15

朝起きると、凄くだるく体の節々が痛かった。熱は無いみたいだ。……だとすると、昨日沖田さんに追いかけ回されたのが原因かだろうか。必死に逃げ回ってもすぐに捕まったけど、ヒノエと斎藤さんに助けてもらった。感謝しなきゃ。



「伊織っ」



散歩がわりにそこら辺を歩いていると、誰かに名前を呼ばれた。後ろを振り返ると、久しぶりに会う龍がニカッと笑って「何日か会えなかったから探してたんだ」と言って近づいてきた。嬉しい、探してくれてたんだ。



「芹沢さんに頼まれて酒買いにいかなきゃなんないんだけどさ、久しぶりに話したいし、一緒についてきてくれないか?」



龍の問いに、私は「今日何か用事あったっけ?」と予定があったかどうか思い出す。しかし、何もない。私は「良いよ」と頷く。すると、龍は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、私の手を掴んで「行くか!!」と歩き出した。いきなり引っ張られたことに慌てたけれど、私も笑顔で歩き出す。




 ***




「これで良し、っと」



買ったお酒を持って店を出る私と龍。芹沢さんが龍に「買え」と言ったお酒は高いお酒で、値段を見ただけで口角が引き攣った。初めて芹沢さんのお使いをした時の龍も、私と同じ顔をしたんだとか。そういえば、今日は珍しくヒノエを見かけていないな。妖の姿になって、友人と何処かに行っているのだろうか。



「帰るか」
「うん」



帰り道、不思議と私達は静かだった。何も会話をしない。それというのも、龍が俯いたまま顔を上げないからだろう。今の龍の雰囲気は、なんというか、ちょっと怖い。気軽に話しかけれない雰囲気だ。行きはたくさん楽しい話をしたのに……、龍、いきなりどうしたんだろう……。気まずそうな表情を浮かべながら「なあ」と私に声をかける龍。私に声をかけた後、龍は何も言わずに俯いてしまった。本当にどうしたんだろう。



「こんな事聞くの、駄目だと思うんだけどさ……、伊織、今まで妖しか信じられなかったんだろ? 妖、好きなのか?」



そういうことか。



「……微妙かな。一緒にいてくれる妖も居るし、私を狙う妖も居る」
「じゃあ、人は?」
「……どうかな。でも、新選組の皆は好き」
「……そうか」



悲しそうな表情をする龍。なんでそんな表情をするのか分からなくて、私はその表情を見て辛くなった。どうしよう、何か言わなきゃ。でも、言葉が何も浮かばない。思わず「ごめん」と謝ってしまうと、龍は苦笑気味に「なんで謝るんだ?」と言った。その顔はやっぱりどことなく悲しそうだった。私はなんだか気まずくなって、今すぐにでもその場から逃げ出したくなった。
その時だ。



「伊織ッ!!」



ヒノエの声が聞こえた。切羽詰った声で、私は驚きながら声のした方を見る。ヒノエは猫の姿で、焦った様子で此方に走ってきていた。「大変なんだ!! 屯所が……!!」と言うヒノエの必死な声。普段落ち着いているヒノエがこうも落ち着きがないと、私も焦ってしまう。ヒノエから話を全部聞いた私は、吃驚しながらも全速力で屯所へ向かった。その後ろには、話を聞いていた龍もついて来る。




 ***




屯所へ行くと、屯所の所々が壊れていた。ヒノエからは「妖が屯所を荒らしている」という話を聞いた。屯所が一部壊れているのも妖の仕業だろう。しかし、キョロキョロと辺りを見渡しても妖の姿はどこにもない。



「伊織!! 龍之介!!」



藤堂さんが私達の存在に気付いたのか、此方に走りながら名前を呼んだ。藤堂さんの頬や腕には、擦り傷ができている。龍が「その傷どうしたんだ!!?」と聞くと、藤堂さんは気まずそうな顔をして私達から視線を逸らした。



「芹沢さんが、急に暴れ出したんだ……」



……芹沢さんが……?
そういえばこの前、芹沢さんがとある旅館を燃やしてしまった事件があったと誰かが話していた。それが関係しているのか、はたまた別の理由があるのか。……そういえば、以前芹沢さんに憑いていた妖がいた。とても妖力の強い、名の知らない妖。もし、その妖が原因だとしたら……、本当にそうだとしたら、あの時妖を放っておいた私に責任がある……。



「……藤堂さん、芹沢さんの居る場所って分かりますか?」
「多分、庭の方。さっきアッチで物音が聞こえたんだ」
「有り難う御座います」



庭にいると聞き、私は藤堂さんにお礼を言って、庭の方へと走り出した。龍と藤堂さんが私の名を呼んだけど、私は無視して走った。今は、芹沢さんを止めることを最優先にしないと、下手したら死者が出るかもしれない。




 ***




庭に行くと、近藤さんや土方さん達が居た。でも、唯一、先程出くわした藤堂さんと、原田さんと永倉さんが居なかった。芹沢さんは庭の大きな岩に座り、狂ったように笑っていた。



「橘!! 帰ってきてたのか!!」



土方さんの言葉に周りの皆が私に視線をうつす。私は芹沢さんの背後に居る妖を見て、冷や汗を出した。とても強い妖力に殺気……、震えが止まらない……。背筋がゾワッと寒くなってるのを感じ、気を紛らわすように芹沢さんの背後にいる妖を睨む。



「だ、大丈夫か、橘君!? 顔が青ざめているぞ!?」
「それに、震えも……」



心配してくれる近藤さんと山南さんの言葉に、恐怖で返事ができない。本当なら「大丈夫」と言いたいのに。そういえば、この妖、前より大きくなっている気がする。もしかして、芹沢さんの生気を吸い取って大きくなったのだろうか。そう考えていると、妖が私を見た。



≪ああ、いつぞやの、妖の見えるお嬢さん。……何か用ですかな?≫



ニヤリ、と笑いながら私を馬鹿にするような言い方をする妖。私は思わず、少し後ずさってしまった。震えが、止まらない。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -