第61話
ハチを追いかけて全速力で走っていたら、ハチに意外と早く追いついた。そして、涙目になりながら私の慰めを頷きながら聞くハチ。「これ男女逆転してるんじゃないか?」と疑問に持ちながらも、ハチが元気を取り戻してくれた為よしとする。なんだかんだ言いつつ、私はハチに甘いと実感する。……前にもこんな感じのことあったな。
「敵襲!! 敵襲です!!」
いきなり聞こえた声。驚きつつも、ハチと顔を見合わせて太公望殿達の元へ走る。走りながらも、ハチは私に「敵ってまさか、遠呂智でしょうか!!?」と話しかけてきた。私は「可能性高いね」と頷く。
「妖水を奪いに来たのかも」
「でも、妖水は既に無いんですよね」
「うん。だから、この場で遠呂智軍を倒す」
私の言葉に、ハチは何も言わなくなった。どうしたのか、とハチの顔を見てみると、なんだか顔が強張っていた。戦国時代の戦より激しくなるであろうことを見越してのことなのだろうか。ハチはなんだか不安そうな緊張しているような顔をしている。
「大丈夫、負けないから」
「はいっ……!! 絶対に勝ちましょう!!」
しばらく走っていると、前方に太公望達の姿が見えた。私はすかざす「太公望殿!!」と太公望殿の名前を呼ぶ。太公望殿は私へと顔を向けると「遅い」と言った。こんな時でも相変わらずだ、と思いつつ「ごめん」と素直に謝る。「遠呂智が来た。迎え討つぞ」と言う言葉に「おう」と頷く。すると、太公望殿の体が光を放つ。その姿はだんだんと細く光が無くなり、釣竿型宝貝となった。私はそれを手に持ち、空を見上げる。空は曇っていて、雷もゴロゴロと鳴っている。正に最終ボスを倒すステージかのようだ。
「とりあえず外に出ようか。きっと外には、大群を率いた遠呂智がいるだろう」
郭嘉の言葉に、私達は頷いた。
***
「うわあ……」
「予想以上の大群ですね……」
外に出ると、既にお父さんやお母さん、かぐや達が居た。そして、お父さん達の目の前には大量にいる遠呂智軍。その多さに、私達は思わず眉間に皺を寄せる。妲己を忍たま世界に置いてきて良かった。この場に居たら、きっと敵にまわっていたことだろう。
「我に盾突くとは愚かな……、行け」
遠呂智が手を振りかざした。その瞬間、遠呂智軍が私達に向けて走ってくる。「ヤバッ!」と思いつつ、私は武器を構える。
「うおおおお!!」
「せいっ!!」
「ぎあっ……!!」
次々と襲ってくる敵を返り討ちにする。しかし、この数では当分遠呂智の元へ辿り着くことは出来ない。なんとかして遠呂智の元に行きたいが……、考えが何も浮かばない。とりあえず攻撃範囲を広める為、仙術球を地面に設置する。
「綾ちゃん!! 滝!! ちょっと下がってて!!」
爆発に巻き込まれそうな範囲に居る綾ちゃんと滝に声をかける。二人は戸惑いながらも退いてくれた。他に味方が居ないか確かめる為、辺りを見渡す。……よし、大丈夫だ。集まってくる敵の前で、私は釣竿型宝貝の先端を敵に向ける。
「かかったな!!」
――ッドォォオン!!!
設置された仙術球が爆発する。それと同時に、私の元に集まっていた敵が一気に吹っ飛んだ。私の後ろに退いていた綾ちゃんと滝が「おお〜!!」と声を揃えて言い、続けて滝が「流石は小雪さん!!」と目を輝かせる。可愛い奴め。よし、油断せずに行こう。と、その時「小雪さん前!! 危ない!!」という八の声が聞こえた。驚いて前を見ると、遠呂智が私へと鎌を振り下ろしているのが見えた。驚いて硬直してしまう。ま、マズイ、このままじゃ……!! 殺される……!!
――ッキィン!!
金属の音に、ギュッと瞑っていた目を開ける。そこには、たくましい呂布さん大きな背中と、華奢ではあるが力のあるナタの背中があった。呂布さんとナタは遠呂智と武器を交えている。
「油断するな。コイツの相手は俺がやる」
「小雪は下がってて」
「あ、ありがとう……!!」
私がお礼を言うと、呂布さんは「フンッ」と鼻であしらい、遠呂智へ攻撃を仕掛けた。ナタは「どういたしまして」と言い、呂布の援護についた。私は綾ちゃんと滝の腕を引っ張り、三人の激戦から遠ざける。
(隙を見せると死ぬぞ。 by.太公望)
(……そうみたいだね。 by.小雪)