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「興味がわいた」という言葉に唖然としていると、妖がボンッと音をたて煙で包まれた。凄い近距離だった為、煙を吸い込んでしまい「ごほっごほっ」とむせてしまう。煙が晴れると、そこには先程の妖ではなく人間が居た。もはや何が何だか理解不能だ。



「改めて……、初めまして、我が主」



肌が少し濃く、髪の長い耳に鈴をつけた見た目二十代の男性が目の前に居る。その男性はニヤリ、と笑って私を見る。私は唖然としてその男性を見る。土方さん達も、突然現れた男性に目を丸くして驚いているようだ。ど、どちら様でしょうか……? 唖然とした私の表情に、「先程、あなたの目の前にいた妖ですよ」とまたもや、ずいっ、と顔を近づけられる。あの妖が、人間の姿になってしまった。しかもさり気なく格好良いし……。って、そうじゃない!! そうじゃないって!! 混乱して何を話したら良いのか分からない。先程まで敵だと思っていた妖が味方になって、しかも人間の姿になって、しかも格好良くて、ってこれは違う。



「どうやら、主は相当混乱しているようだ。ああ、そうだ。主、我が名を考えていただきたい」
「えっ? な、名前……?」
「私には名が無い。だから、主につけてもらいたいのだ」



妖の言葉に、私は助けを求めて土方さん達を見た。けれど、土方さん達も混乱しているようで、私達の会話に入る様子は無い。いきなり名前を付けてもらいたい、と言われても困る。そういえば、昔気に入っていた名前があったような気がするけれど、なんだっただろうか。…………あ、



「”三篠”で、どうかな?」
「ふむ、”三篠”か。良い名だ」



そう言って満足そうに微笑む妖。……じゃなくて、三篠。慣れるのには時間が必要みたいだ。その時、藤堂さんが「ちょ、おい!! ど、どうなってんだ!!?」と私の隣に来た。彼のの言葉に、私と三篠が藤堂さんへと顔を向ける。私が三篠へと顔を向けると、三篠は一歩前に出る。



「私は先程、あの男に憑いてた妖だ。人の姿のほうが都合が良いと思ったんだが、無理があったか?」
「へ? い、いや、そんなことねえけどよ」


なんだか複雑そうな顔をする藤堂さん。小声で「何気に格好良いし……」と言う呟きが私にまで聞こえてしまった。三篠には聞こえなかったようで「何か言ったか?」と聞いたが、藤堂さんは慌てた様子で「な、なんでもねえ!!」と返事をした。藤堂さんと三篠、意外と仲良くなりそうだなあ。そんなことを思っていると、「橘」と土方さんに呼ばれ、土方さんを見る。土方さんは腕を組みながらこちらを見ていた。



「お前がその妖を管理できるっつーんなら文句は言わねえ。だが、もしその妖が俺達の邪魔をしたら、その時は、……容赦なく斬り捨てる」



確かに今味方になったばかりの妖の三篠。私もちゃんと信用したわけではないけれど、これから仲良くしたいし、なんだか複雑だ。「は、い、分かりました」と小さく頷く私。ああ、不自然な頷きになっちゃった。私の心情を察してか、いつになく真面目で真剣な表情をするヒノエが「三篠が暴れた時ゃ私も一緒に止める」と言ってくれた。そして、伊織の居場所を奪わないでくれ、と。そんなヒノエに土方さんは少し驚いた表情をするが、すぐに呆れた顔をして溜息をついた。そして、ぶっきらぼうに頬をポリポリと掻く。



「馬鹿か。伊織は勿論……、ヒノエ、お前も此処が居場所だ」



呆れたようにフッと微笑みながらそう言う土方さん。その言葉を聞き、ヒノエと私は顔を見合わせて笑った。不器用な土方さんが「此処が居場所」だと言ってくれた。私もヒノエも認められている気がして、凄く嬉しい。



「つーか、芹沢さん気絶したまんまで起きねぇなァ。せっかく酒買ってきたっつーのに」


ムスッ、とした表情でそう言う龍。確かに、先程から芹沢さんが起きない。三篠が芹沢さんから離れてから結構経つと思うんだけど……。……あ、まさか……。心当たりがある為、三篠に「芹沢さんに憑いたとき妖力たくさん使った?」と聞くと、「ああ」と頷かれる。やっぱり。



「だったら芹沢さんは三日くらい起きないかもなあ……」



その呟きが山南さんに聞こえたのか、山南さんに「何故ですか?」と聞かれた。私は苦笑しつつも、その問いに答えた。妖が人にとり憑いて、その体で妖力を使うと人の体に負担がかかる。そのせいで何日か眠ったままの状態が続くのもおかしくはない。私の説明に、山南さんは「なるほど」と呟く。そして、その後に「妖も奥深いんですね」と言った。私にとっては普通のことだから、どこが奥深いのかよく分からない。でも、普通の人からすると奥が深いのかな。



「ああ、そうだ。三篠君、これから共に生活するというのに、まだ名前を言っていなかったな!! 私は近藤勇、新選組局長だ!!」



ニカッと、自己紹介を始める近藤さん。それに続き、土方さんを筆頭に自己紹介を始めた。一人一人自己紹介をしていくが、三篠はちゃんと名前を覚えることができるだろうか。三篠を見ると、近藤さん達の名前を思い出すかのように順番に言っていく三篠に、私達は驚く。普通ならこんな簡単に名前を覚えることはできないだろうけれど……、妖特有のものなのだろうか。あまりにも驚きが隠せないのか「すげぇな……」と声に出す藤堂さん。



「さて、事を荒立てちまったねえ。すぐに建物を直さないと、街の皆が驚く」
「……すまない」
「仕方ねぇから、明日新選組全員で直すさ」



ヒノエの言葉に、三篠が素直に謝る。だが、土方さんは意外にも快く許した。そして確認の為に「良いか?」と近藤さんに聞く。近藤さんは「勿論だ!!」と笑って了承した。事が一区切りついたところで、私は三篠に顔を向ける。



「三篠、これから宜しく」



そう言って微笑むと、三篠は今までのような妖しい笑みではなく、穏やかな笑みで「ああ」と言った。私はそのことに驚いたけれど、三篠を笑い合った。新たな仲間が、また一人。


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