35

先程の部屋を出て、別の部屋に来たが、壁に追い詰められてしまった。情け無いことに、足の震えが止まらない。ニャンコ先生は妖の姿になることが出来ないし、ヒノエの毒薬は全て使ってしまったし、武器も道具も持たない俺も何も出来ることがない。……ああ、もう駄目だ。このままでは、的場さんに利用されてしまう……。的場さんの式が俺に触れようと手を伸ばす。



――パァンッ!!



何者かによって、目の前にいる式達の一人が倒された。「ッ!!」と言葉にならない驚きの声を漏らしながら、俺は式を倒した人物に視線を向ける。



「貴志、無事!!?」
「伊織……!!?」



そこには、竹刀を構えつつ俺の心配をしてくれる伊織がいた。俺は驚きながら「ああ」と頷きつつも、悔しさでいっぱいだった。男である俺が、女である伊織に守られている……。本来なら、男である俺が守らなければならないのに。……不甲斐無い……。そんな事を考えていると、伊織が急に酔っ払いのようにユラユラと動き出した。



「な、なんだ……?」
「あれは北辰一刀流の技のひとつさ。ユラユラ動き、隙をつけさせない為の技。あの子は、新選組の連中に剣術を習っていたんだ」



ヒノエの説明に、俺は「そうなのか……」と呟く。伊織が剣術を……、見た目は剣術をやるようには見えないのに。そういえば、初めて会った時にも竹刀で戦おうとしていたな……。そんなことを思い出していると、伊織が動き出した。



「はあああ!!」



ガンッ!! ドッ!!、と勢いよく強く竹刀で戦う伊織。それに続き、後ろに控えていた三篠も人間姿でありながらも体術で式達を倒していく。二人ともあまり無駄のない動きで、伊織に関しては教えてくれた人達の腕が良かったのだな、と思う。



「ほう、少しはできるようだな」



何も出来ずに伊織達が式達を倒していくのを見ていると、金髪で赤い瞳の男性が突然現れた。その瞬間、伊織が「ッ!!? あ、あなたは……!!」と驚く。どうやら、伊織が知っている人らしい。金髪の男性が最後の式を蹴り倒し、伊織を見る。伊織は困惑した表情で金髪の男性を見ている。



「ここから逃げるぞ。厄介なことになる前にな」



窓を開けて、そこから外へ出る金髪の男性。伊織は、ハッと我に返り慌てる。そして、俺の手を引っ張ると男性と同じように外へ出た。ニャンコ先生達の姿を見ると、俺達と同じように窓から外へ出ていた。




 ***




「龍……!!?」



貴志の手を引っ張りながら千鶴達と別れた場所まで逃げると、龍達がまだその場所に居た。私は息を整えつつも、立ち止まった。私に気づいた龍が「伊織!! 無事だったんだな!!」と安心した表情で駆け寄ってきてくれた。私は少し龍を見つめ、とある疑問をぶつけた。



「待っててくれたの……?」



キョトンとしながら聞くと、龍は照れた顔をして「まあ、な……」とそっぽを向いてしまう。そう言ってくれるのが凄く嬉しくて、私の頬は自然と緩んでしまう。千鶴ちゃんも「私も心配したんだからね!!」と安心した表情で言ってくれた。私は龍と千鶴ちゃんの手を、ぎゅっ、と握る。



「ありがとう、二人とも」



心の底から笑顔でそう言うと、二人は太陽のように眩しく微笑んでくれた。ああ、優しい友人を持てて良かった。


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