「少尉ってほんと綺麗なお顔してますよね」

静かな休憩室でソファに座りさきほどの任務の疲れによりうとうとしていたら綺麗に響く声に意識を浮上させられた。前に座っている仏頂面の部下の顔に目を向ける。いつものように脈絡のない語りで小さく呟いた言葉を頭の中で復唱する。

「…何、いきなり」

自分の容姿がいいことくらい人に言われなくてもわかっている。だか、こいつに言われたのは少し驚いた。この女とはもうだいぶ長い時間をともにしているが、能面のように顔に表情がないこいつの考えていることはいつまで経ってもわからないからだ。

「なんかふと思いました。…最近、背も伸びましたよね?初めてお会いした時はわたしと同じくらいだったのに」

淡々と喋りながら遠くを見るような目で僕をみてくる。なんなんだ、と眉を寄せながら少しなまえに近く。

「…」

横に並んでみると身長差がよくわかる。東京を一望できるガラス窓に、なまえと自分が映る。確かに以前は同じ目線だったのに今では頭1つぶんも違う。

「…おまえ、ちびになったね」

なまえとは目を合わせないように眼下に広がるビルを眺めながら思ったことを口に出した。


「少尉が急にのびたんですよ。わたしは変わってません」

口角が僅かに下がり、表情の乏しい彼女にしてはわかりやすく顔にでている。さっきの僕の台詞がおきに召さなかったようだ。珍しい。

「べ、別に駄目って言ったわけじゃないよ!…そ、それに、お前はそのままでいいっていうか、それがいいっていうか」

何故か気恥ずかしくなり、小さな声になってしまった。最後の方は伝わっているかどうかわからない。

「あはは、なに赤くなってるんですか。」

僕は目を丸くしてなまえを凝視した。本当に今日は珍しい。なまえの不機嫌な顔や笑顔が見れた。笑顔なんて何日、いや何ヵ月ぶりに見ただろうか。

「…な、なに笑ってるんだよ!赤くなってないし!」
それなのに、素直に笑いあえない自分が憎らしい。本当はなまえともっと楽しく話がしたい。

「…あぁ!もういつまで笑ってるの!?行くよ!」

今だに笑顔のなまえの隣を通り、休憩室を後にする。

「あ、待って下さい」

後ろからパタパタと足音が追いかけてくる。振り返らないで俯き、小さく笑ったのはばれてないと思う。
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