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慶応4年4月 下総流山
五兵衛新田で新入隊士を募り、200名近い大所帯となった新選組は4月20日に下総流山へ陣を移した。斎藤さんは五兵衛新田から市川に向かい、新兵達に新式兵装の訓練をさせた。一方、流山本陣を敵に囲まれた局長や副長達。局長自ら降伏を願い、副長達は局長を残し、流山本陣を後にした……。
4月11日
江戸城は新政府軍に明け渡されることとなった。市川で旧幕府軍と合流した新選組は、宇都宮経由で会津を目指し、斎藤さんは羅刹隊を監督するため隊を率いて先に会津へ向かった。局長が捕縛された後、副長は局長の助命嘆願のために手を尽くしたが……、願いは聞き入れられず、局長の消息も全く分からなかった。


鹿沼宿にて新八さんが副長を務める靖共隊が旧幕府軍に合流した後――


同年4月19日
旧幕府軍は新政府軍に恭順する宇都宮に攻め入った。2倍以上の兵力差で旧幕府軍は宇都宮兵を圧倒したが、城が盾となり戦況は膠着状態に陥った。風間千景と戦った副長は、間一髪のところで新八さんと島田さんに助けられたものの、負傷した土方さんは日光に運ばれ療養することとなった。決死の思いで落とした宇都宮城は、その後あえなく新政府軍に奪い返された。
同年4月25日
捕らえられた局長は、板橋の刑場にて、武士らしく腹も斬らせてもらえず斬首された。




 ***




慶応4年4月末
宇都宮の戦いで負傷した副長は、先行していた新選組の本体と会津でようやく合流した。だが……、



「なんで近藤さんを見殺しにしたんだ!!」



私達新選組の光ともいえる局長が、殺されてしまった。それを聞いた沖田さんは、見るに堪えない程唖然として何も喋らなかった。そして今日、副長を見つけるなり、沖田さんは土方さんの襟を掴んで怒鳴りつけた。



「…………」
「なんとか言えよ!!」
「沖田さん、何してるんですか!!」
「うるさい!!」
「っ……!!」



副長は首元に怪我をしている。首に巻いている包帯から滲む血が理由だ。私は沖田さんの腕を掴んで止めようとするが、怒鳴られ肩を力強く押されてしまう。前方に居る沖田さんを止めようとするあまり、後方に力を入れていなかった。それにより、私は尻餅をついてしまう。



「やめてください!! 土方さんは怪我をしてるんです!!」



その時、千鶴が私達の様子に気づき、沖田さんにそう言った。沖田さんは副長の傷を見て、顔を歪める。怒りで副長の傷に気づかなかったようだ。沖田さんは副長から離れ、私に「ごめん」と謝りつつ私の手首を掴んで立ち上がらせる。そして、私の手首を掴んだまま、その場を去ろうと歩き出す。



「沖田さん!!」



歩き出す沖田さんと私を、千鶴が後ろから追いかけてくる。途中、斎藤さんとすれ違ったのは見間違いじゃないだろう。沖田さんに手首を引っ張られながら、しばらく歩き続けた。だが、千鶴は諦めずに「待ってください! 沖田さん!!」と追いかけてくる。と、その時、急に沖田さんがしゃがみ込んだ。



「ゴホッゴホッ……ッ……!!」
「っ!!」



咳込む沖田さんの背中を、私はいつもしているように撫でる。とても辛そうな沖田さんに、私はこうする事しかできない。



「大丈夫ですか!!?」
「っ来るな!!」



駆け寄ろうとする千鶴を、沖田さんは怒鳴り、手で制する。沖田さんが口元に抑えていた布を離すと、血が大量に付いていた。それを見て、私は視線を逸らす。



「まさか、僕より先に近藤さんが逝ってしまうなんてね……」



そう言う沖田さんの表情はとても悲しそうで、私は俯いた。労咳になり、羅刹になり、局長を失った。そんな沖田さんを、私はちゃんと支えられているだろうか。



「……あの時、敵に包囲されていると分かった時、土方さんは自分が盾になるって言ったんです。だけど、近藤さんは局長命令だと言って、私達を逃がす為に投降して行かれました。土方さんは、なぜ自分だけ生き残ったのかと苦しんでいました……。でも今は、近藤さんから託された新選組を命がけで護っていこうとしているんだと思います」



何故局長が亡くなってしまったのか、その経緯を話した千鶴。その話に、沖田さんはフッと微笑む。



「近藤さんは、昔から面倒見が良い人だったからね。僕が試衛館道場に内弟子として引き取られた時も、生意気だった僕を気にかけてくれた。僕にとって、兄のような人だったよ。その近藤さんと誰より仲が良かったのが誰かさん。我儘で、俺様で、不器用で、自分勝手な人だけど……、今新選組を引っ張っていけるのはあの人だけだ」
「沖田さん……」
「――…でも、僕は許せそうにない」



そう言い、沖田さんは立ち上がろうと足に力を入れる。私は慌てて、沖田さんを支えて立たせる。そして、沖田さんは千鶴を振り返った。



「だから……、土方さんのことは君に任せたよ、千鶴ちゃん」



そう微笑んだ沖田さんは、千鶴の返事も聞かずに歩き出す。フラフラとしたおぼつかない足取りの沖田さん。私は少しでも歩きやすくする為、沖田さんの腰に手を回した。



「大胆だね、寧ちゃん」
「フラついている人が何を言うんですか。支えてる手、放しますよ?」
「それは困る。放されたら転びそうだし」



私達は、宛ても無く道を歩き続けた。



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