツンツンな彼が珍しい。今の言葉もきっと照れ隠しだろう。自然と頬が緩む。仮にも大好きな人が自分のしんぱいをしてくれたら嬉しい。自然と頬が緩む。あ、二回いっちゃった。それほど嬉しいってことです。
「な、なに笑ってるんだよ!!」
「…いえ、少尉、紳士ですね。とっても嬉しいです」「う、うるさいなーーー!」

笑顔を少尉に向けたら顔を真っ赤にしながらどこかに走っていってしまった。
「ちょっ、どこ行くんですか少尉!」
「早くきなよ!ばかなまえ!」





今日も騒がしい1日になりそうだ
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