24

妖を追いかけてどのくらいの時間が過ぎただろう。そろそろ、体力も限界が来た。私の走る速さが段々と落ちてきて、終いにはその場に、ペタン……、と座り込む。



「も、もう駄目っ……、走れないっ……」
「確かに、だいぶ走ったからねえ……」



胸元に手をあてながら、必死に息を整える。どうしよう……、これで手がかりを完全に見失ってしまった。体力なんてほとんど残ってないし、追いかけていたはずの妖の姿も見えない。俯いて必死に息を整えていると、私の足元に黒い影ができた。私は驚いて、その影の正体を見たいる。
――そこには、今まで私が追いかけていた妖だ。



「ヒトのコ、疲れた、カ?」
「心配、してくれるの……?」
「”シンパイ”違う……、疲れタ、好都合……」



てっきり疲れはてた私を心配してくれる、優しい妖かと思ったら、どうやら違うらしい。その妖は、鎌をどこからか出し、刃先を私へと向ける。私は驚き、立ち上がって後ずさる。私の危険を案じ、ヒノエが「この子に触れるな!」と私の前に出てきてくれる。けど、このままではヒノエが斬られてしまう。まともに動けない私は「ヒノエ! 下がって!」とヒノエに声をかけるものの、ヒノエは聞き入れてくれず、妖を威嚇している。



「邪魔ダッ!」
「ぐッ……!」



私と同様、走り続けて体力を消耗しているヒノエは、妖の足によって蹴り飛ばされてしまった。「ヒノエ!」と名前を呼ぶが、遠くに蹴られたヒノエはそのまま起きない。気絶してしまったようで、私は、ぎゅっ、と持っている竹刀を握りしめる。相手は鎌。鎌と竹刀じゃ、鎌が勝つに決まっている。でも、隙があれば、きっと逃げれるはず。



「ヒトのコ、戦ウ?」
「っ……」



私が無言で立ち上がって竹刀を構え、目の前にいる妖をキッと睨むと、妖は愉快そうにケラケラと笑う。



「……気に入った。……オマエ、気に入っタ」



ニヤ、と笑ってゆらゆらと体を揺らす妖に、私は思わずゾクッとした。……この妖、恐らく最近噂になっている妖だ。思わず、足が震える。でも、戦うんだ。なんとか隙を見つけて、ヒノエを連れて逃げよう。「行くゾッ……!」と相手が鎌を縦に振り上げ、思いっきり振り下ろした。私は横にかわして妖の首元に竹刀を振り、思いっきり叩く。



――パァンッ!
「ッぬ、ぐ……!?」



今持っている力を込めて思いっきりやったせいか、妖は少しよろける。妖は体勢を立て直そうとするが、隙を見つけた私は、すばやくヒノエを抱きかかえ、妖に背を向けて走って逃げる。案の定、「待テ!」と体勢を立て直した妖は後ろから私を追いかけてくる。体力も万全ではない私がこのまま逃げ切れるとは思えない。何も策を練っていない分、走りながらどうするべきか考えるしかない。



「大人しく捕まれバ良いモノヲ……!」



捕まって死ぬなんて冗談じゃない。私には、まだやりたい事がたくさんある。妖に追いつかれないように全力で走り続けていると、前方に光が見えた。あれは、火だ。薄らと人の形のようなものが見えるけど、それが何なのか分からない。



「っ、はあっ……」
「疲れタか? 大人しク、捕マレッ」



ケラケラ笑う妖の言葉を無視して、私はひたすら走った。人影に近づくにつれ、それが何なのか、誰なのか分かった。「土方さん!」と必死に声をあげながらその人の名前を大声で呼ぶと、私の声に気付いたのか、その場に居た全員が私を見る。土方さんは少し驚いた表情で「橘!」と私の名を呼ぶ。土方さん達の前で止まり、息を整えながら「なんて言おうか……」と頭を巡らせる。でも、このまま止まって土方さん達に説明しても殺されるに決まってる。私がなんとかしなければ……。



「下がっていろ、伊織」



後ろから三篠の声が聞こえた。驚いて後ろを見ると、妖と向き合っている三篠が居た。頼もしいその後ろ姿に、私はホッとする。「この妖、なかなか強い者だな」と言いながら、ニヤ、と笑って余裕そうに腕を組む三篠。「もう大丈夫」と判断した私は息を整えながら、近くの壁に体を預ける。その際、千鶴ちゃんが私を助けるように背中をさすって声をかけてくれた。



「はあっ、はあ……!」
「だ、大丈夫……?」
「う、ん……っ……」



自分のことより、ヒノエのほうが心配だ。あれからずっと、ヒノエが目を覚まさない。自分の腕の中にいるヒノエを見るが、やはり起きていない。何か処置をしなければならないのだろうか。



「伊織ッ、逃げろ……!」



三篠の必死そうな声が聞こえて顔をあげると、目の前には妖の顔と、腹部に痛みを感じた。一瞬、何が起こったのか分からなかった。けど……、腹部から出る血を見て理解した。
――ああ……、刺されたんだ。


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