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「――…髪の毛、切っちゃったんだね」
「ああ。この時代じゃ、さすがにあんなに長いのはな……」



私の言葉に、自分の髪の毛に触れ、そう言う龍。確かに、今の時代の男性は一部を除いて短い髪の人ばかり。龍の長い髪が好きだった私にとっては、少し複雑なものだけれど……。



「龍之介先輩って、髪の毛長い時あったんスか!!?」
「ん? ああ、つっても前世の時だけどな」
「えー!!? 見てみたいッス!! どんな感じだったんスか!!?」



ズイッ、と私に顔を近付けて聞く髪の毛がなんとも個性的な男の子。近い顔に私が焦っていると「赤也、俺の親友に顔近づけんな」と、龍がその子を私から引き剥がす。「あかや」という名前なのか。過保護な龍に苦笑しつつも「えっと、長さはお尻くらいまでで、長い位置にひとつに結ってたの。髪の毛は今みたいにボサボサだった」と言う。私の言葉を聞き、龍は「俺、そんなに長かったか?」と首を傾げる。長かったよ、だいぶ。私より長かったし。



「先輩、女みたいッス」



この時代での長い髪の男性は珍しいのか、あかや君がそう言う。すると、龍は「はあっ!!?」と声をあげる。そして「そんなことねぇ!! つか有り得ねぇ!!」「いやいやいや、絶対女ッスよ。長さ的に」と、口喧嘩を初めてしまう龍とあかや君。そんな二人に苦笑しつつ、私は次に、千鶴ちゃんの髪の毛へと目を向けた。今の千鶴ちゃんの髪型は、右下でひとつに結っている。高い位置でひとつに纏めていた髪型も良いけれど、今の髪型も似合っている。



「千鶴ちゃんも、髪型変えたんだね」
「うん。あの髪型だと、どうしても土方さんのこと考えちゃって……」



そう言い、自身の髪の毛に触れて悲しそうに微笑む千鶴ちゃん。どうしてそこで土方さんが出るんだろう、と疑問に思っていると、風間さんが「フン、あの男など忘れれば良いものを」と呟いた。それに対し「……忘れられるわけありません……」と悲しそうな表情をする千鶴。そのことに、風間さんは少しムスッとした表情になっていた。私にはひとつの疑問が頭に浮かんだ。



「千鶴ちゃんって、土方さんのこと好きなの?」
「えっ!!?」



私がそう聞くと、千鶴は林檎のように顔を真っ赤にした。そして「そ、そのっ、」と俯く。なんか、初々しい。でも、この反応からして、千鶴ちゃんが土方さんのことを好きだということは確定した。



「……千鶴、それは本当かい?」
「じっくり、聞きださなければな……?」
「これは、興味深いことを聞いてしまったのぅ」



黒い笑みを浮かべるふんわりとした髪の人、先程まで糸目だったのに開眼しているおかっぱ頭の人、銀髪のツンツンした髪で口元にほくろがあるニヤニヤした人。この三人が千鶴ちゃんに詰め寄る。千鶴ちゃんは「ひっ!!」と悲鳴をあげながら、まるで小動物のように私と風間さんの背中に隠れ、顔だけ覗かせて迫りくる三人の顔を見る。



「すまないけど、そこを退いてくれるかい?」



怖い黒い笑みのまま私に言うふんわりとした髪の人。「えっ、あっ」ときょどりながら後ろに居る千鶴ちゃんに顔を向けると、千鶴ちゃんは目に涙を溜めたまま首を横にふるふると全力で振った。どうしようか困っていると、風間さんが呆れたように「さて、長居は無用だ。俺は帰る」とそう言った。そして、私達に背を向けてスタスタと歩いて行く。……あ、



「風間さん、有難う御座いました!!」



会うのは二回目だというのに、私を援護して逃げ道まで確保してくれていた風間さん。私は感謝の気持ちを込めて、歩き出してしまった風間さんの背中にお礼をぶつける。風間さんは私の言葉を聞いたのか聞いていないのか、気にもせずにスタスタと歩いて行ってしまった。
……じゃあ、



「私達も、そろそろ帰る?」



少し後ろにいる貴志に顔を向け、そう聞く。その瞬間、私に隠れている千鶴ちゃんが「えっ」と呟く。貴志は貴志で「せっかく会えたのに、良いのか?」と心配そうに聞く。しかし、青い帽子をかぶった人が「まあ、大丈夫だろ」と声をかけてくれた。



「俺達は後一週間、八ツ原の寺の近くにある合宿所に居るんだ。会おうと思えば会える」
「八ツ原の寺……、田沼の寺の近くか」



「八ツ原の寺の近くの合宿所」と言われても、私には全然分からない。けど、貴志には分かったようだ。「田沼」というのは誰か分からない為「田沼?」と聞くと、「俺の友人なんだ」と嬉しそうに言う貴志。私も、なんだか嬉しくなった。すると、先程まで後輩と喧嘩していた龍が笑顔で私に話しかけた。



「伊織!! 明日の十四時、絶対合宿所に来い!!」
「え、でも、邪魔になるし……」
「んなもん知るか。俺は、親友のお前ともっと話がしてえんだ」



先程から、龍は私のことを「親友」と言う。龍は気にしていないようだけれど、私にとってはそう言ってくれることがとても嬉しい。嬉しすぎて、満面の笑みになる。「うん、約束する」と頷くと、龍は笑顔で「おう!!」と返事をした。



 ***




その後、龍達と別れ、私達は塔子さんと滋さんが待つ藤原家へと帰った。玄関の戸を開けると、「おかえりなさい」と言ってくれる塔子さんと滋さん。優しく微笑みながら、帰りを歓迎してくれているのが分かる。
私達は勿論、



「「ただいま」」



笑顔でそう言った。ここは、私の帰る場所。


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