◆其の四

「ちょっとアンタ、面貸しな」



後輩達とキャッキャウフフしている久々知君を見て悶えていたところ、鬼の形相で同じくのたまの子にそう言われた。
「いや今忙しいんで」と言ったのだが、そのくのたまは問答無用で私の腕を掴んで引っ張る。
えええええ、とは思うものの、ここで反抗したら面倒になると思い、言葉を飲み込む。
その子に引っ張られるがまま、用具倉庫裏まで来た。



「で、アンタ尾浜君のこと好きなの?」



ぐるっ、と私を振り返るその子。
相変わらず険しい表情でそう聞いてくるその子に、「はっ?」と阿呆な声を出してしまう。
っていうかこの子誰だっけ?
同じくのたまの子だからか見たことあるような顔だけど。



「アンタ最近ずっと尾浜君のことストーカーしてたよね?」
「え、いや、無実ですけど」



私の言葉に、その子は「ああん!?」と般若の如き顔をしながら、ズイッと私に顔を近づける。
その顔に恐怖しながらも「ち、近いです」と言うと、その子は「ゴホンッ」と咳払いをして離れる。
もしかしてこの子、尾浜のことが好きなのかな?



「しらばっくれんじゃないよ、ずっと見てたんだから」
「あのー、私が好きなのは久々知君なんですけどー……」



恐る恐るそう言うと、彼女は目を丸くしながら「えっ?」と言った。
もう一度「私が好きなのは、久々知君です」と言っておく。
すると、彼女は驚きながらも「ご、ごめん……」と私に謝った為、「いえ」と一応返す。



「私、てっきり尾浜君のことが好きなのかと……」
「久々知君以外眼中に無いですね」



私の言葉に、彼女は「良かったあ」と安堵する。
そして、「私、八坂そらっていうの」と自分の名前を言うと「貴女の名前は?」と聞いてきた。
ちか、と名前だけを言うと、八坂は「これからよろしく」と笑顔で言った。
……つか、なんで私さっきから敬語使っちゃってんだ?
八坂は年下かもしれないし、まず私最上級生だからくのたまに敬語使わなくても良いんじゃ。



「私六年生なんだけど、ちかは敬語使ってるから五年生とか四年生辺り?」
「実は私も六年生」



素直な私の言葉に、八坂は「じゃあ何で敬語使ってたの」と笑って言った。
まあ、もうその場のノリだよね。
それにしても、同じくのたまなのに教室とかでは合わないもんなんだなあ。
行儀見習いだと三年生までだけど、くのいち目指すなら四年生からそれぞれ個人の任務があるし。
だからかな、大きくなるにつれて友人が居なくなってくのは。



八坂は「もうすぐで授業あるから行くよ」と言いながら、私の背中を押して歩き出した。

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