13

ある日、僕の夢の中に変な生き物が出てきた。瞬時に分かったんだ。ああ、妖だ、って。その日はちょうど、新選組という名をもらって一日が過ぎたときだった。その妖は不気味なおかめの面をつけた頭の大きな妖だった。僕が額に冷や汗をかきながら相手を睨みつけると、妖は言った。



「いずれ、お前達の前に橘伊織という娘が現れる。そやつの肉は美味だろう、俺に差し出せ」



勿論、僕は反攻した。「嫌だね」って正直に言えば、相手は笑みを浮かべるだけだった。でも、その笑みは意味深で、僕は背筋がヒヤリと冷えた気がした。その日の夢は、それで終わったんだ。起きたとき、僕の額には夢と同じように冷や汗が伝っていて、首に模様があることに気づいた。
昼頃になると、僕は夢のことをすっかり忘れて子供達が待ってる神社へと向かった。「あ、総司……」って、いつも遊んでる子供達の中の一人の女の子が僕に気付き、悲しそうな顔をした。僕が「どうしたの?」って声をかけたら、女の子は涙を流しながら言ったんだ。



「五郎が、急な病で死んじゃったッ……!」



女の子の言葉に、僕は夢の出来事を思い出した。僕が断ったとき、確かにあの妖は不気味に笑っていた。それは、何かを企んでいるとも捉えられる。まさか、あの妖が五郎君を……。
その夜、僕はまたあの妖が出る夢を見た。問い詰めれば、楽しそうに笑いながら「俺が殺した」と言われた。そして、俺に従わなかったらコンドウイサミを殺す、と。こいつならやりかねないと思った僕は、慌てて頷いた。それ以来、あの妖は夢に出てこなくなった。僕のことを”俺の駒”と言ったのは癪だったけど、正直夢に出てくることが無くてホッとした。




 ***




あの夢以来、沖田さんは”橘伊織”という名前を忘れずに、女の子を警戒してきたという。そこに、私が現れ、沖田さんは私を新選組から追い出そうとした。そして、妖が夢に出ても「見ていない」「現れていない」と言おうとしていたのだそうだ。全てを話した沖田さんは「でも、」と言い、諦めたかのように笑みを浮かべ、口を開いた。



「あの妖はもう気づいているだろうね。そしたら、近藤さんは……、」



泣きそうな表情をする沖田さん。その顔はなんだか、親を失くしたくないと駄々をこねる子供のようだ。……その気持ちは、よく分かる。私も、小さい頃はいつもそうだった。両親に構ってもらいたくて、駄々をこねていた。結局、私は”家族”を捨ててしまったけれど。だからなのだろうか、この人を守りたいと思うのは。それに、私も近藤さんを失うのは嫌だ。



「沖田さん、近藤さんを助けましょう。知っている私達にしか出来ません」



私の言葉に、沖田さんは驚く。戸惑いを見せ、「本当に出来るの?」と私に聞く沖田さん。正直、勝算は無いかもしれない。私が扱える術といえば、誰かに妖の姿を見せる術くらいなもの。けど、それを沖田さんに使えば、あるいは。
沖田さんの腰に巻かれているものに手を触れ、術を言う為に口を開く。――我が身を守りし者の目、映させて頂きたく候、と。言い終わった頃には沖田さんの目に妖が見えるようになっているが、この場に妖は居ない為、証明することが出来ない。
呆気に取られている沖田さんの手を掴み、



「行きましょう」



私はそう言った。


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