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近藤さんと再会して、数日が経った。
毎日のように、寝る前に近藤さんと電話を交わしている。やっぱり私は、近藤さんのことが好きなんだと、改めて思った。彼はきっと、私の親代わりをしてくれるつもりなんだろう。貴志でいう、塔子さんと滋さんのような。

ずっと考えていた。私は、どちらに住みたいのだろうか、と。

この時代に来てしまった私を拾ってくれた貴志にも、快く居候させてくれている塔子さんや滋さんにも感謝している。だけど私は……、私は……、近藤さん達とも一緒に居たい。どちらも選ぶことができないのは分かっている。だから私は……。



「あの、お話したいことが、あります」



夕飯の時、私の心を、貴志を含む塔子さん達に話すことにした。




 ***




「いらっしゃい! さあ、上がってくれ」



マンションと呼ばれる建物の一部屋が近藤さんの住んでいる場所だった。
一緒に着いてきてくれた貴志が私の荷物を持ってくれて、二人で「お邪魔します」と言いながら中に入る。玄関先からでも分かるが、部屋がとても広い。それに綺麗だ。
靴を脱いで部屋の中を進むと、近藤さんに「適当に座ってくれ」と言われる。とりあえず、貴志が座ったところの隣に座る。近藤さんが、机を挟んで私達の前に座った。



「ありがとう、伊織君。俺の我が儘を聞いてくれて」
「いいえ、これからお世話になります」



結局、私は近藤さんと一緒に暮らすことに決めた。
貴志達に会えなくなることは寂しいが、貴志は「電話するよ」と言ってくれた。人との繋がりを大事にする貴志のことだ、お互いの生活が忙しくて電話が途切れてしまっても、再会すれば変わらず接してくれるだろう。



「この時代を生きるにあたって、戸籍の問題だったり義務教育の問題だったり、色々やらなきゃいけないことがあるんだが……、まあ、それは俺に任せてくれ」



こせき? ぎむきょういく?
聞きなれない言葉に、首を傾げる。分かっていない私に、近藤さんは苦笑した。



「伊織君の部屋はあそこの部屋だ」



近藤さんが指さしたのは、一番隅の部屋。彼曰く「一人暮らしなのに部屋が多いものだから、ずっと使っていなくてな。あ、大丈夫、ちゃんと掃除はしたから」とのこと。衣服や櫛等、身なりに関係する物しか持ってきていない私。使っていない布団はあるのだそうだが、箪笥や机等、必要となる物は後日、改めて買ってくれるそうだ。



「そうだ! お茶を出し忘れていたな!」
「あ、お構いなく。用が済んだので、俺そろそろ帰ります」
「え、もう帰っちゃうの?」



立ち上がる近藤さんに、慌てながら言う貴志。思わず反応すると、「後は伊織と近藤さんで話すことあるだろう?」と言った。私達に気を遣ってくれているらしい。だけど、このまま別れるのは寂しい。もう少し話していたいのに、話題が何も浮かばないことが歯がゆい。



「大丈夫だよ、伊織。言っただろう? 会いに来るって」



優しく言われる。安心できるのは貴志だからなのだろうか。



「うん、来て。待ってる」



私も笑って言う。意外だったのだろうか、貴志が驚いた表情を見せる。しかし、笑って「ああ」と頷いた。
ずっと見ていたいと思う程、綺麗な笑顔。
見惚れていると、貴志が玄関に向かって歩き出したことで、ハッとする。近藤さんと一緒に玄関まで歩くと、貴志は靴を履き、私達に向き直った。



「じゃあ、近藤さん、伊織のことよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ!」
「はい。伊織、またな」
「……うん、またね」



名残惜しいけど、自分の選んだ道だ。仕方がない。
玄関のドアを開けて、外に出る貴志。ドアを閉める時に、貴志が笑みを浮かべながら私に手を振った。私も慌てて手を振り返す。ドアが閉まる直前、最後に見た貴志の顔は、おかしそうに笑う表情だった。
パタン、とドアが完全に閉まり、静寂が私達を包み込む。今更ながら、貴志と離れたことに後悔してしまった。だけど、後戻りはできない。



「……成程。伊織君は貴志君のことが好きなのか」
「えっ!? な、なに、言ってるんですか!」


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