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慶応4年5月15日
上野寛永寺に立て籠もっていた彰義隊に対し、新政府軍が一斉攻撃を仕掛け激しい戦闘が始まった。一方、左之さんは不知火匡と共に大群の羅刹を相手にした。その際、左之さんは腹部に重症を負い、その後、左之さんと不知火匡の消息は掴めなかった。




 ***




慶応4年5月末 会津 天寧
新選組の指揮を斎藤さんに委ねた副長は、治療のため湯治場へ通うかたわら、近くにあるお寺へ局長のお墓を建立する等していた。
私と沖田さんは、副長と千鶴がどの宿で一晩過ごすか確認をした後、一目のつかない神社の社内に来た。特にする事も無く寝ようとしていると、社の外から誰かの話し声が聞こえた。



「……間違いない、あれは土方だ」
「近くの湯宿に潜伏している」
「よし、報せに戻るぞ」



話しをしていた男達は、話し終えると神社を離れて行ってしまった。話に出てきた”土方”は副長で間違いが無いようだ。となると、副長が襲われてしまう。ふと、沖田さんが自分の刀を見ていることに気づいた。



「沖田さん、行かれるんですね?」



私の言葉に、沖田さんは刀から視線を外し私を見る。その目に曇りは無い。やはり、沖田さんは副長を助けようとしている。



「……止められても、僕は行くよ」
「止めませんよ。貴方が言っても聞かないような人だという事ぐらい、ずっと見てきたから分かります」
「寧ちゃん……」
「その代わり、お供させてください」



私の言葉に、沖田さんは目を丸くして驚く。「何言ってんの……?」と弱々しく言う沖田さん。



「何を言われようが着いていきます。私をお傍にいさせてください」
「……そうだね、寧ちゃんも割と頑固だったね」



そう言う沖田さんは、少し笑っている。そして、「分かった」と短く言った。その言葉に、私は「有難う御座います」と頭を下げる。頭を上げると、沖田さんに抱きしめられた。沖田さんの体は少し震えていて、もうすぐでお別れなんだと実感する。私達に残された時間は、もう間もない。



「寧ちゃん、愛してる」
「私もです、総司さん」



名前を呼ぶのは、最初で最後だ。沖田さんの顔を見ようと顔を上げると、沖田さんが顔を近づけてきた。私達は、最後の接吻をした…――。




 ***




敵が通るであろう道へ来た。この道を通らなければ、副長と千鶴が居る湯治場へ行けない。少しすると、遠くの方から何人もの人影が見えてきた。



「あれですね」
「うん」



10人以上いる敵に対し、此方は総司さんと私しかいない。総司さんは病を抱え、羅刹の寿命も間もない。私は幹部程の腕前ではない。生きて帰れる保証など、微塵も無いのだ。でも私は、最期まで総司さんの側に居たい。



「……っ!! げほっ!! げほっ、げほっ……!!」
「大丈夫ですか……!?」



口に手を当て、激しく咳込む総司さん。慌てて背中を撫でるが……、



「ッ!!」
――ビチャァッ!
「ッ……」



口から大量に血を流す総司さんに、私はどうしようもなく泣きたくなる。本当に、私ができることなんて極僅かなんだ。弱ってきている総司さんは、手が刀を手放さないように白い布を手と刀の柄に巻きつけた。



「行こう。近藤さんが新選組を託した土方さんなら、僕も守らなきゃね……」
「……はい……」



段々と近づいてくる敵達。私達は道を塞ぐように、二人で並んで相手の目の前に立った。いきなりの私達の登場に、動揺する相手。



「そこを退け!! 邪魔立てするなら容赦せぬぞ!!」



そう言い、相手は一斉に私達に斬りかかる。だが、私達は一刀両断で迫りくる相手を斬った。私達に斬りかかろうとした相手達は、少し怯む。



「なっ、何者だ!!?」



「――新選組一番組組長、沖田総司」
「――その小姓、萩野寧」



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