20

内心後悔していると、ボンッと音を立てて妖が煙で包まれた。凄い近距離だった為、煙を吸い込んでしまい「ごほっごほっ」とむせてしまう。煙が晴れると、そこには先程の妖ではなく人間が居た。もはや何が何だか理解不能だ。



「改めて……、私の名は三篠。お前が死ぬまで側に居よう」
「はあッ!? どっか行けっつの!」
「うるさいぞ、ヒノエ。娘が死んだとき側にいなければ横取りされてしまうだろう」



肌が少し濃く、髪の長い耳に鈴をつけた見た目二十代の男性が目の前に居る。その男性はニヤリ、と笑って私を見る。私は唖然としてその男性を見る。土方さん達も、突然現れた男性に目を丸くして驚いているようだ。
ど、どちら様でしょうか……?
唖然とした私の表情に、「先程、あなたの目の前にいた妖ですよ」とまたもや、ずいっ、と顔を近づけられる。あの妖が、人間の姿になってしまった。しかもさり気なく格好良いし……。って、そうじゃない! そうじゃないって! 混乱して何を話したら良いのか分からない。
その時、藤堂さんが「ちょ、おい! ど、どうなってんだ!?」と私の隣に来た。彼の言葉に、私と三篠が藤堂さんへと顔を向ける。私が三篠へと顔を向けると、三篠は一歩前に出る。



「私は先程、あの男に憑いてた妖だ。人の姿のほうが都合が良いと思ったんだが、無理があったか?」
「へ? い、いや、そんなことねえけどよ」



なんだか複雑そうな顔をする藤堂さん。小声で「何気に格好良いし……」と言う呟きが私にまで聞こえてしまった。三篠には聞こえなかったようで「何か言ったか?」と聞いたが、藤堂さんは慌てた様子で「な、なんでもねえ!」と返事をした。藤堂さんと三篠、意外と仲良くなりそうだなあ。そんなことを思っていると、「橘」と土方さんに呼ばれ、土方さんを見る。土方さんは腕を組みながらこちらを見ていた。



「お前が決めたことだ、文句は言わねえ。ただ、気を付けろよ」



慌てて「は、はいっ!」と頷く。私もちゃんと信用したわけではないけれど、これから仲良くできたらしたい。



「つーか、芹沢さん気絶したまんまで起きねぇなァ。せっかく酒買ってきたっつーのに」



ムスッ、とした表情でそう言う龍。確かに、先程から芹沢さんが起きない。三篠が芹沢さんから離れてから結構経つと思うんだけど……。……あ、まさか……。心当たりがある為、三篠に「芹沢さんに憑いたとき妖力たくさん使った?」と聞くと、「ああ」と頷かれる。やっぱり。



「だったら芹沢さんは三日くらい起きないかもなあ……」



その呟きが山南さんに聞こえたのか、山南さんに「何故ですか?」と聞かれた。私は苦笑しつつも、その問いに答えた。
妖が人にとり憑いて、その体で妖力を使うと人の体に負担がかかる。そのせいで何日か眠ったままの状態が続くのもおかしくはない。私の説明に、山南さんは「なるほど」と呟く。そして、その後に「妖も奥深いんですね」と言った。私にとっては普通のことだから、どこが奥深いのかよく分からない。でも、普通の人からすると奥が深いのかな。



「ああ、そうだ。三篠君、これから共に生活するというのに、まだ名前を言っていなかったな! 私は近藤勇、新選組局長だ!」



ニカッと、自己紹介を始める近藤さん。それに続き、土方さんを筆頭に自己紹介を始めた。一人一人自己紹介をしていくが、三篠はちゃんと名前を覚えることができるだろうか。三篠を見ると、近藤さん達の名前を思い出すかのように順番に言っていく三篠に、私達は驚く。普通ならこんな簡単に名前を覚えることはできないだろうけれど……、妖特有のものなのだろうか。あまりにも驚きが隠せないのか「すげぇな……」と声に出す藤堂さん。



「さて、事を荒立てちまったねえ。すぐに建物を直さないと、街の皆が驚く」
「仕方ねえから、明日新選組全員で直すさ」



ヒノエの言葉に、土方さんがそう言う。そして確認の為に「良いか?」と近藤さんに聞くと、近藤さんは「勿論だ!」と笑って了承した。これは、原因である三篠にしっかり動いてもらわないと。


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