▼ 6
――――その少し前―――――
緑谷said
「名前さんっ!!!」
「私は大丈夫。じゃ、緑谷、作戦通りよろしくね」
「え!!!?」
試合早々、襲撃しにきたB組の宍田くんが切島くんのように空に向かって名前さんを投げた。やっぱり、彼女のことを警戒してるんだろう。宍田くんたちは彼女の個性を知らないみたいだし。きっと分断も先に僕らを確実に減らす為。彼女が「作戦通り」なんて言ったのは、僕たちに向けてじゃなく、B組に向けた彼女の牽制だったんだ。
「峰田くん!」
さっき彼女に投げられた峰田君と一緒に、次にこっちに向かって投げられた物間君を迎え撃つ。近接ばかりのチームだから、きっと物間くんも近接で来るはずだ。予想の通り、彼の腕が回転しだす。
「拳藤!宍田氏!」
「わかってる!!」
「任されましたゾオオ!!」
それを避けた時、物間くんが宍田くん、拳藤さんに合図した。そして2人が名前さんの飛ばされた方に向かっていく。そこで気付いた。向こうの狙いは最初から名前さんだったんだってことに。彼女と僕らを分断させて、僕らが狙いだと思わせて戦闘力、機動力、それに体力消耗の1番少ない彼女を先に総力で倒す。彼女から索敵役の口田くんを離すことができたらそれはより簡単になる。それが向こうの狙い。でも、今、あっちは2対1、こっちは3対1、先に物間くんを制圧してから行く方がいい。
「彼女を1人で抑えようだなんて思わないさ。なんてたって体育祭3位だ!!それにきっと僕らの作戦通りには動かない!!なら、後方が迎え撃つより前が後ろに行く方が早いってワケだよ!まさか前線2人が戻ってくるとは流石の名前さんも思ってないだろうしネェ!!!回原!!!」
「あいよ!!」
もう1人。物間くんの背後から飛び出した回原くんが口田くんを狙う。僕と峰田君は物間くんを相手にしてるから加勢にはいけない。口田君が鳥で回原くんの視界を奪ったのが見える。でも近接には武が悪くて、そのまま壁に叩きつけられてしまった。
「僕が足止めしておく。そいつ投獄して拳藤と宍田連れて畳みかけるんだ!僕もすぐに退散するけどね!!!!」
物間君はもう拳藤さんと宍田君が名前さんを捕まえた気でいる。たしかに2人とも近接に強いし、フィジカル面での宍田くんは凄い。それに頭脳には拳藤さんがいる。2体1なら十分な采配だ。だけど、彼女なら、大丈夫な気がした。
「君のは”スカ”だったけど、名前さんの個性は何かな!!!?」
物間君が個性を発動した。
「んん??なんかいつもと……またスカか?!回原!!」
名前さんの個性が使えなくて一瞬、回転の止まった腕を物間くんの腕を掴む。その隙に峰田君がモギモギを投げつけた。後はどこかに着けられれば…!
「分かってる!!!」
回原君が口田君を掴んだまま離脱した。先に主力と索敵を完全に切り離すつもりだろう。
「緑谷ァ!!口田が!!名前もどうなってるかわかんねぇえ!!」
「名前さんは強い!!きっと大丈夫!!彼女がそう言ったんだ!!僕らは物間くんと口田くんを!!」
「フハ、そんな自信何の意味も無いんだよねェ!!!」
口田くんを救出して、物間くんを捕える。そのためには何か。辺りを見渡す。
「そうだ!峰田くん!もぎもぎを!」
――――SONOSUKOSIATO――――
当初から決めていた合流地点に来た宍田と拳藤、2人の元にさらに回原が合流した。
「気絶しておりましたわ!!」
「起こすのに時間かかっちゃった。物間は?」
「作戦通りなら離脱してるはずだけど。どうだ宍田」
「逃げている模様!」
既に口田は牢獄に。残りは3人。本来なら名前も既に投獄済みでありたかったところ。
「やっぱり名前さんは先にやっといた方がいいね。3対1ならなんとかなる」
拳藤がそう言った時、宍田の鼻がぴくり、と動いた。
「ムム!!夜野氏いや、名前氏の匂いが物凄い速さで近付いてきてますぞ!!」
そんなバカな。どうしてここが分かっているのか。それに、なぜ真っ直ぐに向かってこれるのか。3人はすぐさま宍田の指した方に向けて構えた。
「あの子索敵能力無いんじゃないの?こっちの人数も仲間の数も分からないのに真っ直ぐ突っ込んでくるなんて、どういうつもりだろう」
「個性は怪力なんだよな?でも物間がスカだったって。俺、速攻で物間のとこ戻るわ。とりあえず峰田か緑谷狙う」
物間がコピー出来ないなら蓄積系か、それとも怪力は副産物的な物なのか。ただの怪力少女だと思っていた名前がコピーも出来ず、2対1でも押し切れないという予想外の事態に拳藤達は少しばかり焦りを感じ始めていた。
「林間でデカイ山持ち上げてたからそうだと思うけど、ハッキリとは分かんない。さっき戦ったけどなんか変な感じだったし、動きも全部読まれてた。体育祭でも風みたいなので爆豪の爆破吹き飛ばしてたよね」
「っ来ましたぞ、」
宍田がそう言った瞬間のこと。
ドオオオオオオオン
「ワンちゃんは鼻が急所だもんね」
3人の間を地面と平行に名前の体が横切った、と理解したと同時に宍田の巨大が吹き飛ぶ。名前はそのまま真っ直ぐに入り組んだパイプの間を抜け、拳藤、回原の前から姿を消した。ハッとした回原が振り返る。
「宍田!!!」
壁にめり込んだ宍田がよろよろとそこから抜け出る。
「ウガアアアアアアアア…!」
そしてその場で膝を着き、鼻を押さえて悶えだした。
「鼻をッ、やられました、」
すり抜けざまに宍田の鼻から横っ面にかけてを名前が蹴り飛ばしたのだ。鼻のいい生き物にとっては急所ともいえるそこ。回原、拳藤は宍田の鼻が封じられたことを理解した。
カーン、カーン、カーン
「何の音だ!?」
「落ち着いて!心理攻撃だよ!!」
拳藤と回原が互いに背中を向ける。名前の姿は見えない。同じ方向から響いていた音は少しずつ移動し、次第に様々な方向から音が鳴る。次第に一つだった音が増え、重なり始めた。
「取蔭みたいに分裂できるとかか?」
「どうなんだろう…。そんな訓練してなかったけど」
「ガオ」
すぐ傍で聞こえる、猛獣を模した第三者の声。
「(いつの間にッ!)」
「(コイツ!)」
すぐさま2人が振り返った瞬間、逆さまのまま包帯の奥で赤い瞳が笑顔の口元のように弧を描いた。そして突き出された傘の先が拳藤の腹部を突き、回原の視界から拳藤の姿が消え、代わりに土煙が背後で立つ。
「ハッ!!!?この距離まで気づかないなんて事あるかっ!!?」
四肢を回転させ、名前に拳を振る。だが、それは難なく交わされてしまう。
「まだまだ!!」
頭を狙っても傾けて交わされ、体を狙ってもヒョイっと避けられる。まるでステップでも踏んでいるかのように軽やかだ。こんな…!たった1人に…!!!回原の中にそんな焦りが生まれる。
「(作戦も何もあったものじゃ無ェ!)」
「予知でもできんのかっ!?」
その視界の中、名前の背後から鼻を押さえたままの宍田がよろよろ近づいて来るのが映った。
「くぅ…ッ、回原そのまま押さえてて!!」
自分の背後からは拳藤の声がする。
「(3人で挟み撃ちすりゃ予知出来ても意味ねぇだろ!!)」
――――――SOREYORIMOSUKOSIMAE――――
観覧side
モニターには撤退する拳藤、宍田を見送る名前が映っている。
「名前索敵能力ないし、一旦、緑谷達のとこ戻った方がいいよね」
「ああ。アイツ何人捕まって何人捕まえたかとか分かってねぇもんな」
耳郎、上鳴がそんな話をした矢先、カメラの中の名前が宍田と拳藤の去った方に向かい、駆け出した。先では回原と合流し、3人になったBチームがいる。焦っているようには見えないが、どこか早急な行動だ。学生同士の実力は大きくは変わらない。それ故に人数差が影響する。1人で複数人がいる場所に飛び込むなんてチームにとってはリスクが高い。
「一人で突っ込む気か??Bチーム3人で居るぞ!!」
「なんか焦ってんのかな」
「夜野は冷静な奴なんじゃ無かったか?」
B組のブラドキングが相澤にそう言った。クラスメイトも相澤を見る。
「……アイツはああ見えて、今までの爆豪以上のワンマンプレイヤーだ。主張しないだけでな。冷静さを欠いてるんじゃなく単純にチームメイトの所に行く理由が無いんだろう」
画面の中の名前のスピードがどんどん上がる。走りが跳ぶに変わって体がほぼ地面と平行になった。
「はぇえ!」
「カメラに一瞬しか映んねぇな」
そのままのスピードで入り組んだパイプの間を進んでいく。
「あいつ、あんな早く動いてなんで、どこにもぶつかんねぇんだ?」
「あれ見ろよ。パイプとか壁に手足の形付いてる。よく分かんねぇだけで細かく方向転換してんじゃねぇか」
そして作戦会議中のBチーム、3人の間を名前が通り抜けた。そしていたはずの宍田が消える。
「あれ、宍田消えた!?」
「あっち見ろ!多分、横切る時に攻撃入れた!」
『ウガアアアアアアアア…!』
「索敵を初っ端に潰したか」
3人の視界から消え、傘をパイプに一定の間隔で当て始める。狭く入り組んだパイプの上を移動し、その間も傘を当て続ける。今度は傘を一定間隔で当てたまま地面やパイプを手で一部抉り取ってそれを投げ始めた。
「ストレス与えてんのかな」
「なんか地味」
「夜野さんって個性イマイチ分かんないんだよね。怪力で合ってるのかな?」
B組が口々にそう言っているのが耳に入り、クラスメイト達が名前の意図に気づいた。
「あっちは個性わかってねぇみたいだし、何の個性かより分かりにくくさせて撹乱狙ってるっぽいな。索敵の宍田は鼻やられて直ぐには動けねぇ。ストレスもあるし、さっきの戦闘で拳藤も得体知れねぇって警戒してる。多分、2人で迎撃しようとする筈だ。ハナっから何人いようが離散させずに全員やるつもりだったんじゃねぇか」
彼女が地味な攻撃を続ける理由は警戒を解かせないため。轟がそう言った時、名前がパイプの上から頭を下に落ちた。まるで脱力したかのように真っ直ぐに落ちていく。ほぼ真上からの落下にも関わらず、背中を合わせた拳藤、回原は気づいていない。
「Bチーム全然気づいてねぇぞ!」
「気配まで消せんのか!?」
『ガオ』
2人の真横まで来た名前がニヤァと笑い、拳藤を傘で突いた。
「ヒーロー側の顔じゃねぇんだよな。クソこえぇ」
「宍田復活した!挟まれんぞ!」
正面に回転してる回原、背後から忍び寄る宍田。拳藤だってギリギリではあるが動けている。やばい。完全に囲まれた。クラスメイト達がそう思った時、名前はひょいっと上に跳び、回原の攻撃を避けた。
それだけに終わらず、傘の石突きを足の甲で蹴り上げ、自分の背後へと真っ直ぐに落とした。そして、その石突きを後ろの宍田に向かって足の裏で蹴る。それは観客も宍田にとってもまさかの攻撃だった。遊んでいるようにも見える攻撃だが、普通の身体能力ではあんなことはできない。
避けることも間に合わず、傘が顎に直撃した宍田が体勢を崩す。それを見て、すぐに立て直した拳藤と回原が間合いを詰めた。それを名前がジャンプで避けた時、モニター横のマイクに彼女を呼ぶ声が入った。
『名前さぁぁん!!!
「緑谷来た!!ぶつかるぞ!!」
緑谷が上空から助けに来る。だが、タイミングが悪かった。そこは飛び上がった名前とぶつかる軌道だ。それに気付いた名前が咄嗟に体勢を変え、緑谷を馬跳びするように避ける。すると名前からすっ、と表情が消えた。
夢side
背後から近付く大きな気配に向け、蹴り上げた傘の先を再度蹴り飛ばす。ゴンッと鈍い音がして大きな体が倒れる音が続いた。
「これも気付くかっ!!」
「ギリ、動ける!援護する!!」
よろよろと動く拳藤と回原の攻撃を飛んで避ける。すると、空から急速に一つの気配が近付いてくるのに気付いた。目だけを向ければ、緑谷が真っ直ぐに近付いてくるのが見える。
「わっ、わっ」
体勢を変えるのが間に合わないのか、避けようとしない緑谷。それを馬跳びの要領で飛び越え、襟首を掴んだまま放り投げた。
「そこで見てなさい」
「隙あり!!!」
突き出された回原の回転する腕を手で掴む。
バチンッ
だが、回転が早く、弾かれてしまった。すぐさま相手を近付いてくる拳藤に変え、巨大な手を蹴り飛ばして距離を空ける。
「折角の援軍自分で退けて良いのか!?あんたの攻撃は俺に当たらねぇし防御もできねぇ。避け一択だ!!」
回原に吠えられ、名前に火が付いた。
「ブラドさんが言ってたでしょ。”互いに敵と思え”って。君達の前にいるのは敵、つまり……”脅威”だよ」
「っらァ!!」
再度腕を掴み、名前はぐっとその手に力を込めた。
「うっそだろ!!!」
ギュンギュンと音を立てて回転していた腕のスピードが目に見えて落ちる。
「まだ残ってんだよ!!」
「右足?」
「くっそ!!」
言葉通り上がった右足を足で押し返す。口に出したことでさらに焦りだす回原が回転スピードを上げた。掴み止めている腕が少しずつ回転し始め、それを上回るようにさらに力を込める。
「回れっ!うぉぉらァァアアアア」
上がれ上がれ。もっと上がれ。さらに力を込め、それを止める。すると背後でもはや満身創痍の宍田が立ち上がった。この間にやれ!宍田!!その瞬間、名前はぱっと、やけにあっさりとその両手を離した。
「は、」
「援軍を退けたのはアナタも一緒」
スピードの上がった回原の軌道に少しだけ手を加え、宍田へと投げる。抑えのなくなった回原は個性を消すのも間に合わずに宍田の腹に攻撃を当てた。
「グハッ」
「し、宍田!!ぐあっ!」
驚いた回原を気絶した宍田ごと壁に蹴りで叩きつけ、2人を踏み込んだ勢いで拳藤の所に跳ぶ名前。
「宍田!!回原!!!」
「君もだよ」
そして、すでにふらつく拳藤の頭を掴み、地面に軽く叩きつけた。これで2人が気絶。残る動く気配はひとつだけ。
「耐えるねェ」
「ま、だ動けます、ぞ。2人を連れて逃げれば、勝てはせずとも、負けは…」
「無理だよ。私は逃がさない」
そばにいた回原を抱え、立ち上がろうと地面に手を突く宍田に歩み寄る。彼は逃げもせず、その場で目を瞑った。
「勇気があるネ」
気絶しても牢獄に入れられなければ負けじゃない。つまり、例え気絶したとしてもどこかで身を潜める、またはこの場になんとしてでもしがみつき、時間経過を待つ。そんな覚悟。名前はゆっくりと片足を上げた。そして、それを振り下ろそうとしたその時、一つの腕がそれを引き留めた。
「名前さん!!」
「なに?」
緑谷の瞳がゆらゆらと揺れている。それは何かを必死に訴えているようで、それがただただ、鬱陶しい。
「だめだ!!」
まだ、足は上がっている。気にせずに振り下ろそうとした時、足の当たる直前で宍田の首がガクンと落ちた。
「名前―!緑谷――!!」
走ってくるのは峰田。彼もまだ残っていたらしい。足を地面に着け、宍田を肩に抱える。回原、拳藤をその上に乗せ、名前はプリズンに向かった。そこには既に物間の姿があった。
『4−1!A組の勝利!!!これにて6セット全て終了です』
ミッドナイトが全結果をマイクで述べる。だが、そんなこと、名前にとってもはやどうでも良かった。その目的はただ1人。
名前は観覧席に戻るA組とB組、その最後尾を何事もなかったかのように歩く緑谷の首を背後から掴むと、勢いよく後ろへと引き倒した。そして、碌な抵抗も無く、地面に背中をつけて倒れる緑谷の上に立ったまま跨る。名前の目は冷たく緑谷を見下ろしていた。
「わっ!え、名前さん!!?」
「服!服の中見ろ緑谷!!!」
ジャキンッ
リロードした傘の銃口が緑谷に向けられる。それを持つ名前の目には一切、躊躇はなく、騒いでいた峰田も「ヒィッ」と鳴いたきり、口を閉じた。
「緑谷。ねぇ。どうして2度も私の邪魔をしたの?」
名前の言葉はただ尋ねているかのように穏やかだったが、緑谷、峰田に答えない選択肢は無い、と思うほどの気迫を肌に感じさせた。それは移動し、胸に添えられた銃口からも感じられる。
「それは…ごめん、!!君が3対1だったから!」
「立派だね。でも、私は初めに大丈夫って言ったでしょ」
「そうだけど…!君は仲間だから!!」
立派な心構えだ。だけど、それは純粋であるが、驕り以外の何物でも無い。
「緑谷。私強かった?」
「も、もちろん!」
そう。そうなの。それなのに。
「私は今までに何回も、何百回も、何千回も、来る日も来る日もただただ戦って技術を身につけた。相手の力量ぐらい測れる。そして、その上で私が”大丈夫”だって判断したのヨ。緑谷はそんな私のことが信じられないの?もし、そうだとしたらそれは侮辱にも近い」
「それに最後のも。彼らは私達の”敵”、彼らにとって私達は”敵”。無駄な情けは戦場に必要ない」
緑谷は何かに気付いたかのようにハッとすると、あの意志の籠った目で見上げた。
「本当にごめん。君を信用してなかったわけじゃないんだ。むしろ、君はこの中の…誰よりも強い人だと思ってる。でも、心配で。結果邪魔しちゃったけど。2度目は…やり過ぎだと思って」
「本当だぞ!!緑谷はお前を信じてた!」
私は自分の技術、それを培うための努力、そしておっ死ぬまで生き残った自分の強さに自信を持っている。無駄な心配は侮辱に近いとさえ思うのだ。緑谷の目をじっと見つめる。緑谷は目を逸らさずに名前を見返した。その目に嘘はない。本気で心配の気持ちだけで加勢に来たのか。怒りが音を立てて抜けていく。
「……流石ヒーローだね。でも、加勢に来るならサポートできるようになってからにして。次、邪魔したら君ごと相手を叩く。2度目のは……私は気絶させるべきだったと思う」
でも、覚えてはおく。緑谷にとってはかけるべき情けだったと。緑谷の上から退き、開いた傘を肩に担ぐ。すると緑谷がもう一度、名前の名を呼んだ。
「名前さんは、僕らを信用してた…?」
銃口を向けられても動かなかった緑谷の瞳が揺れる。
「信用してたから物間くんそっちに投げたんだよ」
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