The last river
※アッシュ亡き後のお話



 君は1人じゃない
 ぼくがそばにいる
 ぼくの魂はいつも君とともにある


だんだんと視界が狭まり酷い眠気に意識が持って行かれる
それに抗うように愛しい人の一語一句忘れないように反復し魂に刻み込む
本当に幸福なんだ。彼奴のおかげで俺は幸せを感じることができた
『英二・・・』
何も無い闇の中、前方に光が見えた
とにかくそこに行かなくちゃと思い重いはずの身体を奮いたたせ歩きだした
だけど、いつの間にか身体が宙を浮くように軽くなった
この闇の中から外に出たい一心で光に向かって走り出す
少しずつ広がる光に飛び込むと眩い光が視界を奪い何も見えなくなり意識も白い波の中に持って行かれた

どれくらいの時が経ったのだろうか・・・
天を漂う光の渦に巻き込まれるようにゆらゆらと漂っていた。忘れちゃいけないものがあった筈なのに
何であったか・・・
いや、身体の中心で渦巻く身体を引き裂くような激しい感情がまだ残っている
逢いたい・・・
ただ、逢いたかったんだ
最期に
最期の川を渡る前に

『・・・英二』

頭に浮かんだ笑顔に心に響いた言葉を一時でも忘れてしまった事に驚愕する
いつの間にかどこからの建物の中居た。キョロキョロと辺りを見回すと
目の前に愛しい人の顔が見えた
ひどく憔悴した顔には幾筋もの涙の痕が見られる
抱きしめようと柔らかなその黒い髪に手を伸ばすが感じることができずただ宙を掻き抱くだけであった
思わず自分の両手を見てみると向こう側が透けて見える
『あぁ・・・そういう事か・・・』
すぐ目の前の存在に逢いたかったんだ
最期に逢いたかった
だけど、こんな結末を誰も欲してなんかいない
何故、そんな悲しそうな顔をしているんだろう
俺は英二が無事で居てくれることだけが願いだったんだ
そんな顔をしてほしかったわけじゃない
その涙を拭ってやりたいのにもう触れることもできない
俺は幸せだったんだ。英二・・・。だから泣かないで
この川を渡る前にお前の笑顔が見たいから
だから泣かないで


『と、言うわけで俺はしばらくコイツの傍から離れないことにしたんだ』
『そうかい。折角迎えにきてやったっつーのによー』
『わざわざお迎えご苦労さん。だけど、今はまだ行けない』
『まっいいさ。好きなだけ居れば。時間なんて概念無いしな。それより・・・』
ん?と隣を見ると生前のままの姿のショーターが悲しそうな顔をした
『英二・・・。変わっちまったな』
『あぁ・・・』
人の世界では既に数年が経過しているものの目の前に居る彼は相変わらずの童顔でだけどその瞳の奥には以前のような屈託さが無くなっていた
何よりその儚げな表情が切なさを誘う
『やっと・・・少しづつ笑えるようになってきたんだ』
だけど、その笑顔は心からのものでは無いのがわかっていた
それだけに歯痒い思いで居るのだ
『何もできないってきついな・・・』
『ったく、アッシュ、お前がラオなんかにやられるからだろうが』
『・・・・・。』
冷えた視線を送るもののそんなもの堪えるわけが無いのは分かっていた。
『あ!』
目の前の英二が笑顔になる。手を振る相手を見遣ると自分よりも成長したシンが居た
『ちっ』
『シンも大きくなったなぁ。しかも男前になった。』
『何がいいてーんだよ』
ニヤニヤと笑う顔が何を言いたいのか分かっているもののそう言わずには居られなかった
『まぁ、シンのお蔭で英二が多少マシになってきたのは確かだろ?』
『・・・・・。』
何もできない。触れることもできない自分がココに居ても意味があるのか
ただ、笑顔が見たい。それだけだった筈なのに
何故、目の前の光景に嫉妬するのか
憮然とした表情のまま瞳を逸らす
『なぁ、アッシュ。お前、もういいんじゃないか?そろそろ次の事考えるべきだろ?』
『次?』
『あぁ、俺らは浄化されるべきなんだ』
『浄化・・・』
『そして、また次の新しい命になってこの世に生まれる』
『そしたら・・・先に行っちまったら・・・』
ふと、英二の顔を見るとその黒い瞳と目が合う
いや、正確には目があったわけじゃない
『英二と同じ時代を生きたいんだ・・・』
目の前の黒い瞳を見つめていると不意に逸らされた
シンに呼ばれたのかそちらの方へ駆けて行ってしまった
『ふ〜ん、まぁいいさ。お前が気のすむまでやれば』
『で?お前は行かないのは何でだ?』
『俺か?俺も親友たちの行く先が見たいのさ』
そう言いながら戯けた表情をする友人に笑みが零れる

英二、お前の笑顔が見れたら俺は・・・

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2012.08.16 RIU.
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