観光馬車で整備された道を行くこと数日と少し。『魔人のいるところまであともうちょっと』というなんともふわっとした看板を超えたあたりで、外を眺めていたテンヤが道端に子供が腰掛けているのを見つけた。

 ここらはまだ多くはないとは言え、魔獣もいる危険地帯だ。テンヤは「ちょっと止まってくれ!」と慌てて馬車を止めると荷台から飛び降り、すぐさま子供に駆け寄った。その慌てた様子に気付いたショートやイズクも後に続いて馬車から飛び降りる。


「大丈夫か!!?こんなところで何してるんだ!」


「お母さんの体調が良くなくて…薬草取りに…。でも帰れなくなっちゃったんだ」


 子供の手には萎れた一本の薬草が握られていた。


「ポーションは?」


 ショートが尋ねる。


「持ってないよ。高いもん。魔人の角があったらすぐ治るのに……」


「魔人の角?」


「そうだよ。あれがあったら助かるってお母さんが」


 どうしようと落ち込む子供。子供は魔人の角を探しているらしかった。なんとも絶妙なタイミングである。とはいえ、行く先は危険な盗賊団の集落だ。連れていくのは気が進まないが、ここに子供を置いていくわけにも行かない。しかし、戻るわけにもいかない。テンヤ、イズク、ショートは目を合わせた。そして、一様にうん、と頷く。真ん中に立っていたイズクは子供と目線を合わせるようにその場にしゃがんだ。


「僕ら今からそこに行くんだ。君も一緒に…どうかな。危ないけど、ここにいるよりは僕らも君を守ることができるし」


「行く!!」


 そんなわけで新たに1人を加えた一行。そこからまた快適な馬車の旅を楽しむこと数日。目的地にたどり着いた頃にはすっかり夜になっていた。


「魔人饅頭めっちゃ美味しかった…」


「魔族モチもね!」


『魔人のいるところまであと少し』と書かれた看板を見て苦笑いを浮かべるイズク。


「観光案内もしっかりされたね」


 道中あった巨大な何かの骨に向かってガイドが「こちらは頭領が倒した魔獣ですー。骨にも毒がありますので近寄ると死にます。写真撮影は手短に!」と言い出した時はそんな巨大生物を倒した人物を自分達で捕まえられるのかと不安になったと同時に、なんとなく気が抜けたような気持ちになった。


「この丘を越えたところにいるよ!」


「よく知ってんな」


 子供がなぜ知っているのか。その理由はすぐに分かった。

 子供の言った通り、御者は慣れた様子で馬を操作し、丘を越え始める。すると真っ暗な闇の夜の中に少しずつ光が漏れてきた。


「わーー!!」


「ま、街がある!」


「キレー!!」


 丘を越えた先、そこには昼のように明るい街が広がっていた。


「わあ…」


 思っていたのと違う。そう素直に思ってしまうほどに大きな街、都市だった。


「むしろ…国だな」


 その街の周りには取り囲むように城壁が並び、村というよりもさながら城塞都市、一つの国のように見えた。真ん中には高い塔が集まったような古い城があり、街の光を足元に浴びながら佇んでいる。街の明るさとはまた少し違った荘厳な雰囲気とスポットライトのように光を浴びる古城にイズクはそこを中心として街が出来たような印象を持った。


「あれなんだ?」


 エイジロウが指差した先には大きなテントのような巨大なドーム型の施設があり、そして、その後ろには街を囲むのとはまた違う壁が大きく囲むようにずっと先まで伸びている。だが、街との間は距離があり、閉塞感は感じない。巨大な建物に大きな街、どう見てもただの盗賊のねぐらとは思えず、「行けばすぐ分かる」と先の村人達から教えられていたイズク達はハテナを浮かべた。


「なんかもっと隠れ家みたいな感じかと思ってたけど…」


「普通に街だな。しかもデカい」


「探すのにまた時間がかかりそうね」


 この美しい街のどこかに盗賊が、悪が潜んでいる。イズクはその事実が少し怖くなった。


「お客さま方ー!このまま中に入りますのでご準備お願いしますねー」


 そんな雰囲気を吹き飛ばすように明るい調子でガイドが言う。イズク達は馬車の後ろから頭を出したまま、ゆっくりと近付いてくる門の方に目をやった。


「検問とかねぇのかな?」


 そこでエイジロウがあることに気付いた。街と森との間に流れるそう大きくはない川の上に掛かる石橋の先、その城門が開いている。よく見ると守衛の1人もいなかった。この大きさの街なら検問があることが多いのも勿論だが、この時間帯に門が開いていて、そこに守衛がいないことはまず無い。それにここは魔族が出るとも聞く。防御甘くね?エイジロウが疑問をこぼすと、馬に鞭を入れながら御者が答えた。


「ここの門は常に開きっぱなんでね。誰でも来ていいし、いつでも出てっていい」


「なんかよく分かんねーな」


 壁に囲まれている割にはそれほど守ることに重きを置いているわけではないらしい。進入されたくないのかそうじゃないのかよく分からないとこだな、と思うエイジロウ。だが、いつでも誰でも来ていいということは、相手を選ばない、ということであり、魔獣に囲まれながらもそれを退けられるという自信と、寛容な街の気質にエイジロウはそれを「漢だな!!」と好意的に捉えた。


「到着しましたよー!ゲストの皆様!」


 石造りの門の間を抜け、とうとう馬車が街に入る。途端、至る所から明るい声と音楽が聞こえてきた。


「今日は祭りか何かですか?」


 普通なら寝入ってる時間だが、街は賑わいの真っ只中。着飾った人や質素な人、男も女も酒を片手に歩き、速度を落とした馬車がそばを通るたび、自分達に手を振ってくる。


「わぁ、キレー…!」


 オチャコが指差した先にはテーブルの並んだ広場があって、沢山の花がそこを彩っていた。舞台の近くでは音楽隊が陽気に演奏し、丸テーブルの上では顔に傷のある強面の男が小さな女の子と手を取り合ってステップを踏んでいる。ボロボロの服を着た老人は酒を片手に屈強な男と女店主と何かを語り合ってはガハガハと笑っている。舞台の上では切れた鎖を足につけた女の子が思うがままに裸足で踊っていて、周りから花が投げ入れられていた。子供から大人までが飲み食いをして、笑い合う様子はまさしくお祭り騒ぎだ。

 そこにはならず者とされる人達も多くいて、一見すると治安はそれほど良くなさそうにも思える。だが、目の前に広がる光景に暗い雰囲気は一切、感じない。イズクは素直に良い街だなと思った。


「いや?ここはいつもこんなだよ。団長は夜が好きだからな」


「団長ってのは……ここの領主のことですか?」


 聞きなれない単語にイズクは素直に疑問を溢した。


「領主?まぁ、似たようなもんかな。団長ってのは盗賊団の団長だよ。お前ら知ってて来たんじゃねぇのか?」


「はぁ?」


 知っているが、それと何の関係があるのか。カツキは片眉を上げた。


「ここは盗賊の作った街だ」


 誰が言ったのかパーティから「え…」と言葉が漏れる。


「なるほどな。なら探すのは簡単じゃねェか。ここ全体が隠れ家みてぇなモンなんだからよ。1番デケェ建物にいんのが親玉だ」


 カツキがそう言った。そしてすぐにイズク達も気付く。この任務は街に紛れた1人の悪党を探すんじゃない。この街1つが盗賊団なのであり、その街そのものを作った悪党を捕えなければならないのだ。「行けばすぐ分かる」その言葉の意味が今、分かった。

 イズク達は意図せずに、敵のど真ん中に入ってしまったのである。ごくりと誰かが唾を飲んだ。


「さ、観光客の皆様。宿までお連れしますねー」


「は、ははははいい!!お願いします!」


「どうされました??」


「「「なんでもありません!!!」」」


 ガイドの言葉に吃って返事をするイズクの口を大慌てで塞ぐ。その時、テンヤがあることに気付いた。


「あれ!?あの子がいないぞ!少年!どこ行ったんだー!」


「さっき降りてどっか行きましたよ」


 見ていたらしいガイドに続き、ショートが「なるほどな」と言った。


「アイツもここ出身だったみたいだな」


「なんというか…た、たくましいね」

 
 見知らぬ人と馬車に乗り、家まで帰ってきた少年もそうだが、前の村の商魂も凄かった。あの人たちもここの住人だったんだろう。イズクはカモられたような気持ちになり、ハハハと乾いた笑みをこぼした。






「じゃ、じゃあ!また後でね!いってきます!!」


 その翌日の朝。敵情視察がてらさっそく街に繰り出したカツキ、エイジロウ、ショート、イズクは中心に聳えるあの城に向かっていた。大所帯で行っても怪しまれるだろうというアイザワのアドバイスに従った結果と、何があるか分からないからとの理由で女性陣は居残り、残りはその護衛に回ったための人選である。


「あの城…」


 不思議なことにその古城は街の何処からでも見えるようになっていて、イズクが当初持っていた城を中心に街が出来たよう、という印象がどこか確信めいてくるような気がした。そして、近くで見るその城は自分達が思っていたよりもさらに古く、やはり明るい街の雰囲気とは少し違って見えた。

 中に入りたいが、どうすればいいのか。


「おい、あれ」


 イズクがそう思った時、ショートがイズクの背後を指差した。見れば門前にヤンキーの如く人が2人座っている。よく見れば、手には武器があった。きっと彼らは門番だろう。あまりやる気はなさそうだ。イズクは勇気を出して2人に駆け寄るとおずおずと声をかけた。


「あの…」


「ア?」


「ア”??」


 強面の門番の不躾な返事にカツキが顎を突き出したまま同じ返事をする。「やめとけって!」とすぐさまエイジロウがその肩を押さえた。


「あの…ては、じゃなくて頭領さんに会いに来たんですけど」


「あーー、今か。ちょっとなぁ…」


「怪しいモンじゃねぇぞ」


 ショートが言う。疑われているために渋られたのかもしれないと思っての発言だったが、門番はそれに「は?」と眉を寄せた。「(むしろ怪しいよ!!)」とイズクが慌ててショートの裾を引く。


「急ぎの用か?」


「いや、やっぱりああ」


 子供のためにもとりあえず角を貰ってこなければならない。確保はそれからだ。そう考えたショートの返事に門番は「う”――ん、入れてやりてぇのは山々だが」と悩まし気に唸る。その申し訳なさそうな顔を見るに悪い人ではないらしい。


「まぁ、見てもらえりゃ分かるだろ。ちょっと下がってな」


「?ああ」


 不思議に思いながらも門番の指示通り一歩下がる4人。


「アレ持ってきてくれ」


「あいよ」


 もう1人の門番が何処からか筒形のメガホンのようなものを取り出した。それを受け取った門番が大きく息を吸い込む。そして城の方を向き、上に向かって声を出した。


「ダンチョーー!!!!!ボーーーースゥ!!!!!トウリョーーーーー!!!お客人でーーーす!!!」


「直接呼びに行けよ!!」


 カツキの怒声を打ち消す勢いで叫ぶ門番。瞬間、何かが猛スピードで窓から飛び出し、イズク達に向かって真っ逆さまに落ちて来た。一瞬呆気に取られるが、それが何かを理解した途端、イズク達は大慌てでその場から退いた。


「つ、机!?」


「ちょっ、」


「避けるぞ!」


 ガシャーーーンッと衝撃音がして、先程まで4人のいた場所に無残な姿となった机の残骸が散らばる。


「眠いから黙れってよ。まだ応対する気分じゃねぇらしい。団長、早起き苦手だからなぁ。てなわけでまた後で来てくれや」


「なんちゅー自由人だ」


 エイジロウが驚きつつも呆れたようにそう言った。


「今日は闘技場で出し物があっからな。それが終わればまぁ、チャンスがあるんじゃねぇかな。悪りぃね。見たところお前らも観光だろ。ついでに見ていけばいい。楽しめよ!」


 そう言うと門番は「さ、俺らはこれ片付けっかー」ともう1人の門番と一緒に箒片手に掃除を始めた。慣れているらしい。

 なんにせよ正攻法では会えそうにはない。ここにいても仕方がないし、無理やり会おうにも機嫌の悪そうな今、要求はきっと聞いてはもらえない。問答無用で、というのも考えられる。イズク達は仕方なくその場を後にし、情報と起こった出来事を仲間に報告しに宿へと戻った。


「というかまず角なんて貰えんのか?それこそ捕まえてから取るしかねぇんじゃねぇか?」


「う、うーーん。それは確かに」


 代用の効くような物でもなさそうだし。戦闘は避けられない気もする。イズクは顎に手を当てて少しの間考えた。だが、いい案は出ない。


「まずはその闘技場って胸糞悪りぃだしモン見に行くぞ。俺らは敵の顔もしらねぇんだから」


 「奴隷を使ってショーをしている」もしそんな非人道的な行為が本当に行われているなら助けなければならない。イズク達は乗り込む前にもっと街の情報を、と辺りの人に聞き込みを始めた。


「ウラァァァ!!」


「ドリャァァア!!」


 道の真ん中で押し合う男たち。周囲の人たちは止めることなくそれを囲んで囃し立てている。


「いけー!」


「カウンター入れろ!!」


「顎よ顎!!顎狙いなァ!!」


「喧嘩か!?」


 互いの体に張り手をするのを見て、慌てて近寄るエイジロウ。するとその輪の周りで腕を組んでいた男が不思議そうな顔をした。そして納得したように笑う。


「ああ、観光客かアンタら。安心しろよ。アレは練習」


「なんのですか?」


「今月はスモウ大会なんだよ」


「今月?毎月あんのか?」

 
 ショートが尋ねる。


「毎回スモウって訳じゃねぇが、あったりなかったりかなぁ。月に2回ある時もあるし、それ以上の時も、何にもねぇ時もある。そりゃあ団長の気分次第だ。ちなみにだが、先月はトキョウソウだったぞ」


「催しってことか?理由は?」


「俺らの団長は競い合うのを見るのが好きでな。俺らも血の気が多いから嬉々としてやるってわけだ。それに小遣い稼ぎにもなるしな」


 「小遣い稼ぎだぁ?」カツキがそう言った時、わー!と民衆の歓声が上がった。4人が目を向ければ、試合が大きく盛り上がりを見せたようで周囲にいる観衆の応援にも熱が篭り始める。すると、突然、真ん中に座っていた女が「はった!はった!」と器を二つ取り出した。


「さぁ!さぁ!どっちに賭ける?ライドはオッズ1.5倍!レイドは3倍だ!!」


「俺ライド!!」


「賭けはハイリスクハイリターンだろ!俺レイド!」


「バァァカ!!勝てねぇやつに賭けるなら賽銭にでも入れとけや!」


「賭けに絶対はねぇんだよボケ!!」


 賭博である。こういう遊びは大人だけのものかと思っていたが、よく見ると子供もそれに混じってお菓子を賭けていた。それにあんぐりと口を開けるイズク達。


「ここは賭博も名物だからな。カジノも沢山ある。どこも団長お墨付きだ。遊んでいくといい。金がなくても遊べるぞ。なんでも賭け金になるからな。スった時は働きゃいい」


「闘技場もか?」


「あー、あそこも賭博はやってるが……普段からやってるわけじゃねぇ。それにちょっと違うこともしててな。ま、行って直接見るといいさ」


 そう言い終えると、男はくるりとイズク達へと向き直った。


「んで、アンタら本当は何しに来た?カジノがあることも知らねぇ、コロッセオを見に来たわけでもねぇ、つまり別の用事だろ。それに街のことを色々と聞き回ってるそうじゃねぇか」


 がらりと男の雰囲気が変わり、周囲の住民達もゆらりと立ち上がる。気付けばイズク達は住民に取り囲まれていた。前にも後ろにも逃げられない。ゆっくりと迫ってくる住民達の目と口角の上がった口元だけがいやに光って見えた。


「や、ヤベェんじゃねぇか」


「…俺らはテメェらの親玉をとっ捕まえに来たんだよ。怪我したくねぇなら下がれや!!」


 何処から出したのか武器を手にジリジリと距離を詰める住民に向かってカツキが吠えた。途端、住民達の動きが止まる。


「…んだよ!そんな事か!驚かせんなよなぁ」


「は???」


 先ほどの雰囲気はなんだったのか。カラッと笑った男が周囲の人間を手で払った。それに合わせて他の住民達もにこやかにその場から離れ、また何事もなかったかのように観戦に戻っていく。イズクは目を丸くした。


「悪りぃな。ここには稀に追手やら人攫いやらが来るもんでなー、間違えちまった」


「こ、殺されるかと思った…」


「殺し???そんなのしねぇよ。とっ捕まえて裏の森に捨てに行くだけだ」


 不安がるイズクに男がガハガハと笑う。ま、この辺に捨てると大体無事じゃ帰れないけど。と誰かが後ろで言った。  


「つーか、とっ捕まえるって言ってんのに見逃していいのかよ」


 カツキの言葉に男はニッと笑顔を浮かべると、ビシッと指を二つ立てた。


「あー、そうだな。詫びに教えておいてやる。ここには二つだけ守らなきゃいけねぇルールがある。一つ、賭けるものは己以外。二つ、団長の機嫌を損ねるな。だ。こっちは特に重要でな。つまり、俺らはボスの楽しみを取るわけにはいかねぇのよ」


「またダンチョウかよ。洗脳でもされてんじゃねぇのか。キメェ」


「うっせぇぞクソガキ。お前らを殺さないのは二つ目に引っかかるからだって覚えとけよ」


 それではまるで頭領のためだけの街だ。団長が好きな賭博を皆が楽しみ、団長のために祭りを行い、団長のさじ加減で全てが決まる。人喰い鬼の統べる街。カツキの言葉を真には受けずとも、少し気になってしまうのは事実で、イズクは恐る恐るその男に不満は無いのかと尋ねた。すると男はその質問が心底分からないというように首を傾げた。


「不満だ?ねぇなー。ここは外の何倍もいい。周りを見ろ」


 言われた通りに周りを見渡す4人。街には古傷だらけの男や女、鎖の跡のある人、老人、子供、そして魔族がいた。


「ここは人間の世界の端。つまり、色んな奴の最後に行く着く場所だ。冗談で掃き溜めなんて言う奴もいるがァ。まぁ普通の世界じゃ生きられねぇ奴がここには集まってくる。理由は色々だがな。脛に傷のあるやつ、元奴隷、元悪人、没落貴族、魔族との合いの子。外じゃ居場所なんてねぇ。だから誰も拒まずのこの街に救われてんだ。お前ら、ここが防波堤ってことは知ってんな。それは魔獣をここで止めてるからだけじゃねぇ。逆もあるんだよ。人の世界はここには関係ねぇ」


「外は地獄だからな」と言う男に聞いていた他の者も頷いた。


「ココが思ったよりも平和で驚いてんだろ。でもな、こっちからすればそう難しいことじゃねぇのよ。ここが平和なのは皆んなが皆、頭領を愛してるからだ。だから嫌われるようなことはしない。アノ人からすりゃあ俺らは勝手に足元に集まっただけの小石でもな。それを許す、“受け入れる”ってのをしてくれた人は俺らからすりゃあ恩人なんだよ」


「自分勝手だわ、自由人だわ、ルールはコロコロ変えるわと問題は多いが、んなもん愛嬌のうちにしか入らねぇ。頭領は俺らの唯一で、そうだなぁ。まさに愛すべきヒトってわけだ」


 ニヒヒと笑った男。ここまでで分かったことは頭領はカジノと夜、勝負事が好きで、早起きが嫌い、気分次第で法律も変えてしまう気分屋で、多分、自己中心的。それでいて、住民に愛される領主らしい、ということだった。


「あ、さっき言ったルール、一つ訂正するわ。さっきのルールを破っていい奴が1人だけいる」 


 男が言い終えた瞬間、タイミングを合わせたように町中にファンファーレが鳴り響いた。
 
 
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