第5話 3/3
「…ずいぶんと広いお家だったんだね。」
いかにも日本の家という感じで、門がある。
表札には『真田』の文字。
その下には見えにくく、控え目にインターホンがあった。
ピーンポーン。
『はい、どちら様でしょう?』
赤也らしい声がインターホンから聞こえてきた。
「咲原です。見学に来ました。明日は海に行くので、今日お願いします。」
最後の2文は合い言葉みたいなものだった。
念のためと米紅が決めておいたのだ。
『了解しました。少々お待ちください。』
少しだけ待つと、門が開いて、真田が出てきた。
「どうぞ、中へ。」
中に入ると庭がやたらと広いのが目につく。
池もあって赤い鯉が泳いでいた。
「すごく広いですね…」
「…そうだよね、そんな高いクマさんいるなら家が広いなんて当たり前だよね。」
「家の配置もなかなか複雑ですね…」
幸村、米紅、柳は真田には聞こえないように小さくつぶやいた。
「少しここで待っていてほしい。」
とおされたのは20畳の和室だった。
壁にある掛け軸には『風林火山』と書かれていた。
「なんか緊張するね。」
「先生も緊張なさるんですか?」
「柳君私をなんだと思ってるの。」
「でも先生の場合、お茶とか飲むと、もうのんびりしてそうですよね。」
「幸村君まで…」
「失礼します!」
元気な挨拶が聞こえ、ふすまが開く。
声の主は赤也だった。
「お茶とお菓子を持ってきました!」
意気込み過ぎて、逆に心配になる。
こういうことにはあまりに慣れてないようで、お茶を渡す仕草にぎこちなさがあった。
「ありがとう。」
米紅は笑いかけるとパアっと笑顔になる赤也。
「いえ!」
赤也が続けて何か話そうとすると、真田が入ってきた。
「赤也は右側にいけ。」
赤也は口を開いたのを止め、大人しく座った。
「話がある。」
真田の話はいつもどおり、少しばかり唐突に始まった。
「警備に混ぜてはもらえないだろうか。」
話の内容はいつもにも増して唐突だった。
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