世界に束縛された | ナノ

答え合わせ

知らない、見たこともない土地に来てしまって、早数時間。
訳も分からず右往左往していた所を、”不審者”として通報されてしまったのは記憶に新しい。
てっきり真選組の誰かが来るのかと思ったけれど、来たのは”海軍”という知らない軍の名前。
この地域では、彼等海軍が警察なのだろう。

必死に説明すれば”センゴク”という人の元に連れて行かれ、そこでも同じ説明をし、挙句の果てには海軍に身を置くことになってしまった。
明らかに私が居た国とは違う風景。
此処は一体どこなのかしら。

あーあ、なんて思いながら、窓から外の風景を見下ろす。
海軍の兵と思われる人達が大勢鍛錬している中で、どこかに慌ただしく走って行く人の姿が見えた。
あれは確か、さっき私を案内してくれた、たしぎさん。



「……良い人ね。見ず知らずの私の為に、あんなに必死に」
「真っ直ぐすぎて馬鹿なだけだろう」
「っ、」



背後から聞こえてきた声に、思わず肩が震えてしまった。
後ろを振り向くと、先程会ったスモーカーさんの姿があった。
彼は開けたままのドアの近くの壁に背中を預け、腕を組んで私を見ている。
その眼光は鋭く、私を良く思っていないことは丸分かり。
もしかしたら隠すこともしていないのかもしれない。



「嫌ですわ、女性の部屋に入るにはまずノックをしないと」



ここで泣いても何も変わらない。
いつのものように笑みを浮かべて皮肉を言う。
てっきり怒鳴られるものと思っていたけれど、彼は葉巻を口にくわえながら「ふー」と煙を口から吐き出し、私をジッと見るだけだった。
困ったわ、何か言ってくれないと私もどうして良いのか分からない。
静かな空気に耐え兼ね、「……あの、何か?」と声をかけると、やっと口を開いてくれた。



「お前、ワノ国から来たんだろう? あの国は今カイドウの支配下、どうやって出国して来た?」



ワノ国……、日本のことよね。
カイドウって一体誰かしら。
徳川家なら分かるけれど、カイドウなんて名前聞いたことないわ。
それに、出国と言っても、私は出国なんてした覚えはないし……。



「あの、私、よく分からなくて……。江戸に、居たはずなんですが……」



困惑しながらも正直に言うと、彼も訳が分からないのか「ああ?」と言いながら首を傾げた。
彼は、私のことをセンゴクさんや他の海兵から何も聞いていないのだろうか。
一応、私の身に起きたことを説明する。
センゴクさん達に言ったこととほぼ同じだけれど。
私の話を聞くうちに、スモーカーさんの眉間の皺はますます深くなっていって、少し不安になってきてしまった。
全てを聞いた彼は、口にくわえていた葉巻を手に取ると、再び白い煙を吐く。



「矛盾があるな。仮に誘拐されたとしても、襲いもしねえ、売りもしねえってなると、誘拐した意味がねえ。記憶を失っているってこたァないか?」



記憶を失っている可能性?
顎に手を当てて記憶を巡らせるけれど、記憶を失うようなことは無かったはず。
私を見て、「いや、悪い。例えそうだとしても本人に分かるはずがねえな」と言うスモーカーさん。
なかなか解決しなさそうな事に、スモーカーさんは頭をガシガシと乱暴に掻く。



「あの、江戸に帰ることは出来ないんでしょうか?」
「言ったろ、ワノ国はカイドウの支配下。そう気軽に行ける場所じゃねえ」



彼の言葉に、「そう、ですか……」としか言葉が出てこなかった。
つまり、帰る術は何も無い、と。
薄々感じてはいたけど、この国は、私が居た場所とは認識が大幅に異なる。
私が知らない、でもスモーカーさんが知っている”カイドウ”という人物。
ワノ国、恐らく私が居た日本という国のことだとは思うけど、私が居た日本は”カイドウ”に支配されているわけじゃない。
……ああ、そうだ、これを聞けば疑問の答えがハッキリとするかもしれない。



「天人って、ご存知ですか?」



私の言葉に、「あまんと?」と眉間の皺を深くさせながら首を傾げるスモーカーさん。
どうやら天人を知らないらしい。
この御時世、天人を知らない人は居ないという程、天人の存在が知れ渡っている。
ということは、此処は私が知っている国、いや、世界ではない可能性が……。
こんな事実、分かりたくなかったけど、



「スモーカーさん、私……、」

≪|≫
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -