「…ベジータの奴、今日はブルマと一緒か……」

何気なく探った気。夜も更けて真っ暗な闇の中、悟空は目を覚ました。
今日はあまり身体を動かさなかったからだろうか、
きっとあまり疲れていなかった所為でいつもより早く目が覚めてしまったのだろう。
それにしてもまだこの時間は真夜中とも言うべき時間で、最後の修行をもう少しやっておけばよかったと悟空は思った。
すっかり眠気がどこかに飛んでしまっている身体を起こし、ベッドの脇に腰掛ける。

「う……ぅん」

小さな声がして悟空はそちらの方を向いた。
可愛い寝巻きと布団に包まって、チチが横になっている。
どうやらぐっすりと眠っていて、幸せそうに寝息を立てているようだ。
先ほどの声はきっと寝言か何かだろう。
若干昔よりしわは増えたものの、いつものチチの顔だ。
チチの穏やかな寝顔を眺めていると、悟空はいつも気分が落ち着く。
なかなか帰ってこない悟空をいつも優しく待っていてくれるのはチチの他には居ないだろう。
いつも迷惑をかけてばかりな事ぐらいは、さすがの悟空も自覚してはいる。
だが判っていてもどうしようもないことは……ある。

しばらくぼんやりとチチの顔を眺めていた悟空だったが、
目も冴えてしまった事だし何かしようとでも思ったのか順番に知り合いの気を探り始めた。
さながら部屋に居ながらにしての皆の安全確認と言ったところか。
ブウを倒して以来平和なこの世界には、当分悟空が心配するようなことも、ましてやZ戦士達が危機に陥るようなことなんて
そうそう無いのだから、まあ要するに暇つぶしといったところだろう。
起きていたならばラッキーといったところだ。
とても穏やかな気を感じながら、悟空は平和を噛み締め、そしてひっそりと嘆いていた。

自分の息子の気もしっかりと確かめ、そして次に。
わざとらしく最後にもったいぶって、悟空はカプセルコーポレーションの方角を探る。

普段は絶対に穏やかな顔などしないベジータは、寝ている間だけはほんの少しだけいつものトゲトゲしさが薄れるのだ。
気の具合も、他の戦士のように穏やか……とは言わないまでも、少しだけ落ち着きを感じることが出来る。
それが小さな秘密のようで、悟空は修行が深夜に及んだときなどはいつも気を探っていた。


……!?


ベジータの側にブルマの気を感じたのだ。
よく探らなければ判らないぐらいの小さな気だが確かに感じる。
甘い甘い気の匂いという奴だ。
ベジータの気から感じ取れるのは嫌に甘ったるい気の雰囲気。
こんな遅い時間…そして気の雰囲気。いつもはこの二人が別々に寝ていることは悟空も知っていた。
基本的にあの性格の二人なのだ、部屋は別々に分けられている。
それが今日は同じ部屋の中に居た。そして、今だ覚醒している。

何をしているかは、今の悟空にとっては想像に難くなかった。
昔ならきっと分からなかっただろうが、もうそんな事を言うような立場でも歳でも無い。
ああ、幸せなのだと、二人は夫婦なのだと、当たり前だと思いながら、
悟空は窓からカプセルコーポレーションのある方角をじっと見た。
当然この闇の中、ましてや遠くの山を越えて遥か彼方の街など見える訳も無く、
只見えたのは黒い山々と……煌々と輝く満月にはまだ及ばない、少し欠けた月だった。

ごそごそと横になると頭から布団を被り、再び目を閉じる。
隣には温かいチチの体がある。ふんわりとそちら側の体が温かいのだ。
ゆっくりと再び深い眠りに落ちていく悟空の頭の中で、小さな疼きが、丸い月の形をしてちくちくと痛んだ。

〜〜〜

「そんで、ブルマさ…!」

「それは仕方ないわよ、チチさん」

「悟空さもそう言うだよ…!!」

今日のカプセルコーポレーションは賑やかだった。チチが急に悟空と家族を連れて家を訪れたのだ。
トランクスと御天は室内からあっという間に飛び出し、街にナンパの旅へと繰り出していた。
ただ一人悟空だけが、チチとブルマの会話を聞く羽目になっている。
退屈そうにソファに腰掛け、御飯と時々会話しながら悟空は随分長い間暇を潰していた。
床の目を数えてみたり、天井を眺めたり、暇を持て余している。
もともと人の話なんか聞かない悟空だが、それにしてもひたすら時間を潰すというのはなんと退屈なことだろう。

「…でベジータったら…」

ブルマの言葉が悟空の耳に急に飛び込んで来た。何のことはない只の世間話のようだ。
きっと家族のささいな話だろう。
何故か少しだけ耳の奥がちくちくしたがそれが一体何かは分からないまま、悟空は再び床に目を落とした。
また、声が段々意識から外れていく。
少しだけ昨日の気が頭の中に甦っていた。

「…なんだから♪」

「いやだべ、ほんにもうブルマさったら〜」

いつの間にか、ブルマがニヤニヤしながらチチにこっそりと耳打ちをして居た。
チチは真っ赤な顔をしながらも楽しそうに話を聞いている。
ちらちらと自分のほうを見られているのに気が付いた悟空は、
気の無いフリをしながらそれとなく聞き耳を立てた。
こういうときは話に加わらない方がいいらしいことは今までの経験でよく判っていたからだ。
わざわざ藪を突いて蛇を出す事は無い。


「でも、凄いのよぉ。ベジータってああいう顔してるけどね。
  まあ、初めはかなりあれだったんだけど……やっぱり猿だからかしらね。
 なかなかしつこくって激しくって……うふふ。」

「凄いだな!!でも、おらの悟空さだって……最初は苦労したけどな、今は……。
 やんだ〜こっぱずかしくてこれ以上言えねえだ。恥ずかしいだ。」


「いや〜ねぇ、もうチチさんたら、エッチィ。」

「そっただこと言わないでけれ、ほんに恥ずかしいだ」

「子供を二人も作っちゃって、言うんだからもう」

「ブルマさんとこのブラちゃんなんか、悟天よりちっちゃいだ。」

「あらいやだわ、恥ずかしいじゃない。」

こういうことは旦那が居る側で話すもんなんかなぁと思いながらも、結局悟空はぼんやりと聞いていた。
嫁さんが幸せなのはいいことなんだよなぁと思いながら聞こえないふりをして、ニコニコと笑い続ける。
チチが幸せそうなのは悟空にとって幸せなのだ。
ブルマが幸せなのは、きっとベジータにとっても幸せなのだろう。
そんなことを考えながら、悟空は結局一日中話が終わるまでにこにこと座り続けていた。
どこかが疼くような気がしたが、それはきっと昼食の魚の所為だろうと、そう思っていた。




〜〜〜〜〜〜





表向き公表出来ない関係のこの2人は、
よくC.C内にあるベジータの部屋か、又は重力室で逢い引きを繰り返している。
そうは言っても、実際のところは悟空の方がベジータが一人で居る時を見計らって無理矢理押し掛けて居る
…と言う方が正しいのかも知れないが。
ベジータから誘った事は殆ど、いや本当に片手で数えられる程しかない上に
理由も修行の為、性的・愛情的なものとは言いがたかったからだ。

今日の2人もいつものように重力室に居た。
夜遅くまで真面目にトレーニングに励むベジータの側に、悟空は少し難しい顔をして座り込んで居るようだ。
何を思ったかこれもまたいつものように突然やってきた悟空を、
これも又いつものようにベジータは完璧に無視し続けている。
日常茶飯事という奴だ。
自分の中で一区切りがついたのか、いつもこなしているトレーニングメニューを丁度4分の3終えたところで、
ベジータは動くのを止めると、首のタオルで汗を拭い悟空に話しかけた。

「おい、こんな時間に何の用だ貴様。」

「…ん!?…ああ、ベジータの顔が見てえなって思ってよ。」

柄にもなく何か考え事をしていたらしい悟空は慌てて顔を上げた。
考え事をする様はどこか似合わないのがこの男だ。
いつもと違う悟空の様子にベジータは露骨に不審そうな顔をしている。
自分はベジータにいったいどんな奴だとに思われているんだ……と考えているのかは定かではないが
悟空も少し微妙な顔をしてベジータを見た。

「カカロット…貴様は馬鹿か?大体今日はチチとやらと一緒に来ていただろう」

「そうは言ってもおめえは顔見せなかったじゃねぇか。」

不服そうに唇を尖らしぶつくさ文句を言う悟空を見て、ベジータは軽く鼻で笑う。
当たり前だろうという様な事を言いながら、馬鹿にした様にベジータはさっさと悟空から離れた。

それを見ながら暫く押し黙っていた悟空だったが、丁度ベジータが部屋から出ようとしたときだった。
ベジータの背中に向かって聞こえるか聞こえないかぐらいの声で何かを小さくボソッと呟いた。

「昨日の晩さ…おめえ、ブルマおんなじ部屋で寝てたよな。」

「な…貴様何でそんなことを知っている!?」

ベジータはバッと後ろを振り向き、カツカツと悟空に歩み寄った。
そんなベジータに対し悟空は全く悪びれずに、先程までとは違ういつものように明るい声と顔で笑う。

「ちょこっと気探って見ただけだ。別に何もしてねぇ。」

「おいっ!…プライバシーの侵害だぞ!!!」

対極的に苦虫を噛み潰したような顔で、ベジータは眉間に皺を寄せ悟空を睨みつける。
そんなベジータと対峙していた悟空だったが、ふっと僅かの間真剣な顔に戻ったかと思うと
急に眉尻を下げ、情けない顔をしてこうのたまった。

「オラ…おめえがブルマとあんまりあんなことして欲しくねぇな。」

「あんなこと?…!!…カカロット…貴…貴様…殺してやる!!!!!」

一瞬怪訝な顔をしたベジータだったが、直ぐに理解したらしい。
みるみるうちに怒りと恥ずかしさで真っ赤になった顔で、
かなり莫大な量の気を両手の平に溜め再び悟空を睨み付けた。

「わぁっ!!待て待てって、オラ死んじまうぞっ!!!!」

「構わん。」

特に気にせず打とうとするベジータに流石に危機を覚えたのか、
悟空は慌てて立ち上がり、大慌てでベジータを止めた。
ムッとした顔でベジータは手を止めると、悟空を見上げる。

「ブルマにもあんな顔見せてんのかと思うと何かオラ嫌だ……。」

ぼんっ!!!!!

どうやら思い切り力のたけを込めて打ち放たれたらしい。
真直ぐに大きなエネルギー波が悟空目掛けて進んでいった。

「……!!…………?!?!!!!」

しばらく衝撃でもうもうと煙が立ち込めたが、暫くするとそれも落ち着き始めた。
その中からうっすら見えるのは、股間を押さえて転がり回っている悟空。
…股間?どうやらベジータは悟空の急所を狙ったようだ。
ベジータはニヤッと笑うと上から転がり回る様を眺めている。
悟空は痛む股間を手で押さえつつ、涙目でベジータの方を見つめた。
流石にちょっと酷いんではなかろうか。

「オラのもんが役に立たなくなったらおめぇも困るんだぞ!」

ぼんっぼんっぼんっ!!!

悟空のその言葉に、取り敢えずベジータは軽く20発程度手当たり次第に気を打ちまくったようだ。
部屋中を埋め尽くすような煙が引くと、悟空が床で相変わらず呻いている。

「……馬鹿が。使い物にならなくなってしまえ。」

「ひ、ひどいぞ、……ベジータ。」

「知るか。勝手にしろ。」

ベジータは額に青筋を立てたまま、努めて冷静に振舞うように努力しつつそう言い捨てた。
そうして、重力室のドアを開けると、一人悟空を置いたままシャワー室へと去っていったのだった。

一人残された悟空は暫くののち、股間を押さえたまま妻と家族の待つ自宅へと帰っていった。



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