第66話


ウエディングドレスの裾を手で上げ、ハイヒールでなんとか歩く。ハイヒールは本当に履き慣れない。時々転びそうになってしまう。食満に言われた場所、正門の近くにある大きな木の下に着いた。だが、そこには既に誰かが居た。後ろ姿しか見えないが、それが誰かなのか私は瞬時に分かった。



「……ハチ……?」



私の声に、目の前の人が振り返って私を見る。その瞬間、私の顔は一気に赤くなった。
タキシードに身を包んだハチ。髪の毛を下の方で結っている。そして、手には色とりどりの花束。いつもと違うその姿に、私は見惚れてしまった。



「小雪さん……?」



私の格好を見た瞬間、ハチの顔も一気に赤くなっていく。お互いにお互いの姿を見て照れているのだ。その事実に、更に顔が赤くなる。



「そ、その、とても良く、似合って、ますっ……!!」
「あ、ありがとう。ハチも、似合ってる……!!」
「ありがとう、ございますっ……」



お互いに軽く俯く。そこから照れて私もハチも、何も話さず沈黙が続く。ハチが素敵すぎて、何も言えない。目を合わせられない。喋ったら、呂律がまわらなくなりそうだ。五年生の輪にハチがいなかったのは、ハチも着替えていたからなんだ。



「「「「――御結婚、おめでとうございますっ!!!!」」」」



突然、複数の声が聞こえた。私とハチは驚いて、声のした方へ顔を向ける。そこには、お父さんやお母さん、お兄ちゃんや太公望殿達、忍たま達、くのたま達や教師陣。忍術学園の関係者がズラリと勢揃いしていた。



「えっ? け、結婚って……?」
「やぁねぇー。小雪と八左ヱ門君の結婚に決まってるじゃない」
「っえ!!?」



嬉しそうに笑うお母さん。だが、その隣に居るお父さんは、既に泣きそうだ。お兄ちゃんも、少し泣きそうになっている。お兄ちゃんはハチを睨みながら「竹谷ァ!! いや、ハチィ!! 小雪を泣かせたら許さないからな!!」と言った。そのことに竹谷はたじろぐものの「は、はい!!」と元気良く返事をする。



「竹谷先輩、お姉ちゃんのこと宜しくお願いします」
「姉上を幸せにしてあげてくださいね」
「もし不幸にするようなら、僕は容赦なく姉さんを奪い返しますから!!」



綾ちゃん、三木、左門。



「小雪さん、ハチを選んでくれて有難う御座います!!」
「頼りないヘタレだけど、見捨てないであげてくださいねっ」
「八左ヱ門が嫌になったら、どうぞ私の元へ」
「三郎、違うだろ!! 小雪さん、ハチ、末永くお幸せに!!」



久々知、尾浜、鉢屋、不破。



「小雪、達者に暮らせよ」
「お似合いだよ、二人ともっ」
「子供出来たら見にくるからな!!」
「二人なら、上手くやっていけるだろう」
「お二人に、幸あらんことを願っております」



太公望殿、三蔵様、悟空、酒呑童子、かぐや。
多くの言葉達に、私は目に涙が浮かぶのが分かった。どうしよう。私、今凄く幸せだ。こんなに多くの人に祝福してもらえて、今まで生きていた中で一番嬉しい。



「そんじゃ、接吻しましょーか!!」
「おっ、良いねぇーっ!!」



きり丸と尾浜の言葉に、私は「ちょ、ちょちょちょっ……!!」と慌てて止めようとする。こんな大勢の中で接吻だなんて、恥ずかしくて死んじゃう。



「小雪さん、」



ハチに名前を呼ばれた。「ん?」と言いつつハチへと顔を向ける。と、唇に何かがあたり、目の前には目を瞑ったハチの顔がドアップにうつった。



「――っ!!?」



思わず驚いて目を丸くする。ハチも恥ずかしいのか、唇と唇が合わさった部分は花束で隠し、皆に見えないようにしている。だが、接吻をしているのがバレバレな為、周囲からは「おおーっ!!」という歓声があがった。ああ、ヤバいくらい好きだ…――。




 ***




五年後。
忍術学園を卒業したハチは、私と二人で同棲することにした。今では彼はフリーのプロ忍だ。名は今はまだそれ程だけれど、これから段々と名が上がることとなるだろう。



「あーぶっ!! うーっ!!」
「んー? 遊びたいのー?」
「じゃあお父さんが遊んでやろうなー!!」



私は今年で23歳。ハチは20歳。実は去年、私とハチの子供を産みました。元気の良い女の子で、お父さんになったハチは娘にデレデレ。娘と一緒に遊ぶハチを見て、思わず頬が緩んでしまう。



「小雪ー、いるー?」
「孫よ、お爺ちゃんが来たぞーっ」
「お父さん、寝てたら起きちゃうぞ」



あ、どうやらお母さん達が来たようだ。
私は慌てて玄関の戸を開ける。そこには、この時代の着物を見に纏ったお父さん、お母さん、お兄ちゃんの三人が居た。その後ろには、太公望殿、酒呑童子、悟空、三蔵様の四人。合計七人に「いらっしゃい」と言うと、皆は「お邪魔します」と言って家に上がった。
私達氷室家は、結局元の世界に戻ることをやめた。そのかわり、この世界で生きていくことを決意したのだ。そして太公望殿達も、暇さえあれば私達の元に来てくれるようになった。



「お、少し大きくなったか?」
「顔が小雪に似てきたな」



家に上がった皆は、一斉に娘の元へ行ってしまう。皆デレデレだ。あの太公望殿や酒呑童子でさえも頬が緩んでいる。子供の可愛さは恐るべきものだ。うちの子本当に可愛い。



「アイツはあんなに親が居て幸せだなあ」
「尚更良い子に育てなきゃね」



蚊帳の外になってしまった私とハチは、お父さん達に囲まれている娘を見て笑みを浮かべる。ふと、ハチの手が私の手に触れた。ハチを見ると、照れくさそうにニカッと笑っていた。



「小雪、愛してる」
「っ……私も、愛してる……!!」



――何年経っても、ハチにはドキドキされっぱなしだ。


‐完‐


 
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