此処は忍たま世界

気が付けば、何処からか聞き慣れた声が聞こえた。この低くいつも聞いていた声は、――お兄ちゃんだ。重たい瞼を無理矢理開ける。まだ寝ていたいけれど、今は現状を把握したい。



「あ、起きたな」
「お姉ちゃんはまだ起きないー…」



目を開けると、お兄ちゃんが私の顔を覗き込んでいたのが見えた。まだぼやける視界を何とかしようと、手でゴシゴシ擦る。先程よりだいぶ視界が良くなった。



「大丈夫か?」



再び、しっかりとお兄ちゃんの顔を見る。うん、この顔は紛れもないお兄ちゃんの顔だ。「んー…」と唸りながら、上半身を起こす。体の下には敷布団、体の上には掛け布団、頭の下には枕があった。となると、私はちゃんとした所で寝かされていた、という事だ。



大暉「気分は大丈夫か?」
紗央璃「うん」



声が擦れる。まあ、起きたばかりだから仕方の無いことだ。辺りを見渡し、此処が結構古びれた家の中であるという事が分かる。私が寝ていた布団の隣には、ぐっすり寝ている金ちゃん。その金ちゃんを心配そうに見ているのは、金ちゃんの弟であるよしき君だ。



紗央璃「…此処どこ?」
大暉「俺達の家、仮だけどな」



”俺達の家”…?
何故、この古びれた木製の家が私達の家なのだろう?ふと、お兄ちゃんとよしき君が着物を着ている事に気づいた。



大暉「良いか、紗央璃。この世界は、俺達が居た平成でもなければ世界でもねぇ」



そう話し始めるお兄ちゃん。その言葉の先、なんとなく分かった気がする。



大暉「俺達は別世界に来ちゃったんだ」



正にトリップ。お兄ちゃんの言葉が、私の考えを確信へと繋げた。となると、お兄ちゃんとよしき君が着ている着物から推測すると、此処は過去の時代だという事になるだろうか。




大暉「俺とよしき君は、昨日この世界に来た。その時、俺達を拾ってくれた大家さんからこの家を貰ったんだ」
紗央璃「……昨日来たってどういうこと?お兄ちゃん、昨日は家に居たよね?」
大暉「え…?お前、いつ来たんだ…?」
紗央璃「えっと、土曜日の18時過ぎくらい」
大暉「……俺達は土曜日の17時くらいだ」




……時間軸のずれ、なのだろうか?私達の世界で1時間経っただけでも、この世界では1日経った。そう考えると、お兄ちゃん達の事も辻褄が合う。



大暉「まあ、良いか。この話、金ちゃんが起きた時にお前から説明してくれ」
紗央璃「ああ、うん」



「で、」と話を続けるお兄ちゃん。




大暉「――どうやら、此処は忍たまの世界らしい」




マジですかい、兄上。
忍たまって事はアレですか、竹谷先輩が居るって事ですか。綾部とか金吾とか、その他諸々居るって事ですか。
私は、少し気になった事をお兄ちゃんに聞いてみる。



紗央璃「なんで忍たま世界って分かんの?」
大暉「昨日出かけた時にな、乱太郎、きり丸、しんベヱの3人組を見かけたんだ」
紗央璃「なるほど」



あの3人組が居るなら、忍たま世界は確定だろう。あんなに個性的な乱太郎達を見間違うはずが無いだろうから。




春佳「…ん……」




隣から声が聞こえた。見てみると、金ちゃんが薄らと目を開けていた。意識が朦朧としているのか、目をパチパチと開け閉めしている。「金ちゃん、」と声を掛けると、「黒さん?」と声に出しながら上半身を起こす金ちゃん。




(ん…?ここ何処…?)
(金ちゃん、実は…――)


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