11

近藤さんがまだ生きているかどうかは分からない。もし近藤さんが誰かと一緒に居たら、その一緒に居る人も殺されてしまっているかもしれない。それでも、私達は少しの可能性を捨てることは出来ないようだ。



「伊織!!」



縁側を走っている途中、黒猫姿のヒノエが私の隣に現れた。私達の隣を平行して走りながら「妖の匂いがするよ。何か知ってるんだろう?」と言うヒノエに、「うん」と頷く。事情を説明すると、ヒノエは舌打ちをし「面倒なことになったね」と呟いた。平然と猫のヒノエと会話をする私に、沖田さんは「猫が喋ってる!?」と驚いた。



「ヒノエは妖ですが、私に協力してくれるので敵ではありません」
「……そう、それなら良いよ。っていうか君、本当何者?」



それは……。自分のことを話すのをためらう私。そんな私の様子を見た沖田さんは、



「まあ良いよ。今は聞かない。近藤さんが先だからね」



と初めて本当の笑顔で言ってくれた。私はなんだか嬉しくなり、笑顔で「ありがとうございます」とお礼を言った。沖田さんは、私が初めて沖田さんに笑いかけたことを驚いたようで、少し目を丸くしていた。けれど、もうすぐ近藤さんがいる部屋につく為、気を引き締めて再び前を向く。



「近藤さんッ!!」



しばらく走り、スパンッ!!、と勢い良くとある一室の襖を開ける沖田さん。近藤さんが「ど、どうしたんだ!!?」と驚きの声を上げた。部屋の中には近藤さん、の他に土方さんや幹部の人達が居た。それと、何故か龍も。私はすぐさま近藤さんの顔をペタペタと触る。近藤さんは私の行動に吃驚しつつも「ははっ、くすぐったいぞ」と笑った。



「ほ、本物……」



私の言葉に、沖田さんもヒノエも力が抜けたのが、ホッとしてその場に倒れるように座った。近藤さんが「本物?」と首を傾げ、私は慌てて「あ、いや、夢でちょっと」と誤魔化す。近藤さんはあまり気にしていないようで、笑顔で「そうか、元気があってよろしい!!」と言ってくれた。危ない危ない。これでバレたら、本当に危ないことになる。でも、近藤さんが殺されなくて良かった。
安心したのもつかの間、



――スパンッ!!



先程閉じたはずの部屋の襖が、思いっきり開いた。誰もが吃驚してその襖のほうを見る。……そこには、沖田さんが話していた妖の特徴と全く同じの妖が立っていた。当然のように皆さんには見えていないようで、山南さんと永倉さんが「誰もいませんね?」「風か?」と会話する。そして、沖田さんにも見えないわけだが、夢のことを気にしているのか私に目を向けた。



いまの、あやかし?



口パクでそう聞く沖田さん。私は誰にもバレないように頷いた。その瞬間、沖田さんの顔が青ざめた。とりあえず、妖から近藤さんを離さなければ。……でも、逃げ道は妖にふさがられて下手に動けない。どうしようか考えている時、「まさかこれは、」と私に小声で話しかける斎藤さん。妖関係だと分かったのだろう。私は「はい」と静かに頷く。



「ならば、また俺に妖が見えるようにしてくれないか?」
「でも……、」



正直、再び見せるのは気が引ける。けれど、どうしよう。確かにこのままじゃ何もできずに近藤さんが殺されてしまう。困っていると、「私は斎藤に賛成だよ」と黒猫姿のヒノエがそう言った。どうやらあの妖は、ヒノエが脅かしたところで逃げる妖ではないらしい。二人に言われてしまったのなら、そうするしかないと思ってしまう。仕方なく、そっと斎藤さんが首にまいているものに手を添える。



「我が身を守りし者の目、映させて頂きたく候」



私がそう呟き終えると、斎藤さんは妖が居るほうへと目を向ける。妖は既に近藤さんへと歩き出していた。すくっ、と立ち上がる斎藤さん。そして、襖へと歩いて行く。まさか妖と真っ向勝負する気ではないだろうか。それは危ないと思い、私が止めようとした瞬間、斎藤さんが刀で妖を斬った。



≪ギャッ……!!≫



まさか斎藤さんが見えていると思わなかったのか、妖は成すすべもなく斎藤さんに斬られた。そして、そのまま粒子となって消えて行く。妖はまだ意識があるのか、斎藤さんへと顔を向けて「おのれッ……」と憎しみを込めて呟いた。明らかに困惑している皆に、斎藤さんは平然とした表情で口を開いた。



「蜂が部屋に入ろうとしているのを見えましたので、羽根を斬りました」



その言葉に納得したのか、土方さんが「流石だな」と褒め、「ありがとうございます」と言って何事も無かったかのように元の位置に戻って座る斎藤さん。凄い。妖を殺しちゃったけど、斎藤さんは本当に凄い人だ。「ありがとうございます、斎藤さん」と心の中でお礼を言うが、当然斎藤さんには聞こえていない。



「……あ、近藤さん、私そろそろ部屋に戻ります」
「ん? そうか。では、またあとでな」
「はい」



近藤さんに返事をし、ヒノエをつれて軽く頭を下げて部屋を出る。




 ***




近藤さんの件が一件落着し、ずっと縁側を歩いていると、「橘ちゃん!!」と呼び止められた。後ろを振り向くと、沖田さんが居た。「妖は? 近藤さんはもう大丈夫なの?」と聞く沖田さんに、私は沖田さんに妖が見えていなかったことに気づく。そういえばそうだった。



「はい、斎藤さんが斬ってくれたので」
「一君、君と同じように妖が見えるの?」
「いえ、私がそうするようにしたんです。……それより、恐がらないんですね、私のこと」



私の言葉に、沖田さんはキョトンとしながら目をパチパチと瞬きする。そして、可笑しそうに微笑んだ。



「ふふ、確かに驚いたけどね。でも、害はないみたいだし。僕は君にやられるような弱い男じゃないし。君のことを心配してたら埒が明かないよ」



そう言って私の頭を撫でる沖田さん。ちょっとグサッと来る言葉もあったけれど、こうやって沖田さんと自然に会話できるようになれて嬉しい。私は笑って「沖田さん酷い」と言った。




(さて、ヒノエと一緒に散歩でも行こうかな)


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