37

昨日、龍に言われた通り、私は貴志達と一緒に合宿所に来た。……来たのは良いが、どうやって入ろうか迷っている。誰かに声をかけようか、大声をあげようか。隣にいる貴志に顔を向けると「緊張しているのか?」と言われてしまった。……当たりです。



「橘……?」



懐かしい声が聞こえ、反射的に私は声のした方を見た。そこには……、――土方さん率いる新選組の人達が居た。私は吃驚しすぎて、石のように固まる。そんな私を正常に戻す為、貴志が「伊織、大丈夫か?」と声をかけてくれた。私は、ハッとした後、私は混乱して合宿所の中へと走る。貴志が「伊織!!?」と私を呼ぶ声が聞こえたが、今はそれどころでは無い。




 ***




「龍!! 千鶴ちゃん!!」



合宿所内で龍と千鶴ちゃんの姿を見つけた私は、二人が他の人達と話しているのにも関わらず名前を呼んだ。急に現れた私に他の皆は驚いているが、龍と千鶴ちゃんは何事かと私に「妖か!!?」「どうしたの!!?」と気遣ってくれる。「ひ、ひじっ!! おき!! さい、と!!」と混乱する私に、「え? え? 肘が大きいサイト?」と聞き返す龍。龍の馬鹿!! 違う!!



「落ち着いて、ゆっくり話してみ?」



私の背中をさすって落ち着かせようとさせてくれる、腕に包帯を巻いた人。私は戸惑いつつも「は、はい」と返事をして深呼吸をする。しばらくすると、なんとか落ち着きを取り戻せた気がする。改めて、千鶴ちゃんが「何かあったの?」と聞いてくる。



「あのね、合宿所の門のところで…――土方さん達に会った」



私がそう言うと、二人は時が止まったかのように、吃驚した表情で固まった。「土方さんが……?」と口に手をあて、涙が出るのを堪えている千鶴。龍も、嬉しそうな表情をしている。



「伊織!! 急に行くなよ!!」



声をかけられ、振り向いたら貴志がニャンコ先生と此方に走ってきていた。その後ろには、やっぱりよく知っている新選組の人達。怒った表情の貴志に慣れていなくて、私は「ご、ごめん」と苦笑しながらも謝った。



「――千鶴!!」
「土方さんっ……!!」



土方さんが千鶴の名前を呼ぶ。千鶴は土方さんの顔を確認すると、泣きそうになりながら土方さんの胸へと飛び付いた。土方さんは、よろけながらも千鶴を受け止めて抱きしめた。抱き合う二人はまるで恋仲のようで、……もしかしたら生前は恋仲だったのかな。



「伊織が生きてるっ!!」
「伊織……!!」
「うおおお伊織ちゃぁぁん!!」



土方さん曰く三馬鹿の三人に、私は視線を向ける。土方さんもそうだけれど、他の皆も現代のように髪の毛が短くなっている。私の名前を呼んだ平助さんと左之さんは目に涙を浮かべながら笑い、新八さんはもろ泣きながら私に抱きついた。私は苦笑しながらも「ちゃんと生きてますよ」と言った。



「お久しぶりです、平助さん、左之さん、永倉さん」
「おま、呑気すぎるだろうがよォ!! こっちがどれだけ寂しかったか……!!」



抱きしめられているせいで表情は見えないが、声が震えている為泣いていることが分かる。そして、鼻をすする、ズズッ、という音も聞こえた。ポンポン、とあやすように軽く背を叩くと、私の隣まで来た左之さんに頭を撫でられた。



「新八、そろそろ橘から離れろ」
「そうそう。その鼻から出てる汚い水が伊織ちゃんについちゃったらどうするんですか」



相変わらず無表情の斎藤さんと、ニコニコと笑みを浮かべている沖田さんが永倉さんにそう言う。永倉さんは、沖田さんに反論するため、「っなにをーう!!?」と言いながら私から離れて沖田さんの所へ行ってしまった。まるで生前のようだ、と笑みが零れる。ふと、斎藤さんが貴志に視線を向けながら「橘、そこに居る者は誰だ?」と私に聞く。貴志は慌てて軽く頭を下げた。



「夏目貴志って言って、私を拾ってくれた人です」
「お、おい、拾ったなんて言い方は……」
「夏目、か。俺は斎藤一だ、よろしく頼む」
「あ、よ、宜しくお願いします」



礼儀正しい斎藤さんに、貴志は戸惑いながらも軽く頭を下げる。龍に目を向けると、龍は山崎さんと何やら話をしていた。私は次に、近藤さんへと目を向ける。近藤さんは、初めて会った時のように太陽のような笑みを浮かべてくれた。それが嬉しくて懐かしくて、涙が出そうになる。



「近藤さんっ!!」



私は耐えきれなくなって、思わず近藤さんに飛び込む勢いで抱きつく。近藤さんは「おわっ!!?」と驚きながらも、しっかり私を抱きとめてくれた。近藤さんの胸元に顔をうずめると、落ち着く匂いがする。少し遠くで「あ、近藤さんズルイ!!」と言う沖田さんの声が聞こえた。その言葉に「総司は相変わらず橘君が好きだなあ」とのほほんと返事をする近藤さん。



「橘君、初めて会った時と比べて、随分良い顔をするようになったな」



近藤さんの言葉に、私は「え?」と言いながら顔を上げる。顔を上げた先にある近藤さんは、嬉しそうに微笑んでいた。よく分からないけれど、近藤さんが嬉しそうなら、それで良いかな。



(近藤さん!! 伊織ちゃん!! どっちか変わってください!! by.総司)
(っうおい沖田!! 伊織に変な事すんな!! by.龍之介)


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -