◆其の十六

甘味を食べ終わってから、私達はお店を出た。
店内には、まだ尾浜君達と八坂が居たが、なんとか仲良く話せていた為放っておくことにした。
それからは、二人で散歩をしながら話したり、色々なお店を見て回った。
緊張して上手く話せなかっただろうに、優しい久々知君が何回も自分から話しかけてくれた。
気づけば、夕方になってしまっていた。



「今日、凄く楽しかったです。有り難う御座いました」
「こ、こちらこそっ! 凄く楽しかった、です……!」



なんやかんやで、忍術学園の門前まで帰って来てしまった。
もっと一緒に話したいな、なんて思っても、ここまで来てしまったのだから仕方ない。
学園内に入れば、くのたまの私と忍たまの久々知君は会うのが気まずくなる。
こんな時、くのたまと忍たまの確執が煩わしい。
「じゃあ、またね」と言おうと口を開いた時、久々知君が「あの、」と言った。
慌てて口を閉じる。



「忍たまくのたまとか、先輩後輩とか、そんなの関係無く、また会ってくれませんか?」



え? それはどういう……?
唖然としていると、久々知君の目が真剣であることに気づいた。



「学園内でも会えば話したいですし、また一緒に出かけたいですし、えっと、図々しいとは思ってるんですけど……」



話すにつれ、声が小さくなっていく久々知君。
”図々しい”だなんて、私にはその図々しさが何よりも嬉しいのに。
これで終わりだと思っていたのが、久々知君の言葉で会える可能性がぐんと上がった。
これからも仲良くさせてもらえるのだと思うと、嬉しさのあまり発狂しそうだ。
神様仏様、日頃真面目に忍者していた私に最高のプレゼントを用意してくれたのでしょうか。
本当に、本当に、有り難う御座います……!



「も、勿論! それと……、また、会いに行って良いかな?」



慌てて「くのたま長屋って、ほら、罠多いし!」と付け加える。
久々知君は私の言葉に驚いた様子を見せたが、すぐに「お待ちしてます」と笑顔で言ってくれた。
そ、それって、良いってことだよね!?
自分でも分かるほど、一気に頬が緩んで口角が上がった。
任務の時は表情を変えることなんて簡単なのに、久々知君の前だとそうはいかない。
き、消え去れ! 煩悩!



「あ、そうだ! その時は八坂も一緒に良い?」
「……、はい、勿論」



……? 今、なんか間があった、よね?
でも、久々知君の表情は先程から変わらない、笑顔のままだ。
もしかして、八坂が苦手だったりするだろうか。
確かに、ちょっとキツめの性格はしてるけど、ちゃんと話したことはない、はず。
だけど私一人じゃ、変な言動しちゃうかもしれないし……。



「あ、あの、八坂ね、尾浜君が気になってるみたいで、だから一緒に……」
「えっ!? そうなんですか!?」



八坂には悪いが、適当に理由をつけされてもらった。
いや、でも嘘ではないしね? 気になるっていうか、好きだけど。
八坂の事実に余程驚いたのか、久々知君は「知らなかった……」と呟く。
ふと、尾浜君は八坂のことをどう思っているのか気になった。
聞こうとした時、久々知君が「うーん……」と顎に手を当てて唸った。
どうかしたのだろうか。



「そういえば俺、勘右衛門の恋話聞いたことないな……」
「八坂、脈無しかな?」
「どうでしょう……、少なくとも人としては好きみたいですが」



「じゃないと勘右衛門が同席に誘うわけありませんし」と久々知君が言う。
昼間の甘味処についてのことを言っているようだ。
日頃久々知君を見守っていた私は、確かに、と思った。
久々知君の横には大抵尾浜君が居て、話を聞いていると彼はサバサバしているというか、ハッキリしている性格。
少しでも好感を抱いていない限り、普段話さない先輩を誘うことはしないだろう。多分。



「あっ! ごめん、門前で長々と……!」
「いいえ、本当はもっと話したかったんですが……」



もう、暗くなってしまっている。
明日、私は実習があるから、久々知君に話して少し早めに帰ることにしていた。
あああああ実習が無ければなああああ!
かと言って、進路に響くからサボるわけにもいかないしなあ……。



「明日の実習、気を付けて頑張ってくださいね」



久々知君に言われたら、失敗するわけにはいかない。
まあ、お店の人に扮して情報を得るっていうあまり危険ではない任務だけど。
この任務が成功すれば、私はとある城主から内定をもらうことが出来る。
以前からその城主から複数の任務を受けてきたが、これが最後。
そこそこ天下に近く、そこそこ評判の良い城主の勤務先を逃すわけにはいかない。
久々知君の言葉に、「任せて」と笑う。

久々知君の言葉だけで、やる気がこんなに上がるとは。

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