序章
白石蔵ノ介Side


久々知明さん。
1ヵ月程前に、兵庫県の大川学園から転入してきた女子。しかも3ヵ月だけという期限付きで。
もう1人、同じく大川学園から転入してきた女子は、隣のクラスの1組に入ったと聞いた。
どうしてこういう異例な事態になったかというと、大川学園の学園長と、うちの校長の仲が良いからだろう。
大川学園の学園長の提案に、面白がった校長が乗ってしまった結果というわけだ。ええんか、それで。



「なんや悪いことしとる気ぃするなあ」



久々知さん、振り回されて可哀相や。
俺の言葉に、謙也は「せやけど決定事項なんやろ?」と頭の後ろで腕を組む。呑気やなあ。
そういや久々知さん、学園長と連絡取り合えるってどないな仲やねん。



「あ、戻ってきたで」



謙也の言葉に、教室の引き戸に視線を向ける。
久々知さんは眉間に皺を寄せながら、こちらへと戻って来ていた。あかんかったか。
久々知さんは俺達の前まで来ると、「駄目だった」と小さく呟くように言う。やっぱり。



「合宿っていつから?」
「夏休み初日から1週間やで」
「1週間!? そんなに長いの!?」



驚愕の表情を浮かべる久々知さんに苦笑してしまう。
確かに、急に合宿に参加するよう言われて、しかも1週間なんはキツイなあ。
それに加えて、女子テニス部じゃなくて男子テニス部。
男だらけのところに女子2人だけで過ごすことになるのは、誰だって辛いだろう。



「久々知さん、合宿中、なんかあったらすぐに言うんやで。男だらけなんやし」
「いや、そんなことよりも弟が……」



弟?
久々知さんは顎に手を当てて、「夏休みに会う予定だったのに」と呟く。表情はしかめっ面だ。
せや、久々知さんは兵庫に家族がおるんやった。
急に大阪に来よったから、夏休みいっぱいは実家に帰るつもりやったかもしれへん。
ほんまにもう、大川学園の学園長は何を考えとるんや……。
とにかく合宿中、部長として、久々知さんともう1人の子を守らなあかん。



「で、久々知さんには今日からでもテニス部に参加してもらうで」



謙也の言葉に、「えっ」と驚いて謙也を見る久々知さん。
何から何まで急で申し訳ないが、少しでもマネージャー業に慣れてもらう必要がある。
夏休みが始まるまで残り2週間も無い。
男子テニス部の活動は週4日くらいだから、教えられるのは実質1週間程度しかないのだ。
せや、テニスのルールも教えんとあかんな。



「ほな、これからよろしゅうな!」



満面の笑みで言う謙也に対し、久々知さんは引き攣った笑みを見せた。

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