23


副長に解雇された後、私は沖田さんの姉であるみつさんの元へ向かった。みつさんは庄内藩で生活している為、会津からの道なりは意外と近い。が、徒歩ともなれば、道は長い。疲れながらも、私はみつさんの元を目指した。



「――…ごめんください」



「沖田」と書かれた表札。中から誰かの小さな声が聞こえてくる為、留守ではないようだ。私は玄関越しに中へと声をかける。すると、しばらくして中から「はーい」という声が聞こえた。直後、玄関が中から開けられる。



「あら、寧ちゃん!?」
「お久しぶりです、みつさん」



突然訪れた私を見て驚くみつさん。笑みを浮かべて言うと、「大きくなったわねぇ」としみじみ言われた。そして、上から下までジロジロ見られる。少し恥ずかしいけれど、我慢だ。



「すっかり大人の女性になっちゃって。あ、総司は元気にしてる?」
「……そのことなんですが……、」



眉を八の字にし、私は腰に下げていたボロボロの刀を手渡す。刀を受け取るみつさんは、首を傾げながら「これは?」と聞いた。……言いづらいけれど、言わなければならないのだ。



「沖田さんの刀です。……沖田さんは、武士として最期を尽くされました」



私の言葉に、みつさんは「え……?」と弱々しく聞く。助けを求めるかのような目に、私は俯いた唇を噛み締める。私の言葉と様子に、みつさんは、沖田さんが亡くなったことに気づいたようだ。そして、その目からは次第に涙が溢れ、沖田さんの刀を強く抱きしめる。



「っひっく……!! う、うぅっ……!!」
「……ごめんなさい……」



……しばらくして、みつさんは段々と落ち着きを取り戻していった。慰めることもできず、私はずっと立ったまま、泣くみつさんを見ているしかできなかった。普通なら慰めるところだろう。でも、沖田さんを護れなかった私に、みつさんを慰める資格はないのだ。



「……これ……」
「……?」
「総司の刀、寧ちゃんが持ってて」



そう言い、みつさんは受け取った沖田さんの刀を、私へ差し出した。そのことに驚き、私は慌てながら「それは出来ません……!!」と言う。私なんかより、形見として、親族の方に持ってもらったほうが良いに決まってる。



「お願い。私ね、この刀は寧ちゃんが持っているほうが相応しいと思うの」
「そんな……、私はただの小姓ですし……」
「小姓だからよ。貴方はずっと総司に尽くしてくれた。だから、小姓だった寧ちゃんに持っていてほしいのよ」



そう言い、沖田さんの刀を私に押し付けるみつさん。思わず刀を手に取ってしまった。それにより、みつさんは微笑む。私は困惑した表情を出しながらも、みつさんを見る。みつさんの微笑みは、悲しげで儚く、今にも消えてしまいそうだ。私は「何か言わなければ」と、言葉を探す。



「寧ちゃん、今までありがとう」



口を開こうとした瞬間、そう言われ、抱きしめられた。みつさんから漂う匂いは、沖田さんの匂いと同じだ。私は涙が出そうになるのを堪え、みつさんを抱きしめ返した。目を閉じると、なんだか沖田さんに抱きしめられているような感覚がする。でも、あの人は何処にも居ないのだ……。




 ***




明治2年12月 江戸
家の中から外を見ると、雪がゆらゆらと降ってきているのが分かる。寒さのあまり、腕を擦る。息をすると、白い息が出た。戦が終わり、私は男装をやめて女らしく過ごすことにした。自分が来ている女物の着物を見て、改めて男装をしていないんだ、と感じる。



「千鶴、そろそろ昼餉にしましょうかー」
「あ、はい」



縁側で私と同じように空を見ている千鶴に声をかける。千鶴も私同様、女物の着物を着ている。返事をして立ち上がった千鶴は、部屋の中に入って行った。
千鶴と初めて出会って、7回目の冬。もうそんなに経つものか、としみじみ思う。戦が終わり、私の家を訪れた千鶴が、平助さん、山南さん、副長の死を告げた。ちなみに、左之さんと斎藤さんの消息は分からないとのことだった。だが、姿を現さないということは、あの二人ももう居ないのだろう。その報告を受けて以来、私は千鶴と共に生活をすることになった。



「もうすぐで年が明けますね」
「ああ、そういえばそうでしたっけ。神社か寺へお参りに行かないと」
「寧さんは何をお願いするんですか?」
「んー、そうですねぇ……」



昼餉の準備をしながら会話をする私と千鶴。来年は何をお願いしよう。千鶴が無事に一年過ごせますように、と願おうか。



「あ、そういえば、願い事って誰かに話すと叶わなくなるんでしたっけ?」
「まあ。じゃあ、言わないほうが良いんですね」



「寧さんの願い事聞きたかったなぁ」と呟く千鶴。私も少し千鶴の願い事を聞きたかったりするのだが、そう言う事なら仕方ない。ふと、千鶴が言いづらそうに「あの……、」と口を開いた。「なんですか?」と返事をすると、おずおずと私の顔を見た。



「寧さんは、沖田さんと両想いになられたんですよね。……これから先、ずっと沖田さんを想い続けますか…?」



千鶴の言葉に、私は視線を下に落とす。そんな私を見て、千鶴は「す、すみません急に……!!」と慌てて謝った。素直な反応をする千鶴に、私は苦笑しながら「いえ」と首を横に振る。だって、辛いのは私だけじゃなくて、千鶴も一緒だもの。



「私は、今までもこれからも、沖田さんと共に在ります。たとえ沖田さんが居なくなろうとも、その気持ちは一生変わらないでしょう」
「……寧さん……」
「駄目なんですよ、沖田さんじゃなきゃ。沖田さん以外に考えられないんです」



目から流れてくる涙に、思わず笑ってしまう。いつだって、あの人の姿が浮かぶんだ。笑ってる顔も、怒っている顔も、弱々しい顔も。あの人と過ごした日々がとても大切で忘れたくなくて、でも悲しくて……どうすれば良いのか分からない。



「っ……、私もです、寧さんっ……」



私と同じように涙を流す千鶴が、私へと抱きつく。私はそれを受け止め、抱きしめ返した。……しばらく、二人で泣いていた。この想いは、きっと何年経っても変わらないのだろう。それ程、私の中で沖田さんは大きい。
たとえ遠く離れてても、あなたをずっと、愛しています。

≪完≫



/

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -