IZAYOI
R18指定(嫌悪感のある描写が含まれる可能性があります)

18
何故だろう、最近では記憶の中の景色が歪んで見える。
焼け焦げる匂い、凄まじい音とともに突風が吹き荒れる。風に乗った炎が揺らめき辺りを覆い尽くす
見たくない。本当は思い出したくないんだ。心の奥の闇を・・・。目の前で大切な人を失う恐怖。

『嫌だ・・・やめてくれ・・・』

急に景色が真っ白になり目の前にあるのは森林だった。何を思ったのかソコに踏み入ってしまった
しばらく森の中を歩くと突然視界が開けた。
風に乗ってヒラリと舞い落ちる赤い花びら
微かに鼻腔を掠める匂いに誘われるように歩きだす
頭の中では警笛が鳴っているにもかかわらずその誘いに抗うこともできずにいた
目の前には小さな赤い花が幾重にも広がって咲いていた
一つ摘み取ってみると甘い匂いが辺りを漂いはじめ鼻腔をくすぐる
ほんわりとした気分になってその花が咲いている場所へ腰を落とした
ただ、肺の中を充満する匂いに気分が良くなりその場で目を閉じた。気分だけがどんどん高揚していく
そういえば俺は何をしていた?先ほどの事が思い出せずにいる。急に眠気が襲い閉じた瞼を動かすことなく深い眠りに落ちたんだ


頭が痛い・・・
何かを考えようとするとズキンズキンとした痛みが頭を襲う
ココはどこだろう。
桜色の竜が微かに見えた気がした
誰だっけ?その笑顔は忘れちゃいけなかったのに。誰だか思い出せない
その桜色を連想させるもの・・・。火?炎?嫌いだ・・・
轟音とともに炎に呑まれそうになる。記憶の根底にある思いが火への恐怖心を煽ってくる。
だけど・・・アイツの炎は・・・
胸が痛い。炎の竜・・・。忘れてはいけないのに・・・・・。何故?
微かに聞こえてきた声に反応するかのようにカラダがピクリとする
重い瞼を開けると目の前に広がる光景に何処にいるのかがわからなくなる

「お?目、覚めたか?」

声がする方に頭を向けようとするとズキリとした痛みが頭を襲う
顔をしかめ痛みが襲った場所へ手を伸ばすと幾分か落ち着いたようだ
改めて顔を向けると黒い髪を無精に伸ばした強面の男がいた

「ガジル・・・」

「大丈夫か?」

「あぁ、大したことない。それよりどこ行ってたんだ?」

身体を起こしながらガジルを見つめると顔が近づいてきて唇に暖かいような冷たいような感触がした
ふと、自分が誰だったか思い出せず一方的な行為を軽んじて受けていた
何してるんだろう?俺はコイツの何だ?ただぼんやりと目の前の顔を見つめた

「お前は俺のもんだろ?」

ニヤリと笑った顔が良く見ていた顔になり。合点がいく。そうか、俺はコイツのなんだ。

「あぁ。そうだったな。」

一瞬、桜色が頭の隅を過った。あの色はなんだろう。心を満たす色に両目から知らずのうちに滴が流れ落ちた

「あ・・・」

無意識に流れる滴が腕の上に落ち、生ぬるい感触に自分の瞳から流れてきたことに気付き腕で乱暴に顔を擦る。何故、涙が流れ落ちたのか自分で理解することができずにいた

「なぁ、なんか頭んなかがモヤモヤしてて・・・どうしたんだ俺?」

「あ?なんか悪いもんでも食ったんじゃねーか?」

悪いもの・・・

「食うわけねーだろ・・・」

飽きれ気味にガジルの分厚い胸板に拳を軽く当てる

「お前はずっと風邪ひいて寝てたんだよ。具合が良くなったならそろそろ仕事もできるんじゃねーの?」

「仕事・・・」

そうか、生きてくためには仕事しなきゃな。たしか、チーム組んで・・・あれ?誰と?

「俺らのギルド『ファントム』の魔導士グレイ・フルバスター。」

グレイ・・・俺の名前だ。

そうか魔導士だった。たしか冷気を操る・・・
手のひらに神経を集中させると冷気が漂い始め氷の結晶ができ始めた。キラキラと輝くそれを見つめていると懐かしさが込み上げてくる

「ほら。できた」

ガジルの目の前にその結晶を突き出しながら頬を緩める

「おう。キレイだな。よし、行くか。用意しろよ。」

何かを置き忘れてきたような気がする・・・大事なものを・・・

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2012.01.23(2012.11.26再掲載) RIU.

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