15

あれから着替えて、洗濯を始めた。思ったよりも洗濯物が多く驚いたが、「大変だから」と隊士の人が何人か手伝ってくれたのは幸いだった。おかげで思ったよりも早く洗濯を終えることが出来た。隊士の人達にお礼を言うと、「手伝うからまた呼んでくれ」と言ってくれて嬉しかった。ありがたい。
部屋へ戻ると、お皿に乗せられる状態で三色団子が一本置いてあった。それから、そのそばには一枚の小さな紙も。私とヒノエは「なんだろうね?」「さあ?」と会話をする。とりあえず折ってある紙を広げて、書かれている文をヒノエと一緒に読む。



――…助けてくれてありがとう。団子はお礼ね。 沖田総司



沖田さんからの文だ。私が散歩している間に置いて行ってくれたんだろう。文まで書いてくれたんだ。最初は怖い印象しかなかったけれど、今なら沖田さんの優しさが分かる。再び沖田さんの字を見て、自然と頬が緩むのを感じる。



「……なーに笑ってんだい」
「なんか、嬉しくて」
「よく分からない子だね。こんな文一枚でニコニコするなんて」
「それだけ嬉しいの。ヒノエ、団子食べる?」



「はい」と団子を差し出す私。ヒノエはじっと団子を見つめ、次に私を見上げる。「ひとつだけ頂くよ」と言うヒノエは”仕方なく”という感じだが、表情は嬉しそうだ。ガブッ、と団子にかぶりつくヒノエ。団子から出ている棒を猫の両手で必死に食べている姿が可愛らしい。「美味しい?」と聞けば「なかなか」と言われた。本当は凄く美味しいくせに、笑いつつ、私も団子を食べた。うん、美味しい。猫姿のヒノエの頭を撫でつつ、もう一個の団子を口に含む。



――スパァンッ!
「橘ーッ!」
「っむぐ!? っげほ、げほっ!」



いきなり勢いよく部屋の障子が開く音が間近で聞こえ、私は思わずむせる。息を整えながら声のした方を見ると、鬼の形相をした土方さんが立っていた。え、何怖い。思わず引いていると、ガシッ!、と腕を掴まれて無理矢理立たされる。そのままどこかに連れて行かれる。



「ひ、土方さん!? どうかしたんですか!?」
「うるせえ! 黙ってついてこい!」



何故かは分からないが、土方さんは大層御立腹のようだ。私は何かした覚えはないけれど、もしかして知らずのうちに土方さんを怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。……あ、洗濯物に汚れでもついてたのかな……。




 ***




連れてこられたのは近藤さんや幹部の人達がいる居間だった。いつも一緒にいそうな龍はいないみたいだ。そして私は今、何故か怒っている土方さんの前で正座をさせられている。



「ひ、土方さん……?」
「ああん?」



恐る恐る土方さんに声をかけるが、睨みつけられてしまった。怒られている理由が分からず、土方さんの顔に「ヒィッ!」と悲鳴を上げる。その瞬間沖田さんが吹いた。酷い。



「あ、あの、私、悪いことしたなら謝りますから……、だから、どうか捨てないでください!」



泣きそうになりつつ、私は身を乗り出してそう必死に言った。私の言葉に、土方さんは「捨てる? なんのことだ?」と逆に聞いてきた。そのことに、私は「えっ」と間抜けな声を出す。何か理由があって私を捨てようとしてるのでは、と思ったけれど、どうやら違うみたいだ。良かった。



「総司から聞いたぞ。お前、俺の俳句集持ってんだろ」



……俳句集……?
まさか土方さんの言葉から「俳句集」なんて言葉が出てくるとは思わなくて、ちょっと固まってしまった。



「俳句好きなんですか?」
「……お前じゃねえのか?」
「え?」



土方さんの言っている意味が分からず、聞き返してしまう。キョトンとした私とは反対に、土方さんは俯きながら何故かわなわなと震えていた。そして、沖田さんへと顔を向ける。その表情は先程よりも鬼のようで、私は再び悲鳴を上げた。



「総司ィィィイイ!」
「あっはは、バレちゃいましたかー」



ケラケラと笑いながら逃げる沖田さんと、鬼の形相で追いかける土方さん。一瞬のことで頭がついていけず、ポカン、と走って行ってしまう二人の背中を見る。状況が掴めない。唖然としていると、「悪ぃな、巻き込んじまって」と原田さんが苦笑気味に私に謝る。私は唖然としていたが、原田さんの言葉にハッとし、慌てて「いえ」と言った。



「実はな、総司が土方さんの俳句集を盗んでな。それをお前が持ってるって嘘言っちまったんだ」
「あ……、それで私、怒られてたんですか……」
「ああ。本当ごめんな?」
「いえ」



なんだ、そういうことだったのか。捨てられなくて、良かった。なんだかホッとした。



「それから、さっきお前”捨てないで”って言ってたけど……」
「あっ」



藤堂さんの言葉に、私は「しまった」と思う。あの言葉、此処にいる全員が聞いてしまっている。私は居心地の悪さを感じ、顔を俯かせる。新選組の人達が酷い人達じゃないって言うのは分かってるんだけど、どうしても不安だった。でも、本人達からすれば気分を害することだ。



「俺達は、お前を捨てたりしないからな。ちゃんと覚えとけよ?」



藤堂さんにしては珍しく、真剣な顔でそう言った。そして、優しく私の頭を撫でてくれる。不思議と安心できる。その事に、私は頬が緩むのを感じた。素直に「はいっ!」と私が笑った瞬間、何故か斎藤さんと、この場にいない沖田さんと土方さんを除いた全員が驚愕の表情をした。



「は、初めて伊織ちゃんが笑った!?」
「これは珍しい……」



永倉さんと山南さんが言う。あ……、そういえば、皆に笑顔を見せたのはこれで初めてかもしれない。だとしたら、こんなに驚くのも無理は無い。



「俺は何度も見たが」



此処で斎藤さんの爆弾発言。斎藤さんの言葉に、藤堂さんが食いつく。「ズルイ! 俺も伊織と仲良くしたいのに!」と騒ぐ藤堂さんに、私は嬉しくなりながらも焦る。言われてる当の本人である斎藤さんは相変わらず無表情で、藤堂さんに「騒がしいぞ」と言っている。



「僕も見たけどね」



そう言って私の肩を抱く沖田さん。思わず吃驚して声にならない叫びをあげてしまった。いつの間に戻ってきたんですか。私に対する態度が明らかに昨日とは違い、「どうしちまったんだよ」と唖然としながら言う永倉さん。「今は仲良しだよね?」と沖田さんに笑顔で聞かれ、「そ、そうですね」と言いつつ、目線を逸らす。この人よく分からない。



「ははっ、仲良くなってくれて、俺は嬉しいぞ」



正直笑ってる場合じゃないです、近藤さん。
その後、何故沖田さんと仲良くなったのか、藤堂さん、原田さん、永倉さんに散々聞かれた。が、妖のことを言えるはずもなく、笑って誤魔化した。納得はしてもらえなかったけれど、大事にならなくて良かった。


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