05


元治元年6月
ポカポカと温かい日差しで、なんだか眠くなる。縁側の柱に体を預けるだけで、もうすぐで寝てしまいそうな勢いだ。だが、必ず沖田さんに「寝ないでよ」と起こされる。「うーん」と唸って拒んでも、頬をペチペチと軽く叩かれて気が散る。



「…………」
「何か言いたいことでもあるのか?」



洗濯ものを洗っている少女が、刀で素振りをしている斎藤さんへと視線を向けている。その視線が気になったのか、斎藤さんは少女へと声をかけた。少女はそのことに「あの、そろそろ父様を捜しに外へ出たいのですが……」と控えめに言うが、斎藤さんは「護衛の余裕がない」とバッサリ切り捨てる。少女は「そうですか……」と弱々しく返事をし、シュンとした。なんだ、あの可愛い生き物。まるで小動物を見ているようだ。



「僕達の巡察に同行してもらう手もあるけどね」
「本当ですか?」
「でも巡察って命がけなんだよ? 最低限、自分の身くらいは自分で守れるようじゃないと」
「わ、私だって護身術くらいなら心得ています!」



ムッとした表情の少女がそう言う。どうやら小太刀の道場にも通っていたらしい。大人しそうな性格をしながらも、結構逞しい行動をしておられる。そのことに沖田さんは少しだけ面白そうに笑みを浮かべた。



「ならば俺が試してやろう。遠慮は無用だ、どこからでも打ち込んで来い」
「でも…――、」
「その腰の小太刀は単なる飾り物か?」
「そ、そんなことありませんっ! でも、刺したら斉藤さんは死んじゃうんですよ!!」



少女の言葉に、沖田さんが「ぶっ」と吹き出した。確かに、少女の今の言葉には驚かされた。まさか、あの斎藤さんを相手に「死んじゃう」と言うとは。これは将来大物になるな。「あははは!! 最高!! 一君に向かって”殺しちゃうかも”って!!」と笑いながら言う沖田さんに、少女は恥ずかしいのか「わ、笑うことないじゃないですか!!」とムキになる。いや、しかし、



「実際、笑える程あなたの言葉は衝撃的でしたよ」
「なっ……、寧さんまで……!!」



私の言葉に、少女は動揺して眉を八の字にする。そのことにクスクス笑みを浮かべていると、斎藤さんが「どうしても刃を使いたくないなら、峰打ちで来い」と少女に言った。少女は斉藤さんの言葉を聞いて、しばらく小太刀に触れる。しかし、覚悟が決まったのか、鞘から小太刀を抜いて構えた。表情は先程のほんわかとした気の抜けそうな顔ではなく、引き締まった顔をしている。



「……お願いします!!」



そう言った少女は、真っ直ぐに斎藤さんへと突っ込んで行く。だが……、




――キィンッ




斎藤さんが少女の刀を己の刀で弾き飛ばし、瞬時に少女の首元へと刀を添えた。あまりの速さに少女は対応する事が出来ず、ただ唖然としている。



「驚いた? 一君の居合は達人だからね。一君が本気だったら、今頃君は死んでるよ」



そう言い、少女の刀を拾って渡す沖田さん。刀を受け取った少女の手は、少し離れている此処から見ても震えているのが分かる。やはり、実戦経験のない少女には刺激が強すぎるようだ。私も初めて斎藤さんの刀の腕を見た時は、ビビって新八さんの後ろに隠れたものだ。



「師を誇れ。お前の剣には曇りが無い。巡察に同行できるよう、俺達から副長に頼んでみよう」



斎藤さんの言葉に、少女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。




 ***




「わあ!! 賑やかだー!!」



外に出て町へ行くと、少女は笑みを浮かべながらあちこちをキョロキョロ見渡している。何か月も外に出れずに屯所内に居たのだ、相当嬉しいのだろう。しかし、沖田さんが「千鶴ちゃんははしゃぎすぎ。巡察だってこと忘れないでね」と叱ると、少女はしょんぼりしながらも「は、はい」と返事をする。うん、良い子。



「では、私は任務の方へ行きますね」
「え……? 寧さん、どこかに行かれるんですか?」
「新八さんに”巡察時に酒を買って来い”と言われてるんです」
「へえ、そうなんですか!」



「では、また後で」と言って隊の列から抜ける。少女は「また後で!」と私に手を振ってくれた。沖田さんは笑みを浮かべるだけだったけれど。全く、沖田さんには少女の素直さを見習ってほしい。……でも素直な沖田さんは、それはそれで気持ち悪いな。




 ***




新八さん行きつけの店へと行き、お酒を買った。これで新八さんに頼まれた酒は確保できた。後は沖田さん達と合流して巡察を行うだけだ。



「こ、こいつ! さっき新選組と一緒だった奴だぞ!!」
「馬鹿者!! 早まるな!!」



何処からか、そんな声が聞こえた。今、新選組って言った、よね……。ということは、新選組が関わっているに違いない。私は声のした方へ全速力で走る。次第に騒ぎの声が大きくなってくる。辺りを見渡しながら沖田さんや少女の姿を探していると、騒ぎが起こっている建物の影に、山崎さんと島田さんの姿あった。私は二人の元に行き、人目に触れないように「山崎さん、島田さん」と呟くように声をかける。



「寧君!」
「これは何の騒ぎですか?」
「一番隊が桝屋へ攻撃を仕掛けました。寧さんは一緒では無かったんですね」
「あ、はい。私は新八さんに頼まれて酒を。……この事、山南さんに説教されそうですね」



私の言葉に、山崎さんと島田さんは複雑そうな顔で頷いた。ん? もしかして、まだ何かあったのだろうか。その理由を知るのは、沖田さんと少女が説教を食らっている時だった。



/

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -