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「伊織ちゃん、大丈夫かな……?」
「アイツなら大丈夫だ。三篠やヒノエだってついてる」



俺がそう言っても、千鶴はまだ不安そうな顔をしている。……なんか不思議だよな、千鶴って。会ってあまり間もないはずの伊織の心配をするなんてよ…。お人好しか、天然か、馬鹿か……。ま、お人好しなんだろうな。



「龍之介、お前何か知っとるんじゃろ? あの女も、あの男も、今回の事、一体何なんじゃ?」



仁王雅治に鋭い目で見られる。今までのことを見ていたら、この流れを不思議に思うのも無理はない。この際、隠していたって仕方無いか。俺は「あー…」と言葉を呟きつつ、どう説明するのか考える。「前、俺と千鶴が前世の記憶があるって言ったの覚えてるか?」と聞く俺の言葉に、柳が「確か、新選組に居たんだったな」と思い出したように言う。柳の言葉に、俺は「ああ」と頷く。



「伊織も、俺達と同じなんだ」
「あの人も新選組だったんですか!!?」



驚いた表情をしている鳳。それは鳳だけではなく、他の皆もだった。無理もないな。ちなみに、俺達テニス部は他校と仲が良い為、俺と千鶴のことは他校である跡部や手塚達にも話してある。



「……けど、アイツは生まれつき妖が見えるんだ」



俺の言葉に、桃城が「あやかし……、妖怪ッスか?」と首を傾げながら聞く。俺は頷くが、菊丸が驚いた表情で「いやいやいや!! それはいくらなんでも、有り得ないっしょ!!」と否定する。しかし、「実際に俺も見たことがある」と真剣な表情で言う俺に、菊丸は「嘘でしょ」とでも言いたそうな表情になる。けど、何も言ってこない。俺が実際に妖を見たことがあると言っても、あの時は伊織に力を貰って見せてもらった。本当は半信半疑だったが、見えたときには正直びびった。



「ちなみに言うと、伊織の隣に居た三篠って男と、黒猫のヒノエも妖だ」



俺の言葉に、千鶴以外の皆が「ええっ!!?」と声を揃えて驚く。……まあ、伊織は池田屋事件が終わったときに、妖に襲われて死んだんだがな。あの時俺は居なかったが、千鶴は近くにいたと聞いた。助けられなかった事、千鶴が凄い悔んでたのを今でも覚えている。



「なるほど、だから知り合いだったんですか」
「そういえば、まだちゃんと礼を言っていなかったな……」



そう言い納得する柳生と、伊織達が行ってしまったほうを見て言う手塚。俺も、自然と伊織達が行った方を見た。




 ***




「うわあっ……!!」



無理矢理俺を捕まえようとする的場さんの式から逃げる俺とニャンコ先生。たびたび物が投げられ、武器を使われ、必死にそれを避ける。「下級共が!!」とニャンコ先生が式を睨みつけるのを見て、慌てて「ここで妖に戻っちゃ駄目だぞ!!」と釘を刺す。狭い部屋。ニャンコ先生が妖の姿になると、この部屋がニャンコ先生に埋め尽くされてしまう。妖の姿になれないニャンコ先生にとって、この部屋の狭さは痛恨である。だから、今はただ逃げるしかできないのだ。




 ***




「惚れた男の為にわざわざ死に急ぐか……、滑稽だな」



ッ……!!
冷たい声音が俺達を包み込む。思わず、声のした方を見る。そこには、金髪と赤い瞳をもつ男が居た。千鶴がその金髪男を見て「風間さん!!?」と驚いた表情で言い、身構える。そんな千鶴を見て、男が「ククッ」と喉で笑った。



「久しぶりに会ったと言うのに、その反応は傷つくな」
「ッ……き、傷ついているようには見えませんけど……?」



明らかに警戒している千鶴。男の異様な雰囲気を危険だと感じたのか、傍にいる幸村と真田が千鶴を庇うように前に立つ。そんな光景を見て、男は「フン」と鼻を鳴らし、「今日はお前に会いにきたわけではない」と言い放った。そして、本命はあの娘だ、と。”あの娘”というのは伊織のことで間違いないだろう。



「伊織ちゃんのこと、狙ってるんですか……!!?」



珍しく千鶴が声を荒げる。だが、そんな千鶴を無視するかのように、男は伊織達の行ったほうへと足を進める。そのことに「聞いてるんですか!!?」と更に声を荒げる千鶴。あの温厚な千鶴が怒ってる。これは余程の事があったに違いない。



「そう喚くな。俺はあの娘を、橘伊織を助けに行くだけだ」



男が千鶴に、ニヤリ、と笑って再び歩き始める。そんな男を見て唖然とする千鶴。千鶴は何も言えないまま、遠くなっていく男の背中を見続ける。「千鶴、大丈夫か?」と言うジャッカルの気遣いに、弱々しく笑みを浮かべながら「大丈夫」と言う千鶴。あの男と千鶴に、一体何があったのだろうか……。とりあえず今は、伊織の無事を願いのみ。


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