第62話


「小雪さん、大丈夫ですか!!?」
「ごめんごめん、大丈夫」



苦笑しながら言うと、ハチはホッとした表情をあらわにした。「油断せずに行こう」と言った矢先に油断しちゃうなんて、我ながら情けない事この上ない。とりあえず、汚名返上する為に、周りに居る雑魚を倒していく。皆の様子を見ると、所々小さな怪我をしているようだが、目立った怪我は見受けられない。



「うおりゃぁぁあ!!」
「っ!! はあっ……!!」
――ドッ
「ぐあぁっ……!!」



敵も残りわずか。そんな中、「妲己ちゃんを返せ!!」という可愛らしい少女の声が聞こえた。声のした方を見ると、目に涙を溜めている卑弥呼がいるではないか。ということは、卑弥呼は遠呂智側ということだ。



「妲己ちゃんを何処へやったんや!! 酷いことしてへんやろうな!!?」



感情的になる卑弥呼に、私は武器をおろして卑弥呼と向き合う。卑弥呼は私を睨みつけ、今にも襲い掛かってきそうだ。



「妲己は敵側に行かれると厄介だから、私達が居た世界に置いてきた」
「何やて……!!?」
「監禁もしてないし暴力もしてない。無傷の状態だから安心して」



とは言ったものの、卑弥呼が警戒を解く様子は一向に見られない。それどころか、「信じられへん!!」と更に警戒を強めてしまった。どうしたものか。言葉で説得ができない分、信じてもらうことも難しい。



「妲己ちゃんを、返せぇぇぇえ!!!!」



我慢の限界が来たのか、卑弥呼は狂うように怒鳴り、私に向かって走って来た。私は武器を構え、後ろに跳び下がる。すると、すぐに攻撃を仕掛けてきた。そのまま怒りに任せ、「返せ、返せ返せ返せーっ!!」と攻撃を繰り出し続ける卑弥呼。その攻撃を、私は武器で防いでいく。だが、さすがは卑弥呼というべきか、ギリギリで避けるのが精一杯だ。このままじゃ、私の体力が危うい。



「妲己ちゃん、妲己ちゃんっ……!!」



冷や汗をかいていると、卑弥呼の攻撃がだんだんと弱くなっていることに気づいた。卑弥呼の顔を見ると、目からたくさん涙を流している。「妲己ちゃん、妲己ちゃん」と何度も妲己の名前を声に出し涙を流す姿は、敵である私ですら心が痛む。



「…………」



以前、妲己が「守りたい人が遠呂智様だけじゃないなんて、絶対に有り得ない」と言っていた。きっと卑弥呼も妲己と同じなのだろう。妲己が遠呂智しか頼れる人がいないように、卑弥呼にも妲己しか頼れる人がいないのだ。そんな卑弥呼から、私達は妲己を奪った。私達を恨まずにはいられないだろう。



「太公望殿、ちょっとごめん」



太公望殿の返事も聞かず、私は武器の釣竿型宝貝である太公望殿を地面に軽く投げ捨てた。そして、隙を見て卑弥呼の両方の手首を掴む。



「ッ!!? ちょ、何するん……!!?」
「ごめん。こうしなきゃ、まともに話を聞いてもらえないと思って」



私の言葉に「馬鹿にするな!!」と言って暴れる卑弥呼。しかし、私がガッチリ掴んでいる為、振りほどくことが出来ない。卑弥呼が少し痛がっているが、ここは我慢してもらうしかない。



「私達は妲己を傷つけていない。遠呂智を倒したら、貴方に妲己を返すことを約束する」
「……ホンマ……?」
「うん。だから落ち着いて。私達は貴女を傷つけることを目的としていない」



「この通り、今は武器も持ってないし」と卑弥呼から手を放して、掌を見せる。すると、卑弥呼の強張った顔がだんだんと和らいでいく。そして、先程より目から涙が溢れ出てきた。「妲己ちゃん、元気……?」と弱々しく聞いてくる卑弥呼に、私は苦笑しながら「元気すぎて困ってるくらいだよ」と言う。すると、手の甲で目から出る涙を拭きつつ「良かった」と何度も呟く卑弥呼。「私達の味方になってくれる?」と優しく聞くと、何回も小さく頷いた。ああ、良かった。

 
63/68
しおりを挟む
戻るTOP



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -