18

朝起きたら、知らない子が隣で寝ていた。しかも縄で縛れつけられている。私は寝ぼけつつも、体を起こしてその子を見つめる。私が昨日寝る時は私しかいなかった。となると、誰かが私が寝ている間に、この子を連れてきたことになる。



「……ん……」



あ、起きた。
目の前にいる子が目を覚まし、寝ぼけた目で私を見る。その瞬間、小声で「え」と言われ固まれてしまった。私より同い年か年下みたいだし、ここは私が声をかけよう。「どうして此処にいるんですか?」と聞けば、「昨日の夜、新選組の方に連れてこられて」と説明される。ってことは……、



「何かしたんですか?」



私がそう聞くと、目の前に居る子が「えっと……」と言いづらそうに目線を逸らした。……もしかして、土方さん達が言ってた”羅刹”と関わったのかもしれない。最近は羅刹についての活動が活発になっていると聞いたし。と、そう考えていたときだった。井上さんが襖を開けて部屋に入ってきた。



「橘君、おはよう」
「おはようございます。あの、井上さん、この子は……?」
「ああ、ちょっとね」



井上さんが苦笑する。この反応……、やっぱり”羅刹”と関係があるのか。



「一緒の部屋にしてしまって申し訳ないね。今他に空いている部屋がなくて、沖田君がこの部屋にしてしまったんだ」
「そんな、井上さんが謝ることでは……」



本当に申し訳なさそうに言う井上さんに、私は慌てる。やったのは沖田さんであって井上さんではないのに……。土方さんと斎藤さんも止めてくれれば良かったのに。……ヒノエが居るから良いと思ったのかな。あ、そういえばヒノエ居なくなってる。ひとつ縛りの子の手以外の縄を解きつつ、私に微笑みながら「橘君はゆっくりしてて良いからね」とそう言う井上さん。ゆっくり、と言われても……。そんな事を考えているうちに、ひとつ縛りの子を連れて井上さんは部屋を出て行ってしまった。



「おや、起きてたのかい」
「あ、ヒノエ」



声がしたかと思えば、猫姿のヒノエが居た。散歩でも行っていたのだろうか。「てっきり、まだ寝てると思ってたんだけどねえ」と言うヒノエに、先程の子のことを説明すると「ふーん」と言って私の膝の上に座った。猫の姿であるからかヒノエは温かい。というより、なんだか若干熱い。……あ、そうだ。



「ヒノエ、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」
「構わないけど……、こんな朝っぱらから?」
「うん。朝餉まで時間があるし」
「分かった。一人で行かせて妖に食われるのは嫌だしねえ」
「ありがと」



頭を撫でながら言うと、ヒノエは照れくさそうに「どういたしまして」と言った。相変わらずヒノエは可愛い。




 ***




着物に着替えて、ヒノエと一緒に門の外に出た。近藤さんと土方さんには「買い物に行って来る」と伝えてきた為、私が新選組を出て行ったときのように探されることはないだろう。「一体どこに行くんだい?」と聞いてくるヒノエに「簪屋に行きたいなあって」と返事をすると、「急に色気づいちまって」と言われた。私用じゃないんだけどね。しばらく歩き続けて、お目当ての簪屋を訪れた。たくさんある綺麗で可愛い簪を見る。私の所持金は少ないし、そんな高価な物は買えない。「んー…」と顎に手を当てながら簪を見ていると、可愛いのを見つけた。



「お気に召されたのありましたかな?」



私がとある簪を見ていると、お店の人が声をかけてきた。私は慌てて「あ、はい」と答える。そして、似合いそうな簪を手に取り、お店の人に「これ、くれませんか?」と言いながら見せる。お店の人は「はい」と言って、簪の値段を言った。私はその値段を出して、簪を受け取る。



「此方の鈴もどうですか?」



お店の人が持ってきたのは顔くらいの大きさがある鈴だった。私は首を傾げて「これは?」と聞く。どうやらこの鈴は、何年か前に落ちてたもので、あまりにも大きかった為思わず拾ってしまったらしい。しかし使い道がないものだから、こうやって訪れた客に聞いているんだとか。こんな大きな鈴って普通ないし、もしかしたら妖の私物か何かだろうか。でも、何年も経っているものだから、私が貰っちゃっても問題ないのかも。



「じゃあ、貰います」
「はい。ありがとうございました」



鈴を受け取って、店を出た。人の顔くらい大きな鈴を持っている為、道を歩く人達にジロジロと見られる。恥ずかしいけれど、我慢しなければ。これで私の買い物は済んだけど、ヒノエは他に用があるだろうか。そう思って猫姿のヒノエに聞くと、ヒノエは首を横に振った。もうやることも無い為、このまま新選組の屯所に戻ることにした。




 ***




新選組に戻ると、門に背を預けて此方を見ている人間姿の三篠が居た。何をしているのだろう、と声をかけようとすると「おかえりなさい」と言ってくれた。まさか出かけていることを知って出迎えてくれたのだろうか。嬉しくなって笑顔で「ただいま」と言うと、三篠も笑みを浮かべてくれた。



「わざわざ来てくれたの?」
「無論。主の身が心配で心配で」
「そっか、ありがと」



三篠の言葉に、私は素直に礼を言った。三篠はその事が珍しかったのか、目を丸くしている。あ、そうだ。二人に渡す物があったんだった。「これからもっとお世話になると思うから、渡したい物があるの」と言いながら、ヒノエには先程買った銀色の簪を、三篠には先程貰った大きな鈴を差し出した。買い物についてきてくれたヒノエは私が買った物を知っている為、心底驚いた表情で私を見る。



「二人に感謝の気持ちを込めて、何かあげたいなあって思ってね」



私の言葉に、ヒノエと三篠はお互いに顔を見合わせて笑った。そして、私へと顔を向ける。



「フッ、お人好しな主だな」
「素直に喜べば良いのに」
「伊織、ありがとね。大切にするよ」
「うん、どういたしまして」



(わ、私も大切にする……。)
(ふふ、照れなくても良いって。)
(余程、人に優しくされたことが無いんだねえ。)


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