16

つい先程、手に俳句集を持った土方さんがボロボロになりながら帰ってきた。何があったのか聞きたかったけれど、土方さんの眉間の皺と、沖田さんの笑顔が危なかった為聞けなかった。怒った土方さんはとても怖い。



「そういえば、昨日の出来事について説教がまだだったな」
「え、今からですか……?」
「当たり前だ」



腕を組む土方さんに、私は空気を読んで崩していた足を再び正座にする。そして、どんな説教をされるのかと怯える。しかし、「その前に、その黒猫は何なんだ?」と土方さんを聞かれた。ヒノエの説明に困り、「えっと……」と声を出す。なんて説明すれば良いかな……。「実は妖なんです」なんて言った暁にはいよいよ新選組を追い出されるかもしれないし、妥当なのは理由は……。



「出て行った時、独りでいるのが寂しくて、この黒猫が寄ってきてくれたんです。そしたら、何故か懐いちゃって。その、飼っても良いですか……?」



控え目に聞く私。土方さんは呆れたように溜息をついて「近藤さん、どうする?」と聞いた。近藤さんは「うーん……」としばらく悩んだが、すぐにニカッと人の良い笑顔で、「勿論だ!」と言ってくれた。よ、良かった……。ヒノエが居ないと私何もできないんだよね。……そう思ったらなんか自分の無能さに悲しくなってきたな……。今度、斎藤さん辺りに剣術教えてもらおう。守ってもらってばっかりは良くないよね、自分自身が強くならないと。



「名前は、なんていうんだい?」
「あ、”ヒノエ”です」



井上さんの言葉に、そう答える。すると、井上さんは「ヒノエか。良い名前だね」と言い、ヒノエの頭を撫でる。ヒノエは嬉しいのか、「ニャア」と鳴き、ゴロゴロと喉を鳴らした。井上さんとヒノエに和んでいると、「話を戻すぞ」と土方さんを言われ、「あ、はい……」と渋々ながらも土方さんに向き直る。どうかお手柔らかにお願いします、土方さん。



「テメェなァ、何があったか知らねえが、もう出ていこうとすんじゃねえぞ。俺達がどれだけ心配して、どれだけ探したと思ってやがる」
「……ごめんなさい」



土方さんの説教はもっと、こう、いかにも怒ってるって感じで説教されると思っていた。けれど、私の予想とは違い、呆れながらの説教。しかも余程心配してくれた様子。私は謝りつつも、何故か笑ってしまった。土方さんが眉間に皺を寄せながら「何笑ってんだ」と言った。
お菊さん達以外に、心配されたの此処だけだったから、つい。
そう笑うと、土方さんに頭をガシガシと乱暴に撫でられた。吃驚して土方さんを見る。土方さんは、何だか悲しそうな表情をしていた。



「お前はもう、一人じゃねえよ。だから、何もかも抱え込もうとするな」



そう言って、悲しそうに微笑む土方さん。私はなんだか胸を締め付けられるような感覚がした。それと同時に、涙が出そうになった。でも、また心配させたくないから必死に堪える。……そして、



「……私、皆さんに隠していたことがあります」



俯きながらではあるけど、ちゃんとそう言った。斎藤さんが、少し眉間に皺を寄せながら「まさか、あの事を?」と聞く。私はその問いに「はい」と頷いた。斎藤さんは何か言いたげな表情をしていたけれど、私はすぐに土方さんへと顔を向ける。大丈夫、この人達なら大丈夫、きっと。「あの事?」と首を傾げる近藤さんに、「実は……」と口を開く。




 ***




全てを話した。
小さい頃から妖が見えること。今まで起きたこと。斉藤さんや沖田さんに憑いていた妖のこと。黒猫の姿になっている、本来妖であるヒノエのこと。……全て、声が震えながらも話した。
「今まで黙っていてごめんなさい」と謝り、私は俯く。少し震える手を拳を作って力を入れて誤魔化す。こんな私を、皆は快く受け入れてくれるだろうか。土方さんが近藤さんに視線を向けると、近藤さんは頷き、私の前へと来た。



「伊織君、」
「は、はい……」



ああ、どうしよう。声が、体が震える。近藤さんの口から出るのは私を罵る言葉なのか、私を心配してくれる言葉なのか……。



「総司や、斉藤君を助けてくれてありがとう」



穏やかな笑みで、そう言われた。私は「えっ」と思いつつ、俯かせていた顔をあげて近藤さんを見る。近藤さんは、初めて会った時のように太陽のように優しく微笑んでいた。その笑顔を見て、何故かひどく安心するのを感じる。どうして、私にお礼を……?



「君に妖を見る力がなかったら、二人は今頃この場には居なかったと思う。恐らく、私も」



私の頭を優しく撫でてくれる近藤さん。良かった、嫌われていない。近藤さんは、私のことを受け入れてくれた。「君にはこれからも此処で皆を守ってもらいたい。良いかな?」と言う近藤さんに「は、はいっ!」と驚きながらも頷く。妖から、私が皆を守る。そうすることで、私は皆の恩に報いることが出来るだろうか。



「橘君が勇気を出して話してくれたのなら、こちらも隠していることを話さなければなりませんね」



ニコリ、と微笑んで言う山南さん。土方さんは山南さんの言葉に「……ああ、そうだな」と深刻そうに答えた。「俺達には、誰にも知られちゃいけねえ秘密がある」と言う土方さんの言葉に、私の背筋は自然とピンと伸びた。


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