第1話3/4
ピーンポーン。
「お客さんかな?」
「俺が出てきます。」
柳は仕事部屋を出て行った。
「朝連絡あった人じゃないですか?」
「だろうね。幸村君、お茶の用意お願い。」
幸村もはいと言って、仕事部屋を出て行った。
「先生、お客様です。」
「ありがとう。…どうぞお入りください。」
柳はドアを開け、仕事部屋に案内する。
「お越しいただきありがとうございます。どうぞソファーにお座りください。」
入ってきたのは帽子をかぶった中年の男性と、髪がクルクルとした男の子だった。
「俺は真田弦一郎。こっちは息子の赤也だ。」
赤也は軽く会釈をする。
「咲原です。こちらは助手の柳です。」
柳は丁寧にお辞儀をした。
「あともう1人…幸村君入っていいよ。」
片手におぼんを持った幸村が入ってきた。
「すみません、入るタイミングがわからなくて。」
「気にしないで。…助手の幸村です。」
幸村はお辞儀をした後、持ってきたお茶を配る。
「今日のご用件は?」
米紅が聞くと真田はおもむろに、手紙を取り出した。
「怪盗仁王を知っているか?」
真田は何の前置きもなく話を始めた。
「怪盗仁王?少しだけなら知っていますが。失敗しない怪盗だと友人から聞いたことがあります。」
「その怪盗仁王から予告状が届いた。」
真田は手紙を机に置く。
「触っても大丈夫なんですか?」
米紅は指紋云々の心配をした。
「警察に調べてもらったが、何も出なかった。」
米紅はでは、と言って手紙を手に取る。
手紙にはこんな内容が書かれていた。
『10月20日、午後7時にあなたの家の¨熊の置物¨をいただきに参ります。怪盗仁王』
10月20日は3日後である。
手書きではなくプリントされた文字だった。
切手はついていないので、直接届けられたようだった。
「熊の置物…?」
普通なら純金でできた置物や、宝石を盗むのではないだろうか。
米紅はそう思った。
「真田家に代々受け継がれている、家宝だ。」
たぬきの置物しか想像できない米紅に、柳はそっと耳うちする。
「年代物です。お金に換算すると二千万円くらいですね。」
その値段を聞いてギョッとする。
「熊さんってえらいんですね。」
訳のわからないことを小さくつぶやく米紅に真田はしかめっ面になる。
「無理か?」
「えっと、何を?」
真田という男は話を直球でするくせがあるらしい。
それとも、盗まれると焦っているからなのか。
「怪盗仁王から家宝を盗まれないように守ってほしい。」
依頼は実にシンプルで、特に推理や調査がいるものではない。
どちらかと言えば、警察の仕事なのではないか?
その思いが伝わったのか、真田は言葉を付け足した。
「警察に頼んだ時、腕のいい探偵がいると聞いたんだ。」
警察署長の勧めだったらしい。
良かったらと電話番号と地図を渡されたそうだ。
「署長の推薦ですか。」
「できるか?」
「やってみましょう。」
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