▼ 1
インターンが始まって、早数ヶ月。エンデヴァー事務所・所長室で、大きく炎が上がった。
「何と言った貴様」
外の光だけが入る部屋。光を背に、影の中で瞳と炎だけがゆらゆらと揺らめく。対峙する名前は影の中、顔にかかる光に瞳を輝かせながらエンデヴァーを見つめていた。
「私は来る日、あなたについていかない。その許可が欲しい」
「どこで知った」
ヒーローしか知らない情報をなぜ貴様が知っているのか。内通者の存在があり得る状況下の中、ヒーローであるエンデヴァーがまず初めに持つのは疑いだった。名前はそれに、心底不思議そうに首を傾けた。そんなことはあり得ない。”自分”には無い。弁解などに興味はなく、ただその許可が欲しい。道理が通っているかなど名前にとってはどうでもいい事だった。
「ここで。でも関係あるの?ねェ、エンデヴァさん。もう一度言うね。私はその日、”敵連合及び超常解放戦線の一斉掃討の日”、貴方にはついて行かない。私が欲しいのはそれを許可したというあなたの言葉だけ」
「関係はあるだろう。貴様が敵の手先か知る必要がある。それが保証されなければ到底許可など出せん」
敵か味方か。名前にとって、それは確固たる証明をしなければならないものでは無い。裏切られたら倒せばいいだけ。敵も味方もそういう意味では一緒だった。だが、人はそうじゃ無い。ここではヒーローの道理を通さなければ、欲しいものは得られない。
「私は敵じゃない。信じてくれても信じてくれなくてもいい。その時は燃やせばいいだけ。情報を教えてくれたのはアナタだよ、エンデヴァー。ね、どうでもいい事だったでしょ。これで私の望み、叶えてくれる?」
大方、部屋に忍び込んだのだろう。エンデヴァーはすぐにその言葉が本当だと察しが付いた。
「アマチュアに出番など無い。それに、貴様は俺のインターン生だろう」
「どーでもいい」
吐き捨てた。そんな些細な事、どうでもいいと。エンデヴァーは眉を顰めた。
「そこに敵連合がいる。アイツらは私の先生を傷付けた。私のものを傷付ける。それを見てろとは言わせない。邪魔するならエンデヴァーさん、私は”この場“から離脱するヨ」
立場を捨てる。それは敵になっても構わないという言葉。ヒーローの立場に自由がないなら、それを捨ててしまえばいい。あっさりとその選択を選ぶことのできる名前がエンデヴァーには疑問だった。
「なぜそれが出来る」
「私は私の為に生きてるから。好きなことが出来ないような立場なら鼻から要らない」
その目は本気だった。邪魔するなら殺す、そんな顔だ。初めて会った時ならきっとまた違った対応をしただろう。だが、エンデヴァーはこの少女がただの自己中でも、才能に自惚れた者でも無い事をこの数ヶ月の内に知っていた。だから、最大限の信頼を込めて言う。
「…好きにしろ」
表情の無かった名前の鋭い顔が微笑みに変わった。歩み寄った名前の細く白い手がエンデヴァーの筋肉質な腕に乗る。それは名前なりの礼だった。
「ありがとう、エンデヴァーさん」
「フンッ」
「ふふ、頑張ろうね」
prev / next