12

龍、斎藤さん、ヒノエと一緒に新選組の門の前へと立つ。
ヒノエはどうやら私と一緒に居たいようで、私の了承を得ずに着いて来てしまった。門の外から屯所の中を見ると、近藤さんや土方さん達が慌てた様子で何かを話していた。しばらく三人で見ていると、土方さんがふと此方へと顔を向け、驚いた表情をあらわにした。



「橘! 無事だったか!」



そして、私達へと駆け寄って来てくれる。土方さんの言葉を聞いて、近藤さんや原田さん達も此方に駆け付けてくれた。まさか心配してくれているとは思わなくて「えっ」と呟きながら驚いてしまう。「心配させやがってッ! 何処行ってたんだ!」と眉間に皺を寄せ、子供を叱る父親のようなことを言う土方さん。私は、恐る恐る口を開き、疑問に思っていることを聞く。



「心配、してくれたんですか……?」
「何言ってんだよ! 当たり前だろ!?」



私が聞くと、今度は藤堂さんが怒った表情でそう言った。
本当に、心配してくれたのか。ああ、なんだ。此処は、私が思ってたよりずっと、優しくて温かい場所なんだ。……でも、本当のことを言ったら皆はどうなるのかな……。やっぱり、離れて行ってしまうのだろうか。できることなら、龍と斎藤さんみたいに、妖が見える変な私を受け入れてほしいけれど……。



「どうかしたか?」
「あ……」



龍が心配そうに私の顔を覗き込む。無意識に龍と斎藤さんの袖を掴んでいたらしく、私の手は二人の袖へと行っていた。私は慌てて「なんでもない、ごめん」と言いながら手を離す。龍はキョトンとしながら「何かあったら言えよ?」と言ってくれる。その言葉が嬉しくて、私の頬は自然と緩んでいた。



「橘、今日はもう遅えから説教は明日だ」
「は、はい……」
「斎藤か井吹、どっちか橘を部屋に連れて行ってくれ」
「じゃあ俺が!」



土方さんの言葉に、龍が元気良く手を挙げて言う。「行こうぜ、伊織!」と言いながら歩きだしてしまう龍に、私は慌てて近藤さん達に頭を下げ、龍の後ろを追いかける。勿論、黒猫のヒノエと一緒に。

二人が去った後、残った土方達は驚きの表情を隠せずにいた。



「笑ってた、よな?」
「あ、ああ、笑ってた」
「それに、あの黒猫はなんだ?」



唖然としながら、藤堂、永倉、原田がそう言う。だが、その表情は次第に嬉しそうな笑みへと変わって行く。それは、三人の会話を聞いていた土方達も同じことだった。しかし、ただ一人、沖田だけはその様子を複雑そうな表情で見ていた。




 ***




――チュンチュン。
どこからか雀の鳴き声が聞こえる。もう朝なのか、と思うけれど、なかなか目が開かない。でも、あまり寝ていると土方さん辺りに怒られるだろう、と渋々目を開ける。……と、そこには驚くことに、ニコニコと笑った沖田さんの顔があった。手は沖田さんによって拘束されているようで、動かない。……これは、一体どういう状況……?



「なんだ、起きちゃったんだ」



まるで当たり前のように言う沖田さん。何だコレは。話がついていけない。「退いてもらっても、良いですか?」と聞いても「君が此処から居なくなるのなら良いよ?」と返されてしまった。相変わらずニコニコとしている。何を考えているのか分からない彼に怖気ついていると、沖田さんは呆気なく私の上から退いた。



「ごめんごめん、ちょっと驚かせたかっただけ」



沖田さんは笑いながらそう言った。まだ寝ぼけてはいるが、上半身を起こして沖田さんを見る。何か用があって私の部屋に来たはず。用を聞きたかったが、最後に会ったのが「出て行け」と言われたあの時だから、私から話かけるのは勇気がいる。戸惑っていると、「この前のこと、ごめん」と頭を下げられて謝られた。
え、え!?
沖田さんは頭を下げたまま上げようとしない。い、一体何があったの? あたふたしていると、沖田さんの首に不思議な模様があることに気づいた。どこかで見たことがあるような……。



「その、首の模様……」



私の言葉に、沖田さんは首の模様を隠すように手を当て、顔を上げる。その表情は罰が悪そうな、なんというか、知られたくなかったのではないか、という顔だ。不思議に思いながらも、あの模様がなんだったのか過去の記憶を巡らせる。
…………え、あ……、あの模様ってまさか……。
沖田さんの手を退けて、もう一度模様を見る。沖田さんは私の行動に驚き、「ちょ、ちょっと」と動揺した。そうだ、間違いない。この模様は……、



「こ、これ、妖につけられたんじゃないですか?」



私の言葉に、沖田さんの目が丸くなる。
「小さい頃、私もつけられたことがあるんです」と正直に言ってしまったのは、この模様をつけられた者は妖の要求に答えなければいけない、という呪いをかけられるのを知っているから。私の時は、私がまだ幼かったからなのか「虫を何匹か持ってこい」との要求だけで済んだが、正直あれだけでも本当にしんどかった。沖田さんが何を要求されたのかは知らないが、事情を説明してもらえれば、協力してどうにかできるかもしれない。



「……実は……、」



小さく話し始めた沖田さんの次の言葉に、私は耳を傾けた。


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