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コスチュームに着替え、「まずはパトロールだ」とのエンデヴァーの指示に従い、事務所を出た4人とサイドキックの2人。
「救助、避難、そして撃退。ヒーローに求められる基本三項。通常”救助”か”撃退”どちらかに基本方針を定め事務所を構える。俺はどちらでもなく三項全てをこなす方針だ。管轄の街を知り尽くし僅かな異音も逃さず、誰よりも速く現場へ駆けつけ被害が拡大せぬよう市民がいれば熱で遠ざける。基礎中の基礎だ。並列思考、迅速に動くそれを常態化させる」
「何を積み重ねるかだ。雄英で”努力”を、そしてここでは”経験”を山の如く積み上げろ。貴様ら3人の”課題”は”経験”で克服できる。この冬の間に一回でも俺より速く敵を対峙してみせろ」
前を行くエンデヴァーがヒーローの基礎を説く。まさしくインターンの始まり。ここで実践的な力を身に付け、成長する。3人は人知れずそう意気込んだ。
「きゃーー!当て逃げよーー!!!」
エンデヴァーの駆け出しと共に足元から炎が吹き出し、一気に三者との距離が開く。轟、爆豪、緑谷もすぐさまその後を追った。だが、何か違和感がある。
「あれ!?」
1人足りないじゃないか。緑谷は驚きと共に慌てて後ろを振り向いた。後方では残る1人である名前が散歩でもしているかのようにのんびりと歩きながら、焦る様子も無く街を眺めていた。
「名前さん!?」
なに?とでもいうように緑谷の声に振り返る名前だが、急ぐ様子は無い。むしろ手をぺっぺっと払い、前へと促した。とっとと行け、である。それにはもう1人のサイドキックであるキョクセンも驚きを隠せないようで、驚いたように名前と前集団の双方の間で視線を忙しなく動かしている。だが、何はともあれ1人が付いているのならば安心だ。緑谷は前へと集中し、エンデヴァーの後を追った。
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「あいたァ!!」
「当て逃げ犯確保」
当て逃げ犯のバイクに炎の柱をぶつけ、転倒したところをすかさずサイドキック・キドウが確保する。遅れて到着した3人もエンデヴァーの隣に並んだ。
「一足遅かったな」
「冬はギア上げんのに時間かかんだよ」
「爆豪気付いてるか?」
「てめーが気付いて俺が気付かねーことなんてねンだよ」
イラつきと負けず嫌いが交差し、笑顔を浮かべる爆豪。とはいえ、轟が何を言わんとしているのかは爆豪にも分からないため、「何がだ言ってみろ」と続けた。
「(ちっ小っせェ…!)」
「あいつダッシュの度に足から炎を噴射してる。お前見てたか知らねぇが九州でやってた”ジェットバーン”恐らくアレを圧縮して推進力にしてるんだ」
「俺の爆破のパクリだ。つーかてめーーー今気付いたんか」
「――ああ、全く遠回りをした」
汗を滲ませ、轟が笑う。
「――No. 1が爆豪のパクリ?」
男だらけの集団で一つ違う声色。一足遅いどころか追いつく気もなかっただろう名前の声が背後ではなく、横から聞こえた。4人が顔を向けると、自分たちが来たのとは違う小道からサイドキックと共に名前がひょっこりと現れる。そして、爆豪の言葉に「そんなことするかなぁ」とでも言いたげに首を傾げた。
「あ?」
まるで汗をかいていない名前。むしろ、涼しげなその顔は元より追う気がなかったことを示している。
「ホントウゼェなテメェは。舐め腐り女」
「悪意あるあだ名。それって親密度深めるためのものじゃないの?」
「誰がお前と親密になんてなるかよ。つーか、テメェどこほっつき歩いてた。ちったぁやる気出せや。遊び気分が。まァ、テメェなんぞが本気出そうが俺のが早えけどな」
「えー」
爆豪の小言もマウントも流し、名前が面倒そうな声を出す。冬にせこせこ動きたくない。風冷たいし。そんな心の声が聞こえてくるようだった。
「もう一つ言わせてもらえば、あっちは大通りだ」
だが、そんな名前が今度は3人よりも速く、飛び上がったエンデヴァーとほぼ同時に地面を蹴り、その後を追い始めた。
「チッ!」
サボり癖は生来のもの。それは地獄の鬼とて直せなかった。だが、それと同じく、言われっぱなしでいられないのも名前の性格だった。それが分かった爆豪が舌打ちをする。
「短気っ!」
「先の九州ではホークスに役割分担してもらったが…本来ヒーローとは一人でなんでも出来る存在でなければならないのだ。ちなみにさっきのガラス敵の手下も俺は気付いていたからな?」
「小っせェな」
自身の言葉を棚に上げ、爆豪がエンデヴァーに言う。
「似た者同士じゃん」
それを進行方向に背中を向け、マントをはためかせながら、エンデヴァーの隣を走る名前が笑う。軽口を言えるだけあるほど、その姿からは少しも本気が見えなかった。普通なら腕を振って推進力を上げるところ、名前の片手には傘が握られ、もう片方の手はマントから出してすらいないのだ。つまり、その追走が爆豪の言葉に対しての行動であり、ヒーロー活動のためではないことを表していた。
「(やっぱりすげぇな……)」
轟はそれを個性のおかげだと思いながらも、前を見ないままでも細い足場を跳びながら進む身体能力と汗一つかかない体力に同じ土俵にいるとはなんとなく思えず、ただ素直に友人の力を認め、感心したような目を向けた。
「バクゴー、何が出来ないかを知りたいと言ったな。確かに良い移動速度。申し分ない。ルーキーとしてはな。しかし今まさに俺を追い越す事が出来ないと知ったワケだ。冬は準備が、間に合わなくても同じ言い訳をするのか。ここは授業の場ではない。間に合わなければ落ちるのは成績じゃない」
「人の命だ」
その瞬間、トラックと人との間に降り立ったエンデヴァーが炎の勢いでトラックを止めた。
「ショート、バクゴー。とりあえず貴様ら二人には同じ課題を与えよう」
「何で毎度こいつとセットなんだよ…」
不服そうな爆豪だが、エンデヴァーは取り消そうとはしない。
「それが赫灼の習得に繋がるんだな?」
「溜めて放つ。力の凝縮だ。最大出力を瞬時に引き出す事、力を点で放出する事、まずはどちらか一つを無意識で行えるようになるまで反復しろ」
「かっちゃん!徹甲弾と同じ要領だ!」
「何で要領知ってんだてめー。本当に距離を取れ」
何故か要領を知っている緑谷に本気で引く爆豪。名前はぷるぷると震える手で轟の肩に手を置くと、腹部を押さえて笑った。
「やばい、この幼馴染組面白すぎる」
「笑ってんじゃねー!!」
「大丈夫か?寒いのか」
その震えを寒さからだと考えた轟がボッと炎を出す。名前は特に否定をせずに、すっと体を伸ばすと、それに手を翳し、「あったかー」と溶けたように轟の肩にもたれ掛かり、火に当たった。
「情緒おかしいんかテメェ」
「エンデヴァーさんもこっち来て。寒い」
「……」
寄ることはなかったが、体の炎を強めたエンデヴァー。爆豪はそんなエンデヴァーを「なんでこいつもやっとんだ」と引いた目で見つめた。
「あったかぁ」
引き寄せられるように名前が今度はエンデヴァーの方へと歩き出す。
「名前」
轟は対抗するように炎の出力を上げた。ボウボウ、ゴウゴウ。燃え上がる2人の間でふらふらと名前が歩く。行っては戻り、戻っては行き、息子の手を煩わせるものか、と燃える父と、友人の為にと燃える息子。どちらに行くのか。そうして、2人の炎が燃え盛り始めた頃、名前はふい、と間から抜けた。
「……熱い」
「名前さん!!?」
結局、どちらとも距離を取った名前を2人の心情を理解し、居た堪れない緑谷が宥める。爆豪はそんな3人を見て「くく、」といい気味だというように笑った。
「名前」
それならこれはどうだ。と調整するように轟が氷を片手に生み出す。名前は一度、じっと氷を見つめてからマントに顔を埋め、顔を振った。
「いらない」
「名前さんん!!」
「真冬に氷はいい。夏ならいいけど」
「名前さんんんん!!!」
エンデヴァーの親心も轟の対抗心と純粋な良かれと思う心も理解できる緑谷がバッサリと断る名前を止めようと慌てて両手を振る。すると、名前のお腹がクゥと小さな音を立てた。
「ねぇ、もうすぐお昼だし一旦、ご飯食べようヨ。お腹すいてきた」
「マイペースッ!」
あとがき
シルバーソウル産だけある性格。
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